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まずはやってみる。
できることが増えると、仕組みがよく見えてくる。
そうすれば、もっと自由に挑戦できる。
水雅でものづくりをすることは、そんな感覚に近いのかもしれません。
株式会社水雅(すいが)は、東京・阿佐ケ谷にある工務店。
大工職人が集まってはじめた会社は、17年が経ち、設計から施工管理、家具の制作、コワーキングスペースの運営、民泊施設の開発や運営など、空間に関わるさまざまなことを仕事にしてきました。
スタッフのなかには、設計を専門にしている人もいれば、大工として働く人、施工管理と大工を両方担う人も。それぞれの役割にとらわれず、いいものづくりをするために働いています。
今回募集する施工管理、大工はともに経験を問いません。
建築、そしてものづくりと真摯に向き合いたい人に似合う場所だと思います。
東京・南阿佐ヶ谷駅から、住宅地を歩いて5分。
小さく「水雅」と書かれた看板を見つけ、階段を上がると事務所がある。
ラジオが流れる部屋のなかでは、10名ほどのスタッフが、図面をひいたり、画面と向き合って相談していたり。
サンプルや書類などがところせましと置かれるなか、ギターや帽子を飾った席に座っているのが、代表の田代さん。
口数は少ないものの、聞いたことには正直に答えてくれる。
音楽でやっていこうと広島から上京し、アルバイトとしてはじめたのが建築の仕事。
やっているうちにおもしろくなってきて、気づけば会社をはじめて17年。
仲間も増えて、今は大工や施工管理、設計メンバー合わせて23人の会社になった。
「育てた職人が独立していくこともあって、ちょっと寂しいなって思うこともありました。最近はまた一緒に仕事をすることも増えて、これもいい循環だと考えられるようになってきた。この仕事をやりたいって人を、また育てていきたいと思えるようになってきました」
水雅で働くメンバーには、この業界で経験を積んできた人もいれば、まったくの未経験で建築に関わりはじめた人も少なくない。
この仕事のおもしろさを伝え、一緒に働いていける仲間を増やしたいという想いを持ち続けている。
「ここで育っていった人とは、やっぱり仕事がしやすい。僕ららしい建築、ものづくりを大切にできる人とのほうが、やりやすいんです」
水雅らしいものづくり、ですか。
「言葉にするとむずかしいんだけど。繊細な部分を大切にするってことと、いい意味でくだけてるってことかな」
「ゼネコンさんみたいに図面で決まったことをしっかり管理して進めるのもすばらしいんですけどね。うちは、現場で調整しながら成り立つことがすごく多い。手を動かしながら決めて、さらにいいものをつくろうっていう感じなんですよ」
水雅では新築、リノベーション、住宅、店舗とジャンルを問わず、さまざまな空間をつくっている。
建築家と一緒に仕事をすることも多く、一般的ではない形状や機能をかたちにするために試行錯誤することもある。
「おもしろそうな仕事は絶対にやりたい。無理ですとは言いたくない。どうやる?からはじまって、考えて、つくっていく。これはうちじゃないとできなかっただろうってときの爽快感が、いいんですよね」
「まあ、トラブルもあります。一筋縄ではいかないこと、めんどうなこともいっぱいあるけど、建築っておもしろい。簡単でも楽でもないけど、たのしい仕事だと思ってるから、この業界が先にも続いていくように、ここでやっていこうって人を増やすことに貢献したいんです」
挑戦するからできることが増えていく。
できることが増えると、自由になる。
そんな感覚を、一緒に働くスタッフにも感じてほしい。
「どうせやるなら、たのしいほうがいいじゃないですか。仕事も自分主導でやってほしいっていうか。人にやらされてるっていう時間は、極力少ないほうがいいと思ってて」
次に話を聞いたのは、2年前に入社した藤松さん。ふだんは施工管理を担当しながらも、大工として動くこともある。
藤松さんに会うのは1年ぶり。
前回の募集で話を聞いたときと比べて背筋が伸びている感じがして、なんだかとても頼もしい。
「今は1人で現場管理をしています。先が読めるようになってきたというか、自分で判断できることが増えました。わからなくて聞くこともまだまだ多いんですけど。仕事はだいぶ広がりましたね」
設計の仕事を5年ほどして、次にできることを探していたときに見つけたのが水雅の募集。
今は施工管理の担当として、設計者との打ち合わせ、大工のスケジュール調整、資材の手配などをしながら、いくつもの現場を行ったり来たりしている。
先輩たちの進め方をよく見たり、ときには職人さんに怒られたりしながら、さまざまな経験を積んできた。
「関わる人も多いし、みんな好き勝手言うから、正直大変です。僕はなるべく冷静に判断するように心がけているんです。言うところは言わないとダラダラしちゃうので、それはそれでむずかしいんですけどね」
仕事をうまく進めるコツってありますか。
「そうですね…前もって準備することですかね。シュミレーションして、ものの手配や段取り、ここは決めておかないとっていうツボを抑えておけば、ある程度はスムーズに進みます。そうでないことも、もちろんありますけどね」
「あたり前のことなんですけど、現場ではいろんなことが起きるから。毎回うまくいくとは限らないんです」
描かれた図面通りに空間ができていくよう、段取りをして進めていく。
話を聞いていると、指示を忠実に再現するというより、現場でよりよくしながら空間をつくる仕事なんだということが伝わってくる。
「つくり方や届いた材によって印象が違ってきたりするんです。図面通りにつくると、納まりがよくないこともあって。現場で気づくというか、こうしたらきれいに納まりますよって、察してあげるというか」
「設計側は挑戦的なことをやってみたい、現場は限界を知っている。そのあいだの調整役ですね。見栄え的にはよくても、しばらく使って壊れてしまうようじゃダメだから。意匠的にも機能的にも、現場でよりよくするのが施工側の仕事なんじゃないかって思っています」
取材中にも電話がかかってきて、現場と段取りの確認をしていた藤松さん。
時間を見つけては、自分で手を動かす大工仕事にも関わっているそう。
「施工管理ではいかに人と話すか、コミュニケーションをとるかが仕事なんですけど、大工はひとつのことに集中して没頭できて。今はそういう時間がたのしいんですよね」
「壁を貼ったり下地を組んだり、家具をつくったり。一通りのことはやらせてもらいました。この階段も、僕がつくったんですよ。最初は手伝うくらいの感覚でいたんですけど、結局全部やることになって」
現場にいて「やってみる?」と声をかけられ手伝うこともあれば、スケジュールが押してしまって手を動かす必要が出てくることもある。
「実際に手を動かしてやると、作業や仕組みを覚えられるんです。思ったよりも大変だとか、こうやればいいんだってわかったりとか。ものをつくる工程を全部見ることができるとやりやすくなるし、自分のなかでより納得感がある仕事ができるような気がしています」
最後に紹介するのは、大工として働いている阿多(あた)さん。
「美大に通って彫刻を専攻していて、ものをつくるのっておもしろいなって感じるようになりました。自分にはアーティストよりも、職人のほうが向いてるかもしれないと思って。大工は幅広くいろいろなものがつくれるし、やってみようかなって」
日本仕事百貨を見ているなかで、目に止まったのが水雅の募集。
最初の印象は、どうでしたか。
「高倉健ばっかりって笑ってる人もいるくらい、口数が少ないんです。こっちが話しかけるまで、あんまりしゃべらない人が多くて。大丈夫かなっていうのが第一印象ですね」
「最初の研修で木材について教えてもらいました。奥が深いな、しばらく木のことを勉強するのかなって思ってたら、次の日には別のことがはじまって。職人気質すぎないというか、緩やかさのある雰囲気は、いいなって思いました」
現場では片付けをしたり、ものを運んだり、とにかく身体を動かしながらできることを探していった。
次から次へと覚えることが出てきて、帰ったらすぐに眠ってしまうほど、精一杯に仕事を覚える時期が続いた。
「丁寧に教えてくれる人もいますけど、見て覚えろって人もいて。下地をつくるってときにも、言われた通りに木を切って。何度もやっているうちに、どこにどう使う材なのかがわかってくる。気づいたら、できることが少しずつ増えてきたところです」
入社して3年経った今も、まだまだわからないことばかりだという阿多さん。
そんななかでも、最近は家具の製作を任されることが増えてきた。
「うち、既製品を使うことがほとんどなくて。家具までやる現場では、声をかけてもらいます。細かい加工が多くて、ちゃんとやらないと全部ずれちゃうから、結構な手間がかかるんです。だけど、その地道な感じがたのしいんですよ」
「現場合わせが多いから、木材のカットを頼まれても、どの程度までやっておくといいか塩梅がまだつかめていなくて。家具はそんなこと考えるより、とにかくきちっとやればいい。その作業が自分に合ってるんだと思います」
力仕事もあれば、まわりに男性が圧倒的に多い現場で気を使うこともある。
努力していることも多そうだけれど、ものづくりの話をたのしそうにしてくれるのが印象的。
「木の匂いや手触り、柱が立ち上がったとき、空間が目の前に現れる感じも好きです」
「もともと飽きっぽいのもあって、覚えられないほどの技術や道具、つくり方があることに、うわーってうれしくなっちゃう。そういう仕組みになってるんだって、知るのが好きなんでしょうね」
それぞれに任されることが多いぶん、自由であり責任がある職場だと思います。
大変。だけど、できることが増えるのがたのしい。
そうやってものづくりを深めてみたい人に、おすすめの仕事です。
(2023/5/15 取材 中嶋希実)