日本仕事百貨で初めて三鷹テントの求人を掲載したのは、2015年。
「お店の入口につけるテントをつくる会社です」と紹介しました。
もともとは、個人商店の軒先に取り付けるテントが長年の事業の中心。コロナ禍を経て、自宅で過ごす時間を充実させようと、庭にタープをつけたいという個人邸からの依頼が増加しました。
それ以外にも、内装やアート作品など。これまでのテント業界の常識では考えられなかった、一風変わった案件にもどんどん取り組んできた結果、唯一無二の存在になりつつあります。
依頼を受けてから、デザインの提案、製作、取り付けまで、一貫して社内で取り組んでいる三鷹テント。今回は、主にお客さんからの問い合わせ対応から製作までを担う人を募集します。
とはいえ、小さい会社なので、社内のあらゆる仕事に関わることは大前提。
常に考え続けながら、前例のない仕事に取り組み続ける。ものづくりに強い関心があって、仕事に真剣に向き合いたい人が合っていると思います。
三鷹駅からバスに乗り、10分ほど。
学校やスーパーが近くにある、一軒家が並ぶ住宅街のなかに、三鷹テントの拠点がある。
作業用トラックと、スタッフのみなさんの自転車やバイクが停まる駐車場の奥に工房がある。
工房に隣接したオフィスにおじゃますると、スタッフのみなさんが元気に迎えてくれた。隣の工房からは、カン!カン!と、金具を打ち付けるような大きい音が響いている。
最初に話を聞いたのは、代表の菊地さん。家具業界で長くものづくりに携わったのち、義理のお父さんが経営していた三鷹テントを引き継いだ。
「テント業界って斜陽産業なんですよ。商店街が盛えていた時代と比べると、どんどん仕事がなくなっていて。そんななかでも、生き残っていけば希少な存在になる。生き残るためには、新しいことへのチャレンジが避けられないんですよね」
三鷹テントは仕事のほとんどが元請け。お客さんは、いろいろな会社に相談して断られ、三鷹テントにたどり着くことが多いそう。ホームページなどを見て、ここならできそうだ、と連絡をくれる。
グランピング用のドームテントやイベント用のテントブースなど、デザイン性が求められるものから、大型機械のカバーや防塵シートといった、「布を張る」という広い切り口での依頼まで。
これまで取り組んできた案件は多種多様。前例のない仕事も多く、難易度はどんどん高くなっている。
「私自身はそこまで特殊だとは思っていなくて、ちょっと変わった依頼もやるべきだっていう考えなんだけれど、業界のほかの会社はあまり手を出さないことが多いですね」
「その結果、やっぱりちょっとむずかしいというか、頭をひねらないとできない仕事が非常に多くなってきてしまって。たとえテント業界の経験者でも、即戦力にはならないと思いますよ」
1年ほど前に、設計事務所から依頼を受けて取り組んだのが、岐阜市の複合施設「みんなの森 ぎふメディアコスモス」のプロジェクト。
地域の山と川をモチーフにデザインされた有機的なフレームに、ネット施工をする仕事。半球で、しかも素材がネットというのは、会社として初めての経験だった。
当初予定していた生地が消防法上使えなくなり急遽変更したり、実際に現地で手を動かしながら張り方を考えたり。
試行錯誤を経て、ひと目見て印象に残る空間に仕上がった。
「一つひとつ問題を潰していって、やっとできたものが、お客さんに満足していただけたときの喜びは大きいですよ。ただ、前例のない仕事はどうしても想定通りに進まないことが多い。スタッフみんな苦労はしていると思いますね」
「ただ、それを嫌だと思ったら、うちではやっていけないと思います」
どの会社でも対応できる仕事だと、価格競争になってしまう。そうならないために、自分たちのレベルを上げて「三鷹テントだから頼みたい」と求めてくれるお客さんを増やしていきたい。
時折強い言葉も使いながら、真っ直ぐに伝えてくれる菊地さん。
「差別化するなら、ひとつはやっぱりデザイン性。三鷹テントってすごくおしゃれなテントつくるのね、じゃあお願いしたいって選んでもらえるように」
「それに、ほかに稼げる仕事もつくっていかなきゃいけない。テントじゃなくてもいいんです。来るもの拒まずで、仕事の幅を広げていきたいと思っています」
もともと三鷹テントは、ひとつの案件を最初から最後まで、おなじ担当者が手がけるスタイルだった。社員が増えてきた今は、適性にあわせて作業を分担することも増えている。
現場での取り付けや、製作で大きな布を扱うことも多いので、二人一組での作業が多いそう。
今回入る人に主に任せたいのは、お客さんからの問い合わせ対応とテントの製作。
取材中に驚いたのは、お客さんからの電話がとても多いこと。実際のものを見ずに言葉でうまく伝えるにはコツが要りそうだし、初めて話をするお客さんとはコミュニケーション能力も求められそう。
生地の裁断やミシンの扱いなど、製作の技術は、入ってから覚えていけば大丈夫。
「ものづくりの経験はなくてもいいですよ。やってなくても向いている人はいるし、おもしろいと思えるなら、よっぽど不器用じゃなければ覚えていけるのかな」
これまでは菊地さんが中心となって案件を進めることが多かったけれど、最近は社員に任せる割合を徐々に増やしている。
今は、新規で問い合わせのあったお客さんへの対応は、社歴の長いスタッフふたりが担当するようになった。
「私も、いつ死ぬかわかんないですから。やっぱり、私がいなくなったら続かない会社ってよろしくないですよね」
「もちろん新しいことをやるときは相談に乗るけれど、どちらかというと今後はサポートする側にまわりたいんですね。少人数だから、突発的なことが起きるとすごく大変になってしまう。誰かが体調を崩したり、トラブルが起きたときでも問題なく対応できる体制をつくっておきたいんです」
新しく入る人は、どんな人がいいでしょう?
「求めたいのは、想像力と発想力、考える力。作業ができることじゃなくて、相手から来た要望を正確に受け取って、『どうやったらつくれるだろう』って考えて咀嚼して、ものにつくり上げることができるかどうか、です」
正直、決して簡単ではなさそう。
それって、どうすればできるものなんでしょう。
「それは、常に考えているかですよ。まちなかを歩いていて、『これどうやってつくるんだろう』って考える気持ちがあるか」
たとえば昨日は仕事で海沿いにいたという菊地さん。立ち寄ったお店は、金属が錆だらけで腐食していた。
「それを見て、海の近くだとこんなふうになるんだなって思えるか。日々の生活でいろんなことが気になる人は、考えるじゃないですか。じゃあ海の近くの案件では鉄を使っちゃいけないなって、仕事でも考えられるんです」
「部品のカタログを見ておもしろいと思えるとか、ホームセンターに行って目的のもの以外もいろいろ見ちゃうとか。こんなものがあるんだって頭にインプットされると、自分の引き出しが増えていくんです」
その話を隣で聞いていて、「ホームセンター、一日中いられますね」と応えていたのは、入社2年目の草村(そうむら)さん。
美術大学を卒業後、グラフィックデザインや商品写真撮影の仕事を経験。日本仕事百貨で偶然見つけた三鷹テントの記事に心が動いた。
「ものづくりの仕事はしていなかったんですけど、工作や手先を使ってものをつくることが小さいころから好きで、DIYもよくやっていたので、おもしろそうな仕事だと思いました。外に出て身体を動かす仕事がしたいって思いもあったので、その点も魅力的に感じましたね」
応募のときは、テントを一から自作する動画を制作し、履歴書と一緒に提出。その発想力とものづくりへの高い関心が評価されて、今に至る。
「100均のビニールシートとテープと、ハトメみたいなものを買って。そのへんの雑木林で竹を拾ってきて柱にして。ものとしてはしょぼいんですけど、なんとか熱が伝わってくれと思いながらつくりましたね」
「実際に入ってみても、やっぱり仕事は面白くて。日々やったことのない仕事というか、『これはどうつくったら形になるのかな』って常に考えていないとできないような案件が多くて。考えるプロセスが非常におもしろくて、刺激の多い毎日です」
今は、現場でテントの取り付けを担うことが多い。もちろんそれ以外にも、お客さんとのコミュニケーション、図面作成、材料の手配、縫製・加工など、関わる仕事は幅広い。
会社として特殊な依頼は増えているものの、店舗用テントのようなスタンダードな案件もあるので、新人スタッフはまずそういった仕事から確実に対応できるようにしていく。
「まだ全然で」とたびたび口にする草村さん。とはいえ、だんだんとメインで進める担当案件を持つことも増えてきた。
菊地さんや先輩の指示に沿って動いていた段階から、自分でつくり方を考えていく次の段階に入ってきている。
今ちょうど取り組んでいるのは、個人邸の庭に日除けのシェードをつける案件。
「それがちょっと特殊な形で、うちが今までやったことがない金物を発注しなきゃいけないんです。菊地さんと現場に採寸に行ったときに、『これどうやったらできると思う?』みたいな投げかけをいただいて、今考えているところです」
「複雑なものとか、店舗以外の仕事もちょっとずつ振ってもらえるようになって、うれしいと同時に、ちゃんと納まるのかな?大丈夫かな?っていう不安はありますね。これからもっとほかの案件も任せてもらうには、一つひとつに正確な球を返していかなきゃいけない。いつもドキドキしていて。上手にやりたいなっていうのが今の思いです」
CADなどのソフトももっと使いこなせないといけない、ミシンは好きだけどまだまだ、など、一貫して謙虚に、自分の課題を口にする草村さん。
実力を過信することなく、一つひとつに向き合っていくこの姿勢が、前例のない仕事に取り組み続けるにはきっと必要なんだろうな。
最後に、菊地さんはこう話していました。
「うちの仕事って感性も必要だし、理屈っぽく機能も考えられなきゃいけない。でもそんなの全部一人でできるわけないから、それぞれが得意な部分を持っていればいいと思うんです。バラバラなようでチームになっている。そんな会社になっていけばいいなって」
「うちは常にレベルアップを目指す会社なので、楽したい人は無理ですよ。大変だけど、ちゃんと成果を出して、その成果物を自分のものにしたいっていう人が理想。独立できるくらいのスキルを身につけて、自分の人生を自分でつくっていく力をつけていってほしいですね」
まだまだ聞いていたくなるような、三鷹テントの仕事論。
ここで自分の力を高めたいと思ったら、ぜひ続きを聞きに行ってみてください。
(2023/4/18取材 増田早紀)