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今回の取材で、「暮らしごと」という言葉を知りました。
料理、洗濯、掃除など、暮らしのなかで必要な事柄。そして、暮らすように仕事をする、ふたつの意味があります。
長野県に本社を構えるアトリエデフは、自然素材を使った安心・安全な家づくりをしながら、自然と人にとって健やかな暮らしを提案しています。
今回募集するのは、暮らしアドバイザー。
畑づくりや薪割り、土かまどでご飯を炊くといった暮らしを実践しながら、SNSやイベントを通じて、お客さんにアトリエデフの家について、また自然と共にある豊かな暮らしとは何かを伝えていく仕事です。
日々自然の営みを感じながら、暮らしごとをする。そんな人たちに出会いました。
新宿駅から特急あずさに乗って2時間半。茅野駅から車を20分ほど走らせると、アトリエデフの八ヶ岳営業所に到着。
小さな畑やかまど、コンポストや薪小屋があって、まるで小さな村のよう。
迎えてくれたのは、代表の大井さん。「さっそくご飯を炊きましょう」と、かまどでお米を炊く準備をはじめてくれた。
火を起こし、火加減をじっくりと見つめている。
すると、「釜の蓋にくっつけて、音を聞いてみてください」と、木の棒を渡してくれた。
ぽこぽこと、水が沸騰する音が聞こえる。5分ほど経ち、蓋の間からシューっと湯気が上がってきた。もう一度蓋に棒を当て、音を聞いてみると、ぱちぱちと音が変わった。
「水が蒸発して、お米が弾ける音ですよ。そろそろ炊き上がる合図です」
釜を引き上げ蓋を開けると、キラキラと輝くお米の粒に、やわらかな香りが漂う。幸せな気持ち。
「炊き上がるタイミングは、お米の量や火の加減、天候などによって毎回変わります。見て、聞いて、こんなふうに五感を使うと、おいしいお米が炊けるんですよ」
お肉や魚は使わず、畑で採れた野菜や自家製のお漬物をおかずに、食卓をかこむ。この日は、11月末に漬けた野沢菜の切り漬けが食べごろとのこと。シャキシャキとみずみずしくて、つい箸が進む。
このご飯づくりも、暮らしアドバイザーの大切な仕事のひとつ。
みんなで食卓を片付けたあと、最初に話を聞いたのが、戎谷(えびすたに)さん。専務として主に建築事業の統括をしている。
「アトリエデフができたのは、28年前です。代表のお子さんが、住宅の建材に使われている接着剤や塗料の化学物質が原因でアトピーやアレルギーにかかってしまって」
「自然の木や土を使った国産材を使って、住む人にとって安心安全な家づくりをしようと思ったことがきっかけでした」
アトリエデフで扱う木材はすべて国産の無垢材。ほかにも山の土に藁や砂を混ぜて練り上げた土壁、木の繊維を使った断熱材、蜜蝋のワックスなど、自然素材のものを選んでいる。
端材のほとんども、お客さんの使う薪になる。家をつくる際のゴミは、梱包で使用されているビニールくらいしか出ないのだそう。
「ただ、アトリエデフとしては、家が建つときが完成ではなくて」と、戎谷さん。
「もっともお客さんにとって大切なのは、そのあとどう暮らすかだと思うんです。使い続けて、最後は土に還る建物づくりをすることで、生活のすべてが環境と結びついていることを知ってほしい」
「たとえば自分のお家で畑をやって、実った野菜を食べる。小さな行動がほかに影響して、食材や調理の仕方、洗剤の選び方までが変わるかもしれない。なにかを選択するとき、環境にやさしいものであるかどうかって基準が増えると思うんですよ」
アトリエデフでは、かまどでご飯を炊くだけでなく、畑作業や薪割りもすべて自分たちで行う。そんな暮らしを実践して、お客さんに伝えていくのが暮らしアドバイザー。
アトリエデフで家を建てることを検討して営業所へ訪れたお客さんが、最初に関わることになる。
「まずはどういう暮らしがしたいかを擦り合わせます。畑をやりたいとか、薪ストーブは置くかとかを話しますね。その後、設計チームにバトンを渡して、具体的な設計の話を進めるという流れです。間取りや広さの話を先にすると、社長に注意されることもありますよ(笑)」
「なので、家のことは詳しくなくてもいいんです。暮らしごとを自分で体験して、ゆっくり自分の言葉でそれをお客さんに伝えていける人がいいですね」
暮らしごと、ですか。
「ここでは、暮らすっていうことが仕事になるんです。お客さんに伝えるために、まず自分たちがやってみる。僕らが一番に伝えたいのは、人間らしい豊かな暮らしや考え方なんです」
最初は相談のみで終わったお客さんも、数年後に依頼してくれることが多いそう。
「いろいろ比較して、やっぱりここがいい、って」
アトリエデフが提案する人間らしい豊かな暮らし。暮らしアドバイザーは、そのあり方に共感する人を増やしていってほしい。
一番身近な先輩として頼りになるのが、八ヶ岳営業所で暮らしアドバイザーとして働く桑原さん。前々回の日本仕事百貨の記事で入社し、今年で4年目になる。
桑原さんは大学時代、教員を目指す半ば環境教育という分野に出会った。自然ガイドの道に進んだことで、環境について関心を持ったという。
「自然ガイドでは調理を担当することが多くて、その中で食に興味が湧いたんです。そこから京都のホテルで調理部に入りました」
「チャンスって、いつ来るかわかんないじゃないですか。だから、自分の興味が惹かれたり、悩んでいたりするときは、とりあえず行動してみることが大事だなって思うんです」
ただ、コロナ禍で勤務先のホテルが閉館することに。そのころ、日本仕事百貨の記事を読んだ。
「大豆や小豆、そばを育てているアトリエデフの循環畑を知って」
循環畑とは、八ヶ岳営業所のある長野県の原村(はらむら)で、アトリエデフが管理する畑のこと。
春に大豆と蕎麦の種まきをして、夏は草刈り、秋になると刈り取って、脱穀をする。そして冬に、味噌をつくったりそばを打ったり。オーナーさんや家づくりを考えている人、地域の人も集まる場となっているそう。
「育てて、調理して、食べるまで。すべて自分たちの手でつくることが本当に素敵だなと思って」
「これまでの仕事でも、一番大切にしている考えは自然と人との関係性で。自然と人は活かし生かされているなと、常々思います。仕事も、日々のことも、地に足をつけて丁寧に暮らしていきたい」
暮らしアドバイザーの仕事は、こうした循環型で、持続可能な暮らしを伝えていく役目。
畑作業やご飯づくりなど暮らしの様子を、SNSをメインに発信する。さらに、アトリエデフで提案する暮らしを体験できるイベントを開いたり、移住や家づくりを検討している人に向けては、個別相談会を設けたり。
自分で体感した暮らしだから、生きた言葉で伝えることができる。だからこそ、お客さんも共感してくれるのかもしれない。
「お客さんと最初に関わる立場として、これからの生き方や暮らしについて安心して話をしてくれて、一緒に考えることができるのがとてもうれしいんです」
にこやかに話す桑原さん。けれど、話を聞いていると、いろんな仕事が同時並行で進んでいるように思う。
「やることはいっぱいありますね。もしかしたら、こんなことも仕事なの!?と拍子抜けしてしまうかもしれません。たとえば、資料を請求してくださった方へのメールを返信しながら、頭では今日のお昼ごはんのメニューや必要な食材の買い物リストを考えたり、イベントの企画書を作ったり」
「見えない仕事が多いんです。だからこそ、自分の段取り次第。苦労してしまう人もいるかもしれません」
見えない仕事、ですか。
「料理、もそうですよね。ごはんをつくるときって、メニュー決めから買い出し、畑で収穫できる野菜も考える。ここまで準備して、台所に食材が揃ってはじめて調理がスタートできる。一言でいえば料理だけど、それまでの過程にある、名前のついていない仕事がたくさんあるんです」
「暮らすっていうことは、そういう小さいことの積み重ねだと思うんです。手間暇かけて丁寧に、人によっては不便さを感じることがあるかもしれませんが、そんな手間を一緒に楽しめる人がいいですね」
どんなことから、覚えていけばいいんでしょう?
「お米を炊くこと、薪を割ること」と、即答する桑原さん。
「お客さんに伝えるために、まず自分たちが実践する。暮らしごとを覚えてから、来場対応やイベント企画、森林整備など、任せたい仕事を一緒にしていきます」
「職種は違うけれど、考え方は通じるものがあると思うんです」と紹介されたのは、環境事業チームの嶋さん。普段は八ヶ岳営業所から車で40分ほどの、山梨営業所で働いている。
環境事業チームは、暮らしアドバイザーとは別の部署で、環境に特化した事業を行っている。
神奈川県出身の嶋さん。新卒でアトリエデフに入社して、今年で3年目になる。
「大学のとき、環境問題について関心を持ったんです。アルバイトも、環境に配慮したものづくりをしているアウトドアブランドを選びました」
「どうすれば地球を守れるか、本気で考えている人たちが身近にいて。いつか自分が社会人になるときも、持続可能な社会づくりに貢献できる仕事をしたいと思ったんです」
インターンを探していたところ見つけたのが、アトリエデフだった。
「畑作業や森林整備を体験して、環境問題に本気で向き合っている会社なんだって思いました。環境負荷を減らすための行動ってたくさんあるけれど、ここでは人によってはそんなに!?って思うくらいに徹底しているんです。でも、そんな人間的で本質的な暮らしにとても共感したんです」
「環境へのアクションって、すぐに成果が見えづらい。だけど諦めずに、一人ひとりの暮らしや行動を変えていくことで大きな力になる、そんなアトリエデフの考え方に惹かれました」
環境事業チームが主体となって取り組んでいるのが、竹林整備と、竹を材料とした製品づくり。
竹は繁殖力が強く、あっという間に成長して増殖する。放置された竹林は、森林へと侵食したり、土砂崩れを起こすリスクを高めてしまう。
嶋さんのいる環境事業チームは主に、日本全国で問題となっている放棄竹林を減らすための活動に取り組んでいる。
「ヘルメット被って、ノコギリ持って、週に1回竹林整備をするんです。地域の人にも参加して頂き、みんなでたのしく活動していますよ」
「集めた竹は、加工して商品化しています。たとえば竹炭として土壌改良や脱臭・除湿剤として使ったり、竹ペレットにして猫砂にしたり。竹林を整備しながら、竹を活用することで、豊かな資源として使えるんだということを発信しています」
ほかにも、地域にある学校や福祉施設で講演を行ったり、竹でコップや灯籠をつくるワークショップを開いたり。
環境問題を考える場づくりをすることは、暮らしアドバイザーとも重なり合う部分があると思う。
「この前、何度もイベントに参加してくれた小学生が、竹でつくったお弁当箱を私に見せてくれたんです。『自分の竹用のこぎりを買ってつくった!』って教えてくれて」
「暮らしを変えるって、考え方を変えることじゃないですか。私たちが伝えたことで、小さくても変化が起きているのを感じると、すごくうれしいですね」
日々、起きていることに目を凝らす。自分の暮らしが、地球とどうつながっているか感じる。日常の選択が変わっていく。
豊かさを考え続けるような仕事だと思います。
(2023/12/20 取材 田辺宏太)