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「こうしてみたら?」「なるほど! それいいですね」
そう工房では、いろんな人が集まって話をしている姿をよく見かけます。
経験も職種も関係なく、それぞれがアイディアを出し合って工夫する。
よりいいものをつくりたい、そんな想いを持つ人たちが集まっています。
手がけているのは、障がいのある人たちのための車椅子や、姿勢保持保持装置といったオーダーメイドの補装具。姿勢を保持することで、移動や食事、学習などをサポートする「生活のための椅子」です。
今回は、補装具をつくるシーティングエンジニアを募集します。ものづくりを中心に、どんな補装具が必要かを聞き取る営業の仕事も担当します。
福祉の経験や知識はいりません。まずはものづくりが好きという気持ちから。
目の前の人のために、みんなで考え、工夫しながらものをつくる。そんな楽しさを感じられる職場だと思います。
総武線に乗り、千葉県の市川駅で下車。
そこからバスに乗ること15分。
曽谷公民館というバス停のすぐ近くに、そう工房がある。
日本仕事百貨の取材は今回で3回目。過去2回の取材を担当した先輩から、「とっても温かい人たちだよ」と教えてもらっていたから、会うのを楽しみにしながら工房へ。
中に入ると、代表の角田さんが笑顔で迎えてくれた。
「先輩は元気ですか?」
はい、実は最近、結婚したんですよ。
「なんと!それはうちのスタッフも喜びます!」
とてもうれしそうな角田さん。そのまま近くにいたスタッフさんに声をかけると、ぞろぞろ人が集まってきて、「お相手はどんな人だろう」「きっと、口数は少ないけど優しい人だよ」と話が広がっていく。
みなさん自分ごとのように喜んでくれていて、こちらまでうれしい気持ち。
お祝いムードがひと段落したところで、作業場を見せてもらう。
明るい雰囲気の作業場には、つくりかけの車椅子などが並んでいる。日除けがついているものや、背中にこもる熱を排気するためのファンが付いているもの。型も色もさまざまで、一つひとつがとってもユニーク。
「僕たちがつくっているのは、座るための椅子ではなくて、生活するための椅子なんです」
生活するための椅子、ですか。
「障がいがあって、うまく姿勢が保てない子は、バランスボールに乗っているような不安定な状態。その状態で、ご飯を食べたり、テレビを見たりするって難しいでしょう」
「だから、まずは姿勢が安定する状態をつくることが大事。しっかり座れるようになってはじめて、日々の暮らしができるようになると思うんです」
そう工房でつくっているのは主に、肢体不自由とよばれる障がいがある子どもたちのための補装具。
学校で勉強するための椅子や、家族と食事をするための椅子。ほかにも、うつぶせ姿勢や立位姿勢を保持するためのものなど、生活の基礎を支える製品をつくっている。
人によって障がいや使う目的も異なるから、それぞれの人に合ったものをオーダーメイドで手づくりしているんだそう。
「たとえば、家で食事をするための椅子なら、ダイニングテーブルの高さに合わせたり。お母さんが介助しやすいように椅子の高さを上下できるようにしたり。使う目的や状況を詳しく聞きながら、どんなものをつくるか考えていきます」
補装具づくりは、病院や福祉施設から依頼を受けるところから始まる。
最初は、営業メンバーが病院などに出向き、使う本人やその家族に直接ヒアリング。理学療法士や作業療法士といったセラピストにも同席してもらい、どんな機能が必要かを話し合いながら、一緒に考えていく。
そこで話した内容をもとに、営業メンバーが設計図を作成。製作チームがそれを形にして、仮合わせ。その後、縫製などの最終仕上げをして納品するのが一般的な流れ。
新しく入る人も、製作をしながら週に1回程度は営業に出て、実際に使う人などと話したり、つくるものがどう使われているかを見たりすることができる。
「お客さんのなかには、喋ることができない子も多いんです。でも、姿勢が安定すると、楽そうな表情になる。あとは親御さんが、『今はご機嫌ですよ』とかって教えてくれたりして。よろこんでもらえた瞬間はやっぱりうれしいですね」
9年前に会社を継いだ角田さん。この仕事をはじめて、今年で24年目になる。
「自分は基本的に、飽きっぽい性格なんです。でも、ここでは毎日いろんなお客さんと会うし、同じものをつくることはない。お客さんも、技術も、素材も、日々変化するから面白いし、飽きないんだと思います」
「あとは、みんなの働く環境を整えていたら、あっという間に時が経ちました(笑)」
子どもが生まれた従業員のために、在宅で働ける制度をつくったり、子の看護休暇休暇を延ばしたり。最近では、確定拠出年金の導入も始めたんだそう。
従業員の状況に応じて会社の制度を柔軟に変更してきた角田さん。社内メンバーも長く勤めている人がほとんどだ。
「人が宝ですから。長く働いてもらうに越したことはない。毎日健やかにみんなで働いていけたらいいなと思っています」
「誕生日にはケーキも出るんですよ。お菓子も食べ放題だし。それも長続きの秘訣かな」と笑うのは、シーティングエンジニアの田中さん。
6年前に、日本仕事百貨の記事を通じて入社。1年間の育休を経て一昨年の11月から復帰した。
「もともと、ものづくりがしたくてフラフラしていたんです」
書道をはじめ、革製品の小物などをつくっていた田中さん。制作のための時間を確保するために、短い時間で働けるアルバイトや事務職などを転々としていた。
「根が真面目だから、どうしても働き過ぎてしまって。だったらものをつくること自体を仕事にしたほうがいいなって考えていたときに、そう工房に出会いました」
「つくること自体に飢えていたから、ウレタンを切ったり、部品をつけたりするだけですごくうれしかった。それでお金をもらえるなんていいの?って感じで。しかも使う人に喜んでもらえるなんてすごいですよね」
人の生活を支える道具をつくる。そんな緊張感を持ちながらも、田中さんを含め、ここで働いている人たちはものづくり自体をすごく楽しんでいるのが伝わってくる。
製作を担当するシーティングエンジニアの仕事は、どうやって進んでいくんでしょう。
「営業スタッフが図面をつくって、椅子の基礎となるフレームを外注します。わたしたちの仕事は、そのフレームが届いたところからがスタート」
「私は、まず椅子を使う人の写真を見て、勝手に友だちになった気分でつくってます。今つくっているのは、けんちゃんの椅子。ちょうど納品の日が誕生日なんですよ」
基本は、ひとりで一台の補装具を担当。届いたフレームの寸法などを確認した上で、設計図を読みながらフレームに取り付ける座面や、ヘッドレスト、ベルトなどをつくっていく。
扱う素材も、ウレタンや金属、木材、布など様々。それぞれの素材を切ったり、曲げたりしながら加工して形をつくる。
「設計図を見ただけだと、意図がわからなかったり、実際につくってみると上手くいかなかったりすることもあって。そういうときは、一人で悶々と悩むんじゃなくて、みんなで話す。とにかく話すことが多いです」
正解がないからこそ、工房では製作、縫製、営業があつまって話をするのが日常茶飯事。それぞれの視点からアイデアが飛び交い、建設的にものづくりが進んでいく。
「以前の担当者から情報を共有してもらったり、過去の資料を遡ったり。製作や縫製チームには長年働いているレジェンドもいるから、その人たちにも意見を聞きながらつくり上げていく」
「1つのものに対して、経験も立場も関係なく、みんなが同じ熱量で話し合う。それが当たり前にできているのが心地良いんです」
新しく入る人も、経験は関係なくどんどんアイディアを出してほしいと田中さん。
「長く続けていると、当たり前になってきちゃう部分もある。それに、人によって気づくこととか視点って全然違うと思うんです。だから、新しく入ってくる人には、単純なことでもいいので、なんでも伝えてほしいです」
最後に話を聞いたのは、2年ほど前に入社した近藤さん。
看護師を辞め、職業訓練学校で溶接を学んだという面白い経歴の持ち主。
「自分が看護師時代にクリニックで見ていた子の車椅子を手がけることもあって。本人には伝えないけど、心の中でおっきくなったねって思ってうれしくなります」
「ただただ、ものをつくるのが好きだったんです。工作も、絵を描くのも、料理も好きで。ものづくりを仕事にしたいなと思って、コロナをきっかけに転職しました」
未経験で入社した近藤さん。はじめての仕事に戸惑うことはなかったんでしょうか。
「覚えることは多いです。木工や、金属加工の仕方、ウレタンの削り方、縫製の手伝いをするならミシンの使い方とか。営業に行くこともあるので、国の補装具制度や話の引き出し方を学んだり」
「でも、スタッフのキャラクター的に、なんでも聞きやすい雰囲気で。あと、オーダーメイドっていう性質上、先輩にとってもはじめてのことが多い。みんなで考えようっていうスタンスでいてくれるから、アイディアも出しやすいし、話し合いも盛り上がります」
たとえば、と言って、最近みんなで考えた製品を見せてくれる。
「車椅子に取り付けるおむつシートをつくってほしいという依頼があって。一見単純そうなんですけど、これが意外に難しかった」
「人が乗ると、生地がずれて丸まっちゃう。それに、この車椅子は背中の部分に換気用のファンが付いているから、生地で塞がないように位置も工夫しないといけなくて。取り替えも簡単で、ちゃんと固定できる方法をみんなで考えました」
実際にスタッフが乗って確認したり、試作を繰り返したり。最終的には、シートをマジックテープで固定する方法に落ち着いた。
「一度つくっても、別の人の車椅子は形が違うから使い回せるわけじゃない。大変さもあるけど、いろんなものをつくり続けられるのが楽しいなって思います」
近藤さんは、入社してから会社のInstagramアカウントを作成。出来上がった車椅子の写真を発信している。
「投稿を見つけて、この配色でつくりたいって言ってきてくれるお母さんもいるんです」
「車椅子の色を選ぶのも、子どもの服を選ぶのと同じ感覚なのかなって思って。モモカちゃんにはピンクかな。ピンクだったら、タイヤカバーも桜柄がいいよね、みたいに楽しんでくれているとうれしい。自分たちもつくることを楽しんでいるし、お客さんも楽しんでくれるっていいなって思います」
最後に、代表の角田さんの言葉を紹介します。
「ものづくりっていろんな種類があるけれど、この仕事はものづくりの原点みたいだなって思うんです」
「困っている人がいて、その人のために何ができるかを考えながらものをつくっていく。それで、使う人がリラックスできたり、まわりの人が喜んでくれると、僕たちもうれしくなる」
使う人も、つくる人も。みんながうれしくなる。そんな健やかさが感じられる仕事だと思います。
(2024/7/31 取材 高井瞳)