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学生のころ、木工や工芸の授業が好きでした。
頭のなかにある「つくってみたい」を自由に形にする時間。自分のイメージを現実につくる過程は楽しかったし、作品を通じて同級生の新たな一面を知って、会話が生まれることもありました。
ものづくりには、単にものを得るだけではない楽しさが詰まっているように思います。
高知県・佐川町。高知市の西に位置するこの町には、ものづくりを楽しむ施設「さかわ発明ラボ」があります。
ラボには、レーザーカッターをはじめとするデジタル機材が置かれていて、メンバーのサポートを受けながら「つくりたい」を形にすることができます。
また、小中学生向けに開催する「放課後発明クラブ」では、ものづくりを通して、子どもたちの好奇心や発想力を育む機会をつくっています。
今回は地域おこし協力隊として、ラボを運営するメンバーを募集します。
協力隊としての勤務は週4日のため、休みの時間を使って、自分の興味関心を深めることもできる環境です。
ものづくりで人を喜ばせたい。そう思う人が一歩を踏み出すには、ぴったりの場所だと思います。
佐川町へは高知駅から列車で1時間。山、川、畑…と移りゆく景色を眺めているとあっという間に佐川駅に到着。
白壁の酒蔵のある街並みを通り抜けて10分ほど歩くと、役場のすぐそばにさかわ発明ラボを見つけた。
さっそく中に入ってみる。
最初に話を聞いたのは、発明ラボのアドバイザーを務める大道さん。
2019年からさかわ発明ラボの運営に関わってきた大道さん。今年の春に協力隊としての任期を終え、現在はほかの仕事をしながら、発明ラボの運営や、ラボで働く協力隊の活動をサポートしている。
自伐型林業がさかんな佐川町。まちの人が町内産の木材をもっと身近に触れられるようにと、6年前、さかわ発明ラボがつくられた。
「最初は木工が中心でした。ただ、まちのいろんな人にものづくりを身近に感じてもらうには、もっと幅を広げたほうがいいよねって。いまは、木工に限らずものづくり全般に取り組んでいます」
レーザーカッターを使ったレザークラフトや、3Dプリンターでつくったオリジナルのクッキー型など。
そのほかにも、さまざまな素材にイメージを転写できるUVプリンタ、デジタルミシンなど。発明ラボでは「オープンラボ」と呼ばれる日を設けていて、利用者はものづくりに関する高度なデジタル機材を使うこともできる。
ラボメンバーは、利用者の「こんなものをつくりたい」を聞きつつ、イメージを固め、最終的にデータに落とし込んで出力するところまで、二人三脚でサポートする。
もうひとつの軸となる活動が、放課後発明クラブ。デジタル機材だけでなく、プログラミングなどの技術も使って、地域の小中学生がさまざまなものづくりに挑戦している。
「ものづくりって答えがないですよね。『これをつくればいい』っていうものじゃなくて、こうしたら面白い、もっと良くなるってことを考えて、自分自身が納得するまで突き詰めていく世界」
「そういう考え方を身につけた子って、たとえば進路選択のときでも、自分で納得いく道をとことん考えられると思うんです。そんな生きる力を育むには、自分で考えられる余白があるといい。ただのものづくり教室にならないよう、意識しながらカリキュラムをつくっています」
年々、参加希望者は増加していて、定員に対して応募者が上回ることも多くなってきた。オープンラボへも「店を開くのに看板をつくりたい」など、まちの人からの相談が増えつつあるそう。
そしてこの1年で力を入れているのは、町内5地区への出張ワークショップ。まだラボに足を運んだことがない人にも、ものづくりを楽しんでもらえるような企画を実施している。
つい先日開いたのは、草木染めのワークショップ。玉ねぎの皮やヒノキの皮など身近にある植物と、ラボのレーザーカッターでつくった染め型を使って、オリジナルの作品をつくった。
「草木染めが得意なラボメンバーが企画しました。佐川町は植物学者の牧野富太郎博士が生まれた場所で、植物に関心のある方が多いんです」
ワークショップは盛況のうちに終了。今後の出張イベントでは、隊員の得意や「やってみたい」と掛け合わせた企画をどんどん仕掛けていきたいと考えているそう。
「佐川町の地域おこし協力隊って週4日勤務だから、自分がなにをしたいのか、研究する時間をつくりやすいと思うんです」
加えていま、佐川町では、道の駅や図書館、おもちゃ美術館など、まちの拠点を新たにつくろうとしているところ。来年の連続テレビ小説の舞台に選ばれたこともあり、観光にも力を入れていきたいと考えている。
ラボの卒業生のなかには、任期中に取得した1級建築士の資格を活かして、道の駅の設計に関わった人もいるのだとか。
現役メンバーも、美術館のコンテンツ開発や道の駅の商品開発など、自分の関心と重ね合わせながら取り組んでいる。やりたいことがあればどんどん実践的に関わっていける、貴重な機会だと思う。
「僕が佐川町に来たのは、『佐川町には余白がまだまだあるから、やりたいこといくらでもできるよ』って言葉に惹かれたからなんです。まだまだ佐川には余白がある。ここ3~5年くらいがチャンスだと思います」
「新しく加わる人はぜひ、発明ラボを踏み台にして仕事をつくっていってほしい」と、大道さん。
ラボの運営と並行して、まさに自分の仕事づくりに挑戦しているのが、3年目の松田さん。
和歌山県出身の松田さん。映画やテレビの舞台美術を制作する会社に勤めたのち、「もっと自由にものづくりをしてみたい」と、佐川町へやって来た。
「ぜひお見せしたいと思って」と、カバンから取り出したのは革のコインケース。
「実はこの黄色の部分、たぬきからつくったレザーなんです」
たぬき! 鹿や猪は聞いたことあるけれど、はじめて聞いた。
「地域の人との話で、狩猟した獣がそのまま山に放置されていることを聞いて、もったいないと思っていて。ジビエ肉に加工してもいいけど、ものづくりでなにかできることがあればって考えていました」
「同時に、ラボのレーザーカッターでどんな素材を加工できるか実験していたんです。レザーも加工できると知って、これだ!と。自分のなかで繋がった感覚がありました」
独学でなめしの技術を身につけるところから始め、ようやく形になってきたと松田さん。さらなる技術の向上とあわせて、佐川町らしさを出せないか、試行錯誤しているところ。
レザーをつくることで害獣駆除を促進できれば、佐川町の農林業を守ることにもつながる。ほかにも、レザーを使ったものづくり教室を開いて、高齢者の認知症予防に役立てたいというアイデアもあるそう。
自分の「やってみたい」と、どうしたらまちのためになるだろう?という視点と。両方を意識しつつ、ラボを足がかりに活動を広げてきた。
ただ、最初からラボの機材を自在に扱えたわけではなかった。
「パソコンも得意じゃなくて…(笑)。先輩メンバーの力を借りながら使い方を学んできました。操作自体はそんなにむずかしくないけれど、手書きのイメージからデータをつくるのはなかなか大変。もう、場数を踏んで身に着けるのみです」
隊員はまず1年、オープンラボも放課後発明クラブの活動も一通り経験する。機材の扱いを覚えるなかで、自身が興味のある活動に軸を据えていく。
ラボメンバーの得意分野は少しずつ異なるそう。「その掛け合わせが楽しいんです」と、松田さん。
印象に残っている仕事を聞くと、まちの人から相談を受けたときのことを話してくれた。
「僕の暮らす尾川地区に、尾川城ってお城の跡地があって。知る人ぞ知る見どころなんですけど、ここへの案内板をつくりたいと。役場には言いづらいけれど、同じ地区に住んでる僕になら頼みやすいってことで、相談してくれたんです」
せっかくなら、印象に残る看板をつくりたい。
「僕はデザインが得意というわけではないので、デザインが得意なメンバーと一緒にデザインを考えて、僕は施工を担当して。これだ!って思うのができました」
「僕だけだとなかなかここまで辿りつけなかったけれど、いろんな得意をもったメンバーがいるからこそ、ものづくりの幅が広がるように感じますね」
地域の声に応えていくことは、ラボへの関心にもつながるし、個人への信頼にもつながっていく。
「ものはつくれないけど、ものづくりに関わりたいって人も学んでいける環境じゃないかな。逆に、ものづくりのノウハウがある人が来ても楽しいと思います。機材の可能性をどんどん追求してほしいですね」
最後に話を聞いたのは、2年目の高島さん。
放課後発明クラブの運営を担当しつつ、専門学校で学んだマーケティングの知識を活かして広報も務めている。
ラボで最年少の22歳。佐川町へは20歳のときやってきた。
「高校生のとき、一人旅で高知を訪れて。仁淀川を見たときに、将来はここに住もうって、血が騒いだんです。もともと東京出身で田舎暮らしに興味もあって。卒業したらすぐ高知に行けるよう、準備を進めていました」
仁淀川流域で移住先を探していたとき、出会ったのが佐川町だった。
「佐川町は移住者の数が圧倒的に多いというのが、なにより大きくて。一人でぽつんと来ても、相談できる人がいる安心感がありました。あとはまだ車を持っていなかったので、車がなくても生活できるのはとても大きかったですね」
町にはJRの駅が5つあり、地区によってはスーパーなどへのアクセスも容易で、車を持たないまま3年を過ごす人もいるのだとか。
町内に5つある地区も、人付き合いの距離感はさまざま。どっぷりとした付き合いを重視する地域もあれば、地区の集まりは年数回というところも。隊員が希望するライフスタイルにあわせて暮らしの場所を選べるのも、まちの魅力だと思う。
「まちの人もすごく面白いんですよ。スポーツ吹き矢をやっているおんちゃんがいたり、ちんどん屋がいたり、林業しながらものづくりする人がいたり…」
「それぞれが楽しみを持っているからこそ、お互いを面白がる雰囲気があるというか。発明ラボとしても、そんな人たちともっと関わっていけたらと思っています」
高島さんは、どんな人と働きたいですか?
「不便さを楽しめるというか、臨機応変に対応していける人ですかね。広報の仕事は私ともう一人でやっているんですけど、はじめてのことも多くて、やりながら学ぶことの繰り返しで」
「一緒に広報をやってみたいって人が来てくれたらうれしいですし、ラボメンバーの意見を客観的に整理してまとめていく人に加わってもらってもうれしい。ほかにいないので(笑)。どんな人にしても、お話ししながら役割をつくっていけたらと思います」
佐川町のみなさんは、楽しそうに、そして誇らしげに、仕事や暮らしのことを話すのが印象的でした。
よそものもいきいき暮らしていける、そんな関わりしろがここにはあるんだと思います。
(2022/8/9取材 阿部夏海)
※取材時はマスクを外していただきました。