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衰退の象徴を再生する
“えん”をつなぐ人

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

お惣菜屋さんや薬局、本屋さんや文具屋が並ぶまちの商店街。

少し前まで賑わっていたのに、いつの間にかシャッターが閉まったお店が増えていく。自分が住むまちではなくても、その風景を目にするとなんだか寂しく感じます。

長野県、塩尻市にある大門。

古くから交通の要所だったこの土地は、奈良井宿や贄川(にえかわ)宿がある宿場町への入り口。今でも塩尻のエントランスとして県内外の人たちが通る場所です。

そんな大門の商店街にある元ギフトショップ「ハリカ」。まちのなかでも大きな建物で、象徴的だったお店です。

今回は、10年前に閉店し、空き家になっていたこの場所を再生し、塩尻とほかの地域との“えん”をつなぐ地域おこし協力隊を募集します。

プロジェクトの内容は、シェアハウスやゲストハウス、コミュニティスペースなどがある「en.to(えんと)」という滞在型の交流拠点をつくること。

協力隊となる人には、大門に住む人を巻き込んで「ハリカ」の片付けやDIYをしたり、完成後も塩尻を訪れる人と地元の人をつなぐ橋渡しをしたりしてほしいそう。

さまざまな地域への入り口である「エントランス」、人とつながる「縁」、塩尻の「塩」…。

「えん」をここから紡いでみたいと思う人は、ぜひ読んでみてほしいです。

 

新宿駅から特急あずさ号で2時間半、見える景色が山々へ変わっていく。3月のはじめ、まだ山肌には雪が残っている。

塩尻駅に着くと「アルプスワイン」と書かれた看板と大きな樽。駅の中にもワインバーがあり、帰りは… と考える。

気を取り直し、山を見ながら空気を吸い込む。まず訪れたのは、シビック・イノベーション拠点「スナバ」。駅のすぐにあるコミュニティスペースで、行政だけでなく、市民や民間企業の活力により地域の課題を解決するための場として作られた場所。コワーキングスペースやシェアオフィスなどが設けられている。

中では窓側の席で黙々とパソコンに向かう人や、丸いテーブルで談笑している人の姿も。

奥のテーブルに案内してもらい、まずはたつみさんに話を聞く。

贄川で「宿場noie坂勘(さかかん)」というシェアハウスを運営したり、古物商として「旅する古物商-hito.to-」というお店を持っていたりと、塩尻でパワフルに活動している方。

今回、協力隊として来てもらう人は、まず坂勘に住み、たつみさんと一緒に行動することになる。

「僕たちは“新しい公共”をつくりたいんです」

新しい公共?

「たとえば、僕が住んでいる贄川は、冬に雪が積もることが多くて、ご近所どうしで雪かきを手伝うことは当たり前で。それと同じように、みんなが少しずつ面倒なことを分担したり、時間や労力やお金をちょっとずつ負担し合うことで、困りごとが解決されやすくなる社会をここでつくりたい」

「今の大門は土地を耕すような担い手が足りていなくて。地域の人自身が、当たり前のように地域おこしへ時間や人材を投資していく。そうすることで大門がもっと面白くなっていくと思うんですよね」

大門は交通の要所で人の出入りは多い。ただ、宿泊できる場所が少なく、通り道でしか利用されていないのが現状。いろんな地域の人が通る大門を面白くすれば、ほかの地域にも活気が伝わっていく。

「『en.to』を滞在型の拠点にする理由は、塩尻の人と訪れた人の関わりをつくるためで。知らない人同士が一緒にご飯をつくって食べたり、生活したりすることで、お互いにほっとけない存在になると思うんです」

「たとえば去年、御柱祭っていう長野県の代表的なお祭りに、坂勘のシェアメイト15人ぐらいで参加したんです。木を運ぶお祭りなので若い担い手がいると喜ばれて。シェアメイトもうれしいし、お互いにハッピーだなって思いました」

シェアハウスにいろんな人が集っていること、そしてこの土地に住んでいること。この2つが揃っていることで、地元の人からも信頼されるのかもしれない。

住んでいるから見えること、信頼してもらえることがあるんだろうな。

「今、何者でもなくてよくて。素直に学んでいく人に来てほしいです」

明るいたつみさんとなら、大変なことでも一緒に笑い飛ばせそうだ。

 

次に話を聞いたのは、横山さん。普段はNPO法人「MEGURU」の代表として、法人の人事支援や個人向けのキャリア支援を行っている。

「塩尻に来たきっかけは、日本仕事百貨の記事を読んだことだったんです。『スナバ』のオープニングスタッフの募集でした」

「そのときはタイミングが合わなかったのですが、商工会議所で企業の経営を支援する別の協力隊のポジションを提案いただき、4年前に塩尻に来ることになりました」

実際に来てみて、どうでしたか?

「面白い人たちがたくさんいるなって思いましたね。行政にも地域おこしに熱意のある人たちがたくさんいて。塩尻をもっと良くしたいって考えている人とたくさん出会いました」

「3年間で、自分がこれまでの人生で出会った人よりも多くの人に会った気がします(笑)」

横山さんは今回のプロジェクトの発起人でもある人。「en.to」をつくることでもっと地元の人との関わりを増やしていきたいそう。

「塩尻には地域おこしに前向きな行政がいて新しいチャレンジをしやすい。いろんな施策をやっているってことで、外の人からの印象はいいんです。ただ、『スナバ』のように新しい拠点ができても、地元の人にとってなじみ深いものにはまだなっていなくて」

「『en.to』は、地域の人が自分ごととして地域おこしに加わることができるような場所にしたいと思っています。なので、来てくれる人には塩尻の人と積極的にコミュニケーションをとってほしいですね」

「en.to」がつくられるのは、「ハリカ」という元はギフトショップだったお店。

品のいい食器に、箱に並べられたお菓子など。店内を回るだけでもワクワクする、まちのデパートのような存在だったそう。

「つい先日、近所の人と話して。ハリカに『かまぼこロード』っていうものがあって、そこを通ることが楽しみだったとか、いろんな話を聞いたんですよね。地域の人にとって、ハリカは何かしら思い出がある場所で、愛されていたことが伝わってきたんです」

お店を畳んでからは建物の老朽化が進み、近いうちに取り壊す予定になっていた。

「今の状態だけ見ると、まちの衰退の象徴になっている気がして。商店街もだんだんと元気がなくなっているし、ここが更地になったら地域に住む人の思い出もなくなってしまうと思うんです」

大門の楽しい歴史がつまっている建物。「ハリカ」の再生は、大門の過去と未来をつなぐことなのかもしれない。

「en.to」はどんな場所になるんでしょう?

「今は塩尻から離れているけれど、いつか帰りたいと思っている人とか、塩尻で何かやってみたい、挑戦したいっていう学生さんとか。そんな人たちが集まる場所にしたいです」

年齢や経験、出身地など、肩書きにとらわれずいろんな人が混ざり合う。そして、つながることで面白い何かが生まれる。

いろんな人と関わることが好きな人が向いているかもしれないですね。

「そうですね。まずは大門の人と仲良くなることから始めてほしいです」

「あと、塩尻でチャレンジするプレイヤーになってもらいたい。協力隊としての3年間を活かして別の拠点をつくってもいいと思います。『en.to』をうまく活用して、つながりを広げて。どんどんチャレンジしてほしいですね」

 

話を聞いていたらあっという間にお昼過ぎ。たつみさんに連れられ、近所のスーパーでお弁当を買い、「ハリカ」へ向かう。

横を歩いているだけでは、素通りしそうなほど味気ない佇まい。

ただ正面から見ると、古くなった看板やトタンの壁、建物の大きさから、歴史を感じる。

中に入ると、藤森さんが待っていてくれた。しおじり街元気カンパニーの代表で、空き家の再生や移住の相談窓口など、まちづくり事業に携わっている。

お弁当を食べながら話を聞く。

「塩尻の市役所の職員として中心市街地の活性化を担当していて。退職してからもまちづくりに力を入れてきました」

どうしてまちづくりに力を入れているんでしょう?

「ずっとここに住んでいるので、まちの元気がなくなっていくのは嫌だなと、若いころから思っていて。あとは子どもたちに、塩尻にはかっこよくて面白いことをしている大人がいるっていうことを見せたかったんですよね」

「この前、ハリカの片付けイベントを5回開催して。大門に住んでいる人とか学生とか、東京から来てくれる人もいて、合計で100人以上が集まったんです。まち全体でハリカをつないでいこうっていう一体感が生まれたように感じました」

若い人が歴史あるハリカに集う。『en.to』はつくる過程からつながりを生み出している。

「『en.to』はいい起爆剤になると思います」

ほほえみながら話す姿はお父さんのよう。

「何か困ったことがあれば、頼ってもらえるとうれしい。若い人に活躍してもらえるようにバックアップします」

「なにかに縛られることなく、自由にやってほしいです。失敗したら私が謝るから大丈夫ですよ」

たつみさん、横山さん、藤森さん。いつでも頼れる大人が、塩尻にはたくさんいる。

 

ひと通り話を聞かせてもらい、ここで取材を終えるはずが… たつみさんから「坂勘に来る?」というお誘いが。今回新しく入る協力隊の人は、坂勘で暮らすことになるため、雰囲気を味わってほしいとのこと。

「…行きます!」

ハリカから車で20分ほどの場所にあるシェアハウス「坂勘」へ。ここからは、坂勘の住人の海斗さんに案内してもらう。右から2番目に写っている方で、たつみさんと共に「坂勘」の運営もしている。「en.to」にも積極的に関わっていきたいそう。

車内では海斗さんがここに来たきっかけを話してくれた。

「一度、友達に連れられて坂勘に遊びに来たんです。働いてお金を稼ぐ以外のことを求めている自分がいて、悩んでいたんですよね」

大学を卒業後、就職して安定した暮らしを続けることが、本当に幸せなのだろうか。そう思っていたときだった。

「坂勘で過ごした時間がびっくりするほど楽しくて、通うようになって。ここで暮らしている人たちがすごく面白かったんですよね。そのまま会社も退職して、1年半前に引っ越して来ました」

「人には引力がある気がしていて。坂勘に住んでいる人たちは、お互いの関係性が深くて。『愛してるぜ!』って言い合ったりしているんですよ(笑)。その環境にいると自分も素直になれて、楽しいとかうれしいって、正直に言えるようになったんです」

この日も、シェアメイトがインドで出会ったという学生や、大阪から泊まりに来た人がいた。

「出会いで人は変わると思っていて。何になりたいかは決まってないけど、今の自分を変えたいって思っている人だったら、すごく合っていると思います」

 

いつの間にか2泊もした今回の取材。一緒にご飯をつくったり食べたりしながら、いろんなことを話す。人とのつながりを濃く感じる場所でした。

塩尻には、自然な自分をそのまま受け入れてくれる人がたくさんいます。

まずは、塩尻でいろんな人と出会ってみてください。そのなかで、「en.to」のプロジェクトや、どうしたら塩尻がより良いまちになるのか。その道が見えてくるように感じました。

(2023/3/9取材 大津恵理子)

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