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天空のフェルミエへ
グラスフェッドで育てる
酪農家になる

朝起きて、身支度を済ませて。

まずは牛たちのお世話とごはん、そして乳搾り。搾りたての牛乳は隣接するチーズ工房に送って、ナチュラルチーズへ加工される。

朝の仕事が終わると、牛たちを放牧。山肌に沿った斜面で、牛たちがのびのびと過ごしている。遠くには大洲(おおず)のまちが見えて、眺めもいい。

愛媛県内子町(うちこちょう)。

ここに牧草のみを使い、広い土地で牛を放牧する「グラスフェッド」という特別な飼育方法を実践している山田牧場があります。

今回は、この山田牧場を引き継いで、酪農家として乳牛のお世話をする人を募集します。

最初は、山田牧場の親会社になる株式会社ありがとうサービスが雇用する形になるため、お給料をもらいながら学んでいく予定。

酪農の経験があれば歓迎ですが、なくても大丈夫。空き家もあるため、家族での移住も歓迎です。

ありがとうサービスが目指している、食や宿泊をつなげて地方創生を目指すプロジェクト。その仲間に加わってくれる人を探しています。

 

山田牧場があるのは、愛媛・南予の山間。松山空港からは車で1時間弱で到着する。

内子町の南、細い山道を登る。そろそろ着くかな? というところで、道のすぐそばの草っ原に牛が登場。こちらを見ている。

山の中腹くらいまで来たところで、山田牧場に到着。車を降りると、牧場独特の牛の匂いと、発酵した牧草の香りがする。

牛舎に近づくと、山田牧場のオーナーである山田さんが迎えてくれた。

牛は放牧されていて好きなところに行っているということで、よく見えるスポットまで山田さんの軽トラックで連れて行ってもらう。

ガタガタな山道に負けない豪快かつ繊細な山田さんの運転。アトラクションに乗っている気分になりながら、生い立ちを聞く。

「もう80歳になります。ここから少し下に行った集落の生まれで。家がずっと牛やってたから、高校時代から牛の手伝いをしていました」

「この辺は50年くらい前に開墾した土地なんです。もともとは山。牧草地をつくるために土地の開墾をして、木を伐って。牛のためにひらけた土地をつくってきました」

話しながら、軽トラは車幅いっぱいの小道を進み、坂の途中で止まった。

降りると、目の前には緑に覆われた下り斜面。草の上で牛たちが思い思いに過ごしている。見晴らしも良くて気持ちいい。

「冬は背が低い草が生えるので、それを牛たちが食べています。春先には黄色い花が咲いてね、きれいなんですよ」

山田牧場の牛は、グラスフェッドと呼ばれる方法で育てられている。

エサに穀物などを使わず、主に牧草のみを使い、広い土地でストレスなく育てられた牛たちだ。

そうした牛からとれる「グラスフェッドミルク」は、一般的な牛乳と比べてコクがありながらもさっぱりとした味わいなのだそう。アレルギーの原因と言われる物質がほぼ出ないため、牛乳アレルギーの人でも飲むことができると言われている。

「うちの牛は、ブラウンスイスっていう品種が多いですね。チーズをつくるのには乳質がちょうどいいと言われていて。一般的なホルスタイン種よりも、タンパク質がちょっと多い」

「そのちょっとの差が、チーズにすると大きな差になるみたいです。牛たちが好きなところに行って、自由に草を食べる。そのおかげで牛乳の質も変わるわけですね」

牛たちを眺めながら、細かい栄養素のことなどをスラスラと教えてくれる山田さん。牛の仕事をはじめて60年。その知識はとても深い。

「80歳やけども、元気なのは牛乳のおかげ。毎日1キロ近く飲んでるから、牛乳が主食という感じだね」

「牛も冬の時期は青草が少ないから、みかんの皮をもらってきてエサに混ぜるとかね。そうすることで、ビタミンCとかビタミンAを補給できるから、ちょうどいいんですよ」

1日の流れはどんな感じなんでしょう。

「牛乳は、朝晩の2回絞ってる。朝は6時半くらいに起きて、エサをやって。牛舎に戻ってこずに山で寝ている牛もいるから、それを連れて帰ってくる。そのあと、機械を使って牛乳を絞ります」

「9時くらいにはこうして放り出してるね。山に連れていくっていう感じ。ここだけじゃなくて上の山にも放牧用の土地があるから。放牧用の土地は、だいたい12ヘクタールくらいあるかな」

夏には採草地からとった草をサイロにつめ、乳酸発酵させて、冬の時期のエサにしている。

季節によっておおよその仕事は決まっている。最初はその流れを身体で覚えていく必要がありそうだ。体力も必要だと思う。

生き物が相手の仕事。奥さんと二人とはいえ、大変なことも多そうに思います。

「毎日の仕事なんで、手が抜けないね。近くの酪農家が集まったヘルパー組合っていうのがあって、そこに助けてもらうこともある。まあそうはいっても、休みがないから。年中気が抜けないところはありますよね」

恐る恐る牛に近づいてみる。意外とおとなしくて、手で触れることができた。

「あんまり怒らないように、しつけてるっていうのもあるんだけど(笑)。もうちょっとしたらエサもらって食べんといけんって、自分で帰ってくる。腹時計があるから」

「いま働いてくれているのは17頭です。頭数を増やすと、それだけ放牧地も必要になる。牛乳は隣のチーズ工房に直接送っているのと、残りはらくれんっていう四国乳業の人たちに卸して、ほかの牧場の牛乳と混ぜて売られています」

牛乳は機械で絞り、パイプから直接冷蔵庫に入っていく仕組み。隣接しているチーズ工房とはパイプでつながっているので、リクエストされた量の牛乳を直接送ることができる。

新しい人が来たら、山田さんは技術や知識を教えつつ、フェードアウトしていく予定。ただ近くには住んでいるので、なにかあれば聞くこともできると思う。

山田さんは、どういう人が酪農家に合っていると思いますか。

「その気でやりさえすれば大丈夫だから。問題はやる気ですよね」

やる気、ですか。

「なんの仕事でもおんなじやけど、積極的にやる気持ちが大事で。むずかしいことがあっても、それを乗り越えていくにはやる気が必要になる。そんな人に引き継いでいきたいね」

今回の募集は、愛媛の今治を中心にフランチャイズ事業をしている、株式会社ありがとうサービスが雇用する形になる。

ありがとうサービスは、四国や九州、東南アジアなどで、さまざまな事業をフランチャイズ展開している会社。ここ数年は愛媛を中心に、チーズ工房や温浴施設などの運営にも関わるようになった。

おいしいものや、美しい景色、温泉のような資源。それらを全体のビジョンを描いてつなげることで、地域全体の魅力を高める。そんな想いからスタートした、しまなみサンセバスチャンプロジェクト。今回の山田牧場の継承プロジェクトも、その一環になる。

現状、山田さんから直接教えてもらえることになっているけれど、高齢なのもあり、酪農未経験者の場合はほかの牧場に研修に行ってもらうことも検討している。

 

ありがとうサービスとしては、山田牧場をどのように捉えているのだろう。

チーズ工房の一室を借り、地域創生事業部長である深澤さんにリモートで話を聞く。

最近の地方創生事業はどのような感じなんでしょう。

「ようやく蒔いてきた種が芽吹き出しているときかなと思っていて。宿泊施設が一つ、今年の秋には開業できる予定ですね」

「ほかにも、今治にある旅館の再建も進めていて。協力してくれる人も増えてきて、いい未来が見えるようになってきたかなと思います」

今回の募集も、サンセバスチャンプロジェクトの大切な一部。貴重なグラスフェッドミルクと、それでつくるナチュラルチーズを絶やさないためにも、事業を引き継いでくれる人を求めている。

とはいえ、教えてくれる人がいるといっても、いきなり牧場を任せられるのは、運営や収入面で不安を感じる人が多いと思う。

そのため今回の募集では、最初はありがとうサービスが雇用し、お給料をもらいながら山田牧場の酪農を学んでくことになっている。ある程度採算がとれるようになったら、ゆくゆくは独立することも視野に入れてほしい、と深澤さん。

また以前チーズ工房で働いていた人が住んでいた家が空き家になっているため、希望すればそこに住むこともできる。

中はきれいだけれど、リノベーションすることもできるし、他県から移住する場合は自治体の補助金制度もあるので、活用できると思う。

「理想としては、チーズ工房と一体化していけるようにできたらいいなと思っていて。フェルミエっていうんですかね、チーズ工房と牧場が一体化した場所。そんな施設にできたらいいなと思います」

牛乳も、チーズ工房に送る以外の使い道を考えたい。

たとえば、グラスフェットミルクを使ったソフトクリームを開発してもいい。ほかにも、空き家をゲストハウスのようにして、チーズ工房の見学や酪農体験とセットにして売り出すのも面白そう。

深澤さんから見て、どんな人が合うと思いますか。

「『ポツンと一軒家』みたいな生活や、自給自足にあこがれている人だといいかもしれないですね。ご家族で来てくれたらありがたいですけど、もちろん単身でもよくて」

「酪農は365日気が抜けない。ある意味、人生をかけてやる仕事で。覚悟も必要だと思います。そこは、ありがとうサービスの社員がサポートできる体制をつくるとか。来てくれる人のQOLを大切にできるサポートはしたいと考えてます」

 

最後に話を聞いたのは、ありがとうサービスの社員で、チーズ工房で働いている加藤さん。

山田牧場のグラスフェッドミルクを使って、日本でも数少ないナチュラルチーズをつくっている。

「ぼくは車で40分くらいの大洲に住んで通っています。空き家に住んでも、車があればまちには出れるので不便はないのかなと」

「ただ冬は要注意ですね。雪はそんなに降る地域ではないんですが、スタッドレスタイヤは必須です。牛の世話があるので、できるだけ近くに住むのが良いんじゃないかなとは思います」

新しく来た人にとって、加藤さんは同僚のような存在になる。

どんな人に来てもらいたいでしょう。

「のちのち独立するとしても、うちに牛乳をちゃんと入れてくれるっていうのは最低条件かなと思います。あとは、人と関わることにストレスを感じない人」

「たとえばこの地区には水を引いている水源があるんですけど、そこの掃除も当番制になっていて。地域のことを『それは自分の仕事外だから』っていう人だときびしいかもしれません。都会っぽいドライな付き合い方が苦手な人のほうがいいかもしれないですね」

 

酪農家として生きていく。興味がある人でも、一歩踏み出すのには勇気が必要だと思います。

それでも、山田さんの人柄や、深澤さんをはじめとするありがとうサービスのサポート。そしてなにより自分が酪農に関わることで、地方創生事業の大きな力になれること。

目の前の仕事だけでなく、その先にある大きな目標に向かって、自分の力を活かすことができる環境だと思いました。

(2024/2/7 取材 稲本琢仙)

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