求人 NEW

かけた手間ひまが
温もりとして滲み出すまで

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

田舎暮らしは、いそがしい。

天気の変化に備えたり、野生の動植物とうまく付き合う工夫をしたり。都会なら余暇になる時間で、身の回りの手入れをし続ける。

そんないそがしい暮らしに、さらにひと手間ふた手間かけて楽しんでいるのが、フォークロアのみなさん。長野・南木曽町で、3つの宿泊施設を運営している人たちです。

布を染めたり、調味料をつくったり。部屋を温めるための薪も自分たちで用意する。

築200年以上の古民家を改修して生まれた「ホステル 結い庵」では、スタッフの得意なことを活かしながら、自分たちの手で衣食住を形にしています。

手間をかければ、空間の隅々まで意識が行き届く。その居心地のよさを「ここは温かいハグのような家」と表現したお客さんも。

フォークロアでは、これから一緒に働く人を募集します。海外からのお客さんが多いので、英語を話せるか、働きながら身につける意欲があるといい。

ただ1日のほとんどはお客さんを迎えるための準備、つまり古民家での家事にあたる仕事です。

言い換えれば、料理、洗濯、掃除、縫い物、染め物、畑仕事など。それ単体で生業にするのは難しいジャンルに仕事として向き合える。衣食住のなかで何か探求してみたいテーマがある人には、いい環境かもしれません。

アルバイトという入口もあるので、フリーランスで働く人の複業など、いろんなライフスタイルにアレンジできます。

長野県の南西部にある南木曽町へは、名古屋から特急で1時間強。かつて中山道の宿場町として栄えた古い街並みや自然の美しい景色を求めて、国内外から多くのお客さんが訪れる。

ホステル結い庵へは、車で駅から15分ほどで到着する。

「とりあえず散歩でもしましょうか」

着いて早々オーナーの熊谷洋さんに誘われ、母家の周りを歩きながら話すことに。

一帯はかつて田んぼだった場所で、熊谷さんが受け継いだときにはすでに耕作放棄地になっていた。今は一部で野菜をつくっているほか、栗や桑、ブルーベリーなどの木が生えている。

熊谷さんはこれからここを小さな森にするつもりだそう。そのために植えたドングリは、か細い枝を伸ばしている。

大きくなるまで、どのくらいかかりそうですか?

「まだどうなるかは全然わかりません。ここだけ見たらすごく悠々自適な暮らしをしていると思われそうだな(笑)」

もともと東京にある大手I Tの会社で働いていた熊谷さん。東日本大震災をきっかけに、都市の消費システムに頼らない生き方を模索するようになった。

そのフィールドとして可能性を見出したのが、日本の里山。

地域おこし協力隊として南木曽に移住したのが2015年。2年後には結い庵を開業した。ずっと空き家だった場所が明るさを取り戻し、地域の人も一緒に喜んでくれた。

「ただ実際に来てみると、地方は思った以上に衰退し続けていて。自分が一軒再生するよりも速いペースで空き家が発生する。この里山の暮らしを維持していくためにも、スピード感を持って事業の規模を大きくする必要性を感じました」

創業から数年間は1年に1軒ほどのペースで空き家を改修し、ゲストハウスの開業を続けた。

もっと速く、もっと前へ。理想を目指して邁進する熊谷さんを、否応無しに立ち止まらせたのは、3年にも及んだコロナ禍の影響だった。

農業担当のスタッフが辞め、熊谷さん自身が草刈りに出始めたのもそのころ。

「それまで、畑仕事は人に任せきりでした。もともと不得意な自覚もあったし、経営者は、もっとビジョンや戦略を考えるような役割だと思っていて。ただ、草刈りをするようになってはじめて、この土地とちゃんと向き合っている実感が湧いてきたんです」

「やってみると、いろんなことが見えてきます。草の種類や生え方、野生動物がやってきた痕跡。自生する桑の木は切っても切ってもしぶとく生えてくるかと思えば、欅の幼樹を親木から離れたところに移植するときは、よく目をかけてあげないと根付かないとか」

草刈りだけでなく、掃除、洗濯、料理など、宿の仕事は形に残らない小さな作業の連続でできている。

事業拡大という大きな目標に向かっていたときは、単なる「手段」に過ぎなかった日々の仕事。熊谷さんはあらためて、その一つひとつに意識を注ぐようになった。

「そこに積んである薪もそうです。薪って、それ自体をお客さまから評価されることはないけれど、積み方によって空間の雰囲気に与える影響は僅かにある。そういう誰にも気にされないところにも、気持ちを入れることが大事だと思うようになりました」

ちなみに、薪を積むには結構コツが要る。

木の種類や乾燥度合いで置き場所を変えたり、形の組み合わせでバランスを取ったり。初心者がやるとすぐ崩れてしまうらしい。

「そもそも薪をきれいに積むには、その前に薪割りという仕事があるし、割る前にはまず木を伐ってくる必要がある。もっといえば、その木は大昔に誰かが植えてくれたから、今使える状態でここにあるわけです。そうやって遡って考えると、自分も次世代のために木を植える使命があることに気づく」

「時間の流れや風土、いろんなことに気を配りながら薪を積む人というのが、この宿が目指す働き方のイメージに近いと思います」

宿の建物は熊谷さんの自宅でもあり、夕方になれば学校から帰った8歳の娘さんがスタッフと遊ぶ声が響く。

居室とバックヤードも明確には区別されていない。大きな梁にぶら下げた竹竿が並ぶ物干し場は、お客さんからも見える場所にある。

以前まで家の中心にあった囲炉裏は、最近取り除いて床を張り、椅子を並べた。

「囲炉裏がある風景は気に入っていたけど、実際には使っていないのでディスプレイの状態でした。僕らが大切にしたいのは、日本の里山で暮らす等身大の姿を、自然な形で感じてもらうこと。そう考えたら囲炉裏は無くていいと思えたんです」

「当初は『おしゃれに見せたい』という欲もありました。今はもっと普通のことを、手を抜かずにやり続けてみたい。その結果として染み出してくる何かが、この宿らしさになっていくんじゃないかと思います」

長い休業の期間を経て、再び賑わいを取り戻した結い庵。熊谷さんのパートナー、理絵さんにも話を聞かせてもらった。

「お客さまの9割が海外の方なので、華やかなイメージを持たれるかもしれませんが、地道なことが多い仕事です」

結い庵の1日は、朝7時ごろから始まる。

冬場は薪ストーブに火を入れ、部屋を暖めながら朝食の準備。お客さんのお見送りまでは、理絵さんと洋さんのふたりで分担して行う。

その後、昼番のスタッフが合流して清掃とベッドメイク、夕飯の仕込み。夕方4時にはチェックインが始まり、夜番と交代しながら夜10時までお客さんと一緒に過ごす。

「基本の流れは一緒でも、まったく同じ日は1日もなくて。たとえば今日は昨日に比べてとっても暖かいので、部屋の整え方を変えたいし、お客さまの家族構成によって必要な用意も違う。いろんな工夫、自分の考えを表現する場所がたくさんあります」

この宿の「室温調節」は、なかなか難しい。

薪ストーブの火の大きさや、扉の開け閉め、追加するストーブの置き場所、さらにお客さんがどんな地域から来たかなど、いろんな要素を考慮して過ごしやすい状態に整える。

ボタンひとつで空調を一定にできる施設に比べると、すごい手間ひまだ。

ただ、そうして相手の状態や空間に対して意識的であり続けると、小さな異変や不具合に気づいて対応できるようになる。それがきっと、結い庵という場と人から感じる、静かな優しさみたいなものの正体だ。

「私にとってここで過ごす時間は日常だけど、お客さまは一生に一度の体験として訪れるのかもしれない。そんな人たちに対して、私が普段のままで接するのは失礼だから。毎日新しい気持ちでいたいんです」

お客さんから問い合わせを受けたときも、なるべく細かく答えるという理絵さん。

宿とは関係ない観光の情報など、自分が知らないことでも調べる手間を惜しまない。

「日本語で書かれた情報なら私たちが調べたほうが早いですし、少しでも彼らが旅行を楽しむ時間を増やしてあげたい。得た知識は、またいつか別のお客さまの役に立つかもしれないし。自分なりの提案を入れて答えるのは、機械にはできない仕事だと思います」

目の前の人と、きちんと向き合って出会いたい。

理絵さんが大切にしているこのスタンスは、お客さんに対してだけでなく、スタッフ同士の関係性にも共通している。

「もしスタッフの仲がピリピリしていたら、その空気感をお客さんは肌で感じるはず。ここでは、お互い声をかけあって気遣う、連携プレーを大事にしている人が多いと思います」

そう話すのは、結い庵で働くスタッフのカール映香(えいこ)さん。

2019年に名古屋近郊から夫婦で移住し、今は2歳のお子さんも含めた家族で南木曽に暮らしている。宿で働きはじめたのは、地域の人との関わりを持ちたいと思ったから。

「子どもを保育園に預けられないときには『一緒に連れてきていいよ』って言ってもらえて本当に助かりました。そういう関係性があるから、仕事を続けてこられたと思います」

宿では日中の清掃などを中心に担当する映香さん。次の人が作業しやすくなる工夫のタネを見つけるのが楽しいという。

「たとえばリネンを畳むときは、数えやすいように並べようとか。お客さまには見えないところでも、みんなが楽になる方法を考えたいですね」

「日々の仕事は、つねに時間に追われるほどいそがしくはないけれど、暇な時間はあまりないかな。手が空いたら、前から気になっていたところを掃除したり、メニューボードを見直したり。何かやることが見えてくる感じです」

見えてくるものは、きっと人によって違う。

料理が得意な人、庭いじりが好きな人、絵や字を書くのが上手い人、それぞれの興味や得意なことを活かして、足りない部分をもっとよくしていけるといい。

映香さんはもともとパタンナーとして働いた経験もあり、宿の暖簾やカーテンの修復、染め物なども手がけた。

「いろんなものが安く簡単に手に入る時代に、古いものを直しながら使い続けていくって、なかなかできないですよね」

取材が終わりかけたころ、テラスのほうから「大きいバッタ見ますか?」というお誘いが。みんなで「大きいね」「トノサマバッタだね」と観察する。

日々出会うものに対して、五感を開いて向き合い、どういう関係を結ぶか考えていく。

熊谷さんが移住に求めた「自然のなかで生きる力」は、その繰り返しのなかで育まれていくのかもしれません。

(2024/11/11 取材 高橋佑香子)

※掲載写真はフォークロアのスタッフ清家さんの撮影によるものです。

この企業の再募集通知を受ける

おすすめの記事