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その町らしさは
自分らしさから

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「人間って得意なことをやったらいいからね」

取材のなかでぽろっとでてきた言葉が印象に残っています。

他人の得意は見つけられても、自分のことになるとなかなか難しい。だけど自分の得意を活かした仕事ができたら、きっと生きやすいんだと思う。

長野県小海町には、そんな自分らしさを大切にするセラピー事業「憩うまちこうみ」があります。

「憩うまちこうみ」事業は主に都市部の企業向けに、小海町の自然を活用した社員研修やチームビルディング、ワーケーションなど、目的に合わせたセラピープログラムを提供しています。

今回募集するのは「憩うまちこうみ」事業で、事務局を担う地域おこし協力隊。町民であるセラピストとセラピーを受ける協定企業の間に立って、企画・運営を行う仕事です。

さまざまな人と心地よい関係をつくることが得意な人には、合っている仕事だと思います。

 

小海町があるのは長野県の東側。JR小海線が通り、東京からは電車で2時間ほどと、意外とアクセスも良い。

町役場や学校、小海駅などが集まる中心地から坂道を車でぐんぐんと登ること10分。標高1123mに位置する松原湖に到着した。車を降りると一段と空気が気持ちいい。

本州では珍しく全面結氷する松原湖。この日は数日前の雨で氷が解け、いまにも割れそうな薄い氷が張るのみ。

松原湖に浮かぶように建っている白い建物が、憩うまちこうみの拠点施設。

「氷上のワカサギ釣り解禁が早い年は12月末なんですけど、今年は暖冬の影響で1月中旬でしたよ。今日は湖上に入れないので、お客さんも少ないですね」

そう話すのは、憩うまちこうみ事業と地域おこし協力隊を担当する、小海町役場の篠原さん。

所属する渉外戦略係は、ほかの部署が拾いきれない町の課題に取り組んでいることもあり、町のことをなんでも聞ける頼もしい存在。

憩うまちこうみ事業が掲げるのは「リ・デザインセラピー」というコンセプト。

不調を治療するというより、自然のなかで過ごすことで、自分自身の心身の変化や今の状態に気づくことを大切にしている。

主なプログラムは4つ。森や湖畔のなかで五感を開く「リラックス」、瞑想やヨガをする「メディテーション」、星空のもと焚火を囲んで仲を深める「コミュニケーション」、小海の食材を使った料理を食べる「デトックス」。

協定企業の要望に応じて、プログラムを組み合わせて提供する。

憩うまちこうみの大きな特徴は、セラピストを小海町の住民が担っていること。

講義や実技講習を通して専門的な知識を学び、森や食、ヨガなど、それぞれの得意を活かしたセラピストとして活躍している。

「町の特性って、いま町にいる人たちがつくるものだと思うんです。でもだんだん旅館や商店などを担う人が減ってきて、観光や生活の基盤がなくなっているのが現状で。それって地域の特性がなくなることとイコールなんです」

「じゃあどうすれば小海町を維持できるかっていうと、今ある自然や人などのリソースを活かしながら、外の人にも来てもらうこと」

その一つの形が、憩うまちこうみ事業で町民にセラピストとして活動してもらうことだった。

2016年にスタートした当初からまちづくり協議会をつくり、町民との話し合いの場を設け、町民と共につくってきた。セラピストとして活躍する町民は、現在22名。

植物が好きな人がいれば、動物やヨガ、地域の歴史に詳しい人など、各セラピストが自身のバックグラウンドや特徴を活かして、参加者に気づきのきっかけを提供している。

2019年から企業の受け入れを開始して、当時5社だった協定企業も今では25社になり、立ち上げ当初と比べると企業の抱える課題やニーズも多様になってきた。

町でも、コロナ禍に宿泊施設などの事業者が減少し、松原湖周辺の観光機能や仕組みづくりを見直す必要がでてきている。

そういった情勢もふまえて、最近では憩うまちこうみ事業が担う役割を見直したり、新たな取組みを検討したりしているという。

「たとえば、個人向けのプログラムや異業種交流型のワーケーションを企画したり、他にも町の事業者と連携して環境問題に特化したプログラムをつくるのもいいと思う。企業のニーズと町の課題を考えながら、新しいことにも積極的に取り組んでほしいですね」

 

とはいえ、まずは今ある事業を回していくことが最初の仕事。具体的にどんな仕事をするのだろう。

次に話を聞いたのは、現在、地域おこし協力隊として憩うまちこうみ事業の事務局を担当する浅田さん。

「コミュニケーションも人との距離感も、バランスのとり方が絶妙なんです」と篠原さんも太鼓判を押す存在。

「小学生のころ、背が高かったせいか友だちから悩みを相談されることが多かったんです。そこから人の心に興味をもって、大学では心理学を学んでいました」

購買行動に心理学が関わっていることを知り、マーケティングリサーチの会社に就職した。

「メーカーと消費者をつなぐ仕事で、やりがいはあったんですけど、残業も多くてメンタルを崩しちゃう同僚も多くみてきました。そういうのもあって働く人のメンタルヘルスにも興味を持つようになりました」

「自分のなかで『人の心』と、『人と人をつなぐ』っていう2つのことがキーワードになっています」

2年前、コロナ禍で一日中家でリモートワークをする日々だったため、自然を求めて移住も考え始めたときに日本仕事百貨の募集を目にした。

「ありのままの自分を大切にするっていう、憩うまちこうみのコンセプトと、人と人をつなぐ仕事っていうのにビビビときました。私にぴったりじゃん!って」

町民や町役場、協定企業、地域の事業者など、かかわる人々の間に立って事業が円滑に進むように調整するのが浅田さんの仕事。

5月から産休育休を取得するため、これから入る人は浅田さんの仕事を引き継ぐことになる。

具体的にどのように仕事を進めていくのだろう。

「まずは企業さんから新人研修をしたいなどの相談が来るので、研修の目的やどのように過ごしたいか打合せをします」

「要望を聞いたうえで、プログラムや町内の宿泊場所、食事を検討して、それからセラピストのみなさんにもお声がけをします。基本は日程優先ですけど、企業さんとの相性も考えてセラピストさんの調整をするように心がけています」

2泊3日ほどで行うプログラム当日のアテンドも大事な仕事。何度も来ている企業とは親睦も深まり、夕食に招かれることもある。

「はじめての企業さんは来る人の雰囲気やモチベーションがわからないので、結構プレッシャーです。とくに若い人はテンションが表情に出ない人も多いので、移動中とかにムードメーカーっぽい人に声をかけて、モチベーションをきいたりします。『連れてこられた感じ?』みたいに(笑)」

「そうすると意外と楽しみにしている人も多くて。そういう参加者の気持ちや企業の雰囲気をセラピストさんたちに事前にお伝えして、安心してセラピーしてもらえるように心がけています」

積極的に表に立って場を回したり、企業の輪の中に入って場を温めたりするわけではないけれど、企業の目的を達成するためのプログラムがスムーズに進むように、裏方として力を尽くしていく。

参加者やセラピストなど、かかわる人の小さな不安や変化にも気を配り、状況をみながら手を差し伸べられる人がよさそう。

浅田さんは事務局の仕事のほかにも、小海町を発信するイベントを地域おこし協力隊として企画してきた。

「最初は移住して3か月くらいのころ、東京の知人のお店を借りて『こうみ酒場』っていうのをやりました。東京の知り合いに小海町のことや私の暮らしを知ってもらうために、小海町の食材とかお酒も持っていきました」

そのほかに、一緒に小海町での暮らしを体験する「小海ツアー」をしたり、松原湖のまわりでもいくつかイベントを開催したりと、とても軽快に動いている様子。

「もともとの知り合いに小海町を知ってもらうとか、小海町周辺での知り合いは少ないので、イベントを通じてつながりを増やすとか、いまは私の手の届く範囲でやっています」

「ゆくゆくはこういう自主企画のイベントと、憩うまちこうみ事業の境界線をなくしていければいいなと」

田舎への移住というと思い切った決断のイメージがあるけれど、浅田さんの話を聞いていると、移住前のつながりも続いているようで、そこまで身構えなくてもいいような気がしてくる。

「小海町は東京からもアクセスがいいので、ちょうどいいんだと思います。手の届きやすい田舎というか、癒されたいときにくる隠れ家みたいな田舎だと思ってます」

 

次に話を聞いたのは、セラピストとして働く内田美津子さん。

「みっちゃんのグループは遠くにいても笑い声が聞こえてくるんですよ(笑)」と浅田さんが紹介してくれた。

長野市の自然が多い地域で育ち、結婚を機に小海町へ移住した。現在は家業の経理を担当しながら、セラピストとして働いている。

「子どものころはおてんばでした。山の中を走り回ったり、秘密基地つくったり、シロツメクサで長い首飾りとかつくってましたね」

「松原湖の近くに越してきて1年目の春夏秋冬が、もう楽しくて仕方なくて、自然が好きだったのを思い出しました。虫とか見つけるとすごい観察しちゃいます」

もともと看護師として働いていた内田さん。お子さんが学校に行けなくなったことをきっかけに、心のケアにも興味を持ち、コーチングの勉強もしたそう。

「ここぞとばかりに、みなさんに聴診器を使ってもらいますね。川で水の音を聞いたり、木の音を聞いたり、最後には心臓の音も聞いてもらいます」

「自分の心臓がどこにあって、どんな音がするのかを確かめることで、自分の身体に興味をもってもらおうと思って。自分の身体は自分で整えることが大切なので」

内田さん自身もセラピーを提供することで、自分と向き合う時間になるそう。

「自分が緊張していると、それが伝わってお客さんも緊張してしまうんです。だから自分もリラックスできるように事前にしっかり下見をして、体調を整えて臨んでいます」

「セラピー中も笑いを取れるようになってくると、私もだんだんほぐれてきているなって。だからセラピーした後のほうが自分の身体も調子がいいんです」

お話を聞いたあと、内田さんが数日後に案内するセラピーの下見に同行して、一緒に湖畔を歩かせてもらう。

モミの葉やクロモジの匂い、ヤドリギや雷で空洞になった大木、凍った湖のきしむ音。少しの時間だけれど、いつもより五感を研ぎ澄ませる時間だった。

「私、人の名前を覚えるのがとても苦手で…。だから名前シールを貼ってもらうのと、最初から『覚えるの苦手です』って宣言してからセラピーをはじめるんです(笑)」

苦手なことを言うのって勇気がいるけれど、自分らしくいるためには得意なことを知るくらい大事なことだと思う。

 

日本一の何かがあるとか、世界中から人が来るような観光地があるわけではない。

けれど、自分らしさを大切にする人が集まって、小海町らしさがつくられているように感じました。

(2024/1/23 取材 堀上駿)

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