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光が射し込む工場の中で、ガシャンガシャンと大きな音を立てて動く織り機。
金属製の古い歯車が動き、モーターにつながれたベルトが回る。
高速で左右を行き来する「シャトル」にはヨコ糸が巻かれていて、往復するたびに少しずつ布ができていく。
トヨタ製の「シャトル織機」は105年もののヴィンテージで、織るスピードは今の機械に比べると決して早くないけど、味わい深い布が出来上がる。
エニシングは、お米屋さんや酒屋さんなどが仕事のときに腰に巻く、前掛けをつくっている会社です。古い織り機を整備し、布地をつくるところから、企画、販売まで、すべてを一貫して手掛けています。
今回募集するのは、愛知県豊橋市にある工場で働く織り職人と、リモートメインで働く企画・営業担当。
経験はなくても大丈夫。コツコツ、ひたむきに、古い道具を愛し、ものづくりを楽しんでくれる人を探しています。
新幹線で、東京から豊橋へ。豊橋で乗り換えて5分ほどすると二川(ふたがわ)駅に到着する。
近くに動植物公園があり、のどかな雰囲気。気持ちのいい川沿いの道を少し歩くと、エニシングの前掛け工場に着いた。
出迎えてくれたのは、職人であり工場長の影山さん。
影山さんは、専門学校を中退したあと、航空自衛隊で戦闘機や武器系の整備を7年やっていた。その後、大手家具店の物流倉庫で施設整備の仕事を4年ほど。飛行機の翼を組み立てる仕事を4年ほど経験したという、ユニークな経歴の持ち主。
「整備がすごくやりたかったとか、自衛隊に興味があったわけではなかったんですけど、流れで入ってましたね(笑)」
「飛行機の仕事をやめて、奥さんと一緒にアメリカを半周する旅行に行ってから、日本的な仕事がしたいとエニシングに入りました」
入ってすぐの1週間ほどは、社長のカバン持ちとして、本社がある東京で仕事の流れを見学。その後は豊橋の工場で、当時いた師匠に織り機の使い方や布のつくり方を教わっていった。
今は工場長として、影山さん含めて社員2名とパートさん3名の現場を管理している。
「ここで使っている機械は、『シャトル織機』といって、トヨタ製、スズキ製、遠州製のかなり古いもの。トヨタ産業記念館から、展示していたものを譲り受けて使えるように整備した、105年前の機械もあるんですよ!」
「機械ってやっぱり武骨じゃないですか。油やホコリにまみれて汚れることもあるし、手は乾燥するし、服が引っかかって破れることもあるし。でもそういうのを含めて、機械や道具に愛着を持って、好きになってくれる人に来てもらいたいですね」
金属の胴体に巻き取った準備中の糸や、織り上がった布など、重いものを運ぶこともある。織り機を動かすときには大きな音だってする。
大変なことも多そうだけど、仕事のなかでうれしいことは、どんなときだろう?
「機械を整備して直せたときはうれしいですね。あとは、生地の折り目とか、端部分の『ミミ』がきれいにつくれたときは、よかったなあと思います」
コンピューター制御されているような最新の機械とは違い、100年以上前の古い機械だからこそ、調整と修理を重ねれば、長く柔軟に扱える。
そしてさらに100年後、200年後まで、技術が残ることが影山さんの本望だという。
「この前機械の整備を工夫したら、調子がよくなったので『めっちゃきれいにできるようになった!』ってほかのスタッフに自慢しました。みんな褒めてくれるので『でしょ?やっぱりもっと改善できる余地あるんだよ』とかいって(笑)」
「基本的には、単純作業の積み重ねなので、そんななかでも自分なりの楽しみ方を見つけられる人が合っていると思いますね」
褒めてくれるスタッフの一人であり、ムードメーカー的存在の、副工場長の前川さんにも話を聞いた。
「私はけっこう、淡々と作業している時間が好きかも。お昼の時間にパートさんたちと他愛のない話をするのも楽しいんですよね」
ガシャンガシャンと機械音が鳴り響く工場内では、必要最低限の会話しかできないため、お昼ご飯の休憩が重なると、よく世間話をしているのだそう。
前川さんは地元が豊橋で、もともとお花屋さんでパートとして働いていたけれど、正社員になりたいと仕事を探していた。
おじいちゃんがカバンの縫製職人だったこともあって、職人への憧れがあり「豊橋 職人 求人」と検索をしたところ、日本仕事百貨の記事を見つけたそう。
「布のことは、全然やったことがなかったんですけど。やっぱり職人って憧れるし、好きなことをやったほうがいいなって思ったんですよね」
好きなこと。たしかに、好きなことを仕事にできるのって幸せだろうな。
前川さんに話を聞いていると、社長の西村さんが別の仕事を終えてやってきた。
「工場での仕事は地味なことも多いです。でもね、職人ってクリエイティブな仕事ですよ」
普段は東京、赤坂にある本社に勤務しながら、営業活動で日本全国や世界を飛び回っていることも多い西村さん。
週に1回ほどは工場に来ていて、影山さんや前川さんとも風通しよくコミュニケーションしているみたい。それぞれにキャラが濃くて、おもしろいメンバーが揃っている。
「みんなうちに来て、キャラが解放されてるんだと思いますよ(笑)」
もともとは2000年に、漢字がプリントされたTシャツの企画販売会社として始まったエニシング。日本で最後に残った前掛けの産地である豊橋の「芳賀織布」から機械を引き継ぐ形で、2019年に今の工場をつくった。節目節目に合わせて、日本仕事百貨でも何度かご紹介している。
今回は久しぶりの募集ということで、最近の様子について聞いてみた。
「うちは以前から、スノーピークさんやスタジオジブリさん、トヨタさんをはじめ、おもしろいデザイナーさんやブランドさんと直に取り引きさせてもらっているのですが、この工場をオープンしたことで、得意先さんの質がさらにグッと上がりました」
前掛けに使われる、綿の糸を使った「織布」をメインに製造しながら、最近は同じ織り機を使って、インテリアやワークウェアなどに使われるさまざまな布も企画開発しているそう。
「海外から、わざわざ訪ねて来てくれる得意先さんもいるんですよ。定期的に、フランスなどの展示会に出ていることもあって、コロナ前よりも海外売り上げがずっと良くなりました」
西村さんが以前から大切にしているのは、人と直接会うこと。忙しい工場だと、見学や立ち会いを受け入れていないことも多いけれど、エニシングでは機会があればデザイナーさんや企業の担当者、さらには学生さんなどの見学を積極的に受け入れている。
リアルな製造現場を見ることで、どんな機械で織られているのか、何が出来て何が出来ないのか、理解が深まる。同じものを見ながら、一緒に企画を進められる。そして何より、西村さんの人懐っこい性格も相まって、仕事の垣根を超えて仲良くなれる。
企画する人、下請けで製造する人、という上下関係は一切なく、ものづくりに関わるみんながフラットなのが心地いい。
「今は工場の隣に、糸と織りの研究ができる施設、『ラボ』をつくっているところなんです。BtoBの商談ができるスペースで、12人ほどが机を囲んで座れるような空間になる予定です」
布の織り上がりシミュレーションができるソフトを導入して、どんな糸でどんな布をつくるか、相談、検討できる場所で、3月末に完成したばかりだ。
「たくさんのおもしろい糸があって、それを選ぶとシェフである職人が、調理するように布に仕上げる。その試行錯誤ができるのがこのラボです。こういう糸を見ていると、僕らは織りたくてワクワクしちゃうんですよね」
糸自体も、和紙を使ったものや、徳島県の藍染専門家がつくった天然のものの藍染の糸など、興味深いものがたくさん。
「綿、麻、シルク、ウール、和紙…。糸を自由に掛け合わせることで、そのブランドさんのオンリーワンの生地がつくれるんです。結局は、タテ糸とヨコ糸、ご縁をつなぎ合わせながらやっていきましょうってことですね」
「エニシング」という会社名の由来にもなっている「縁」を大切にしている西村さんの、こだわりが詰まった場所になりそうだ。
今回は、ラボの新設に伴う規模拡大に合わせた求人。織り職人と、企画・営業担当を募集している。どんな人が合っているのだろう。
「織り職人は、コツコツひたむきに取り組んでくれて、ものづくりが好きな人。できれば重いものを運べるような力持ちで、長く続けてくれる人がいいですね」
「熱を持ったデザイナーさんが周りにたくさんいるので、提案はしなくて大丈夫。職人が『自分のデザインを載せたい』となると、すごく邪魔になってしまうので、その『料理』を美味しい状態で出すことに徹してほしいです」
反対に、企画・営業担当は「これとこれを組み合わせたら楽しそう!」と提案できる人のほうがいいそう。日本のものづくりの魅力や価値を世界に広げていこう、という会社の理念を理解しながら、フットワーク軽く、コミュニケーションを楽しめる人が求められている。
具体的には、糸屋さん、染め屋さん、縫製屋さんと取り引きをしたり、デザイナーさんやブランドの担当者と企画を進めたり。海外の展示会に行って、営業をすることもある。
「英語ができたほうがいいですね。海外のお客さまが多いので、英語のメールを1日に何通も送ることも。あとは日本国内のやりとりでも、おじいちゃんおばあちゃんの職人さんが多いので、そういう人たちに可愛がられるタイプの人が向いていると思います」
どちらの職種も、変に癖がついていないほうが柔軟に考えられるとのことで、経験はなくて大丈夫。むしろ経験はないけど、ものづくりが好きで挑戦してみたい、という人がよさそうだ。
最後に話を聞いたのは、現在企画・営業を担当している板倉さん。東京で自身のファッションブランドをやりながら、平均月2回の豊橋勤務をしつつ、リモートメインで携わっている。
西村さんによると「板倉くんは、英語も話せないのにフランスに行って、バンバン商談を取り付けてくるような人」。西村さんと同じく人懐っこくて、物おじせず、楽しみながら動けるタイプだ。
「西村さんと初めて会ったときにはもう、工場見学とインターンの話が決まって。お酒が入っていたのもあって、かなりスピーディーでしたね」
「結局1週間ずつ1年間工場に通ってインターンをさせてもらいました。古い織り機を動かせるように整備したり、機械の動かし方を教えてもらえたりしたのがとてもよくて。取引先の人とも、職人の目線で会話できるのがうれしいです」
板倉さんいわく、ゴールを目標にしている人は、ゴールに着くと達成感で止まってしまうけれど、歩くのが好きな人は歩き続けられる。エニシングに合うのは、歩き続けられるタイプの人だと思います。
古い道具を大切に整備しながら、コツコツと努力を積み重ねる。淡々とした日々のなかで、自分だけの楽しさを見出す。ピンときた人は、ぜひ応募してみてください。
(2023/3/3 取材 今井夕華)