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「ガラスの製造、検品、出荷。どこが欠けても、うちの商品は生まれない。苦労の結晶だと思うんです。人から人へ、それぞれの手を渡り、最終的に使う人がいる。それって、すごく魅力的なことですよね」
松徳硝子で製造の責任者を務める小田さんは、感慨深そうに話します。
大正11年創業の松徳硝子。一つひとつの商品を職人の手作業でつくりあげるガラス工場として、商品の質と量、どちらも妥協することなく追求してきました。
今回募集するのは、製造部門の「仕上げ」工程を担う職人。
吹き職人が吹き上げたグラスの飲み口を美しく仕上げ、きれいに洗浄し、「松徳硝子のグラス」として完成させていく役割です。
地道な仕事を、毎日コツコツ実直に。自分とチームの力を高めて、いい製品をいかに多く生み出すか。真剣に考える人たちが、日々ものづくりに向き合っています。
経験は一切不問。これからものづくりの世界に足を踏み入れ、長く働き続けていきたいという人に、ぜひ知ってほしい仕事です。
東京・南千住。
駅前からまっすぐ続く大通りを歩いていく。
マンションの1階にお店が入る建物が多く、生活感のあるまちなみ。5分ほど進み、ひとつ角を曲がったところに、松徳硝子の工場はある。
インターフォンを押すと、代表の齊藤さんが出迎えてくれた。食堂に案内してもらい話を聞く。
「前回の募集でもいい人が決まって、もうすぐ入社してきます。自分は何回も出てるんで、スタッフの話をたくさん伝えてください」
そう言いながらも、いつも通り丁寧に熱く話をしてくれる。
「ここを儲かる会社にして、次の代に渡す。そのミッションでこれまで経営をやってきて。だいぶ結果が表れてきたというか、手応えはすごくあります」
齊藤さんが代表に就任して5年。
先代までの「ひたすらつくる」ような生産体制から、綿密に計画を立て、目標とする製造個数や不良率を明確に掲げる体制へ。
いかに効率的に動き、目標を達成するか。多くのスタッフが自分ごととして考えるような仕組みや雰囲気を、各部門のリーダーとともにつくってきた。
その結果、安定して利益が出るようになり、ボーナスや年間休日の増加など、長く働きやすい環境が整いつつある。
「もちろん製造数は、材料の具合にも左右されるし、誰しも調子がいいときとわるいときがある。人が介している以上、完璧なんてありえませんから」
「ただ、その誤差を努力と継続でどう埋めて、できるだけ完璧に近づけていくか。ずっと考え続けていくんだと思います」
今回募集するのは、仕上げ職人。
製造においては、どんな役割になるんだろう。
「僕らのグラスは、『おいしく飲める』っていう付加価値が特徴。そのための飲み口を最終的につくるには、仕上げの仕事が非常に重要なんです」
松徳硝子の代表商品「うすはり」は、薄さ1mm以下。飲みものの風味をじゃましない、なめらかな口当たりが評判だ。
以前、自分が使ったときのことを思い返すと、その薄さも相まって特別感が増し、グラスを手にする時間ごといいものになった感覚を覚えている。
「仕上げがおろそかになると、どんなにいい形に吹き上げられたグラスでも、『おいしく飲める』という機能は実現できないんです」
具体的にはどんな仕事をしているんだろう?
工場を案内してくれたのは、仕上げ部門の責任者を務める、小田さん。
もともとは19年前に吹きの職人として入社し、今は製造全体を統括する立場でもある。謙虚な雰囲気と話し方。きっとチームのメンバーも一緒に働きやすいだろうな。
「このあたりが仕上げのエリアになります」
仕上げに含まれるのは、大きく分けて4工程。
隣のゾーンで吹き上げられ、手に持てる温度まで冷却されたグラスが運ばれてきたところから、仕上げの仕事がはじまる。
まずは「火切り」から。
「ここは切断の工程です。最初は不要な部分がついた状態なので、製品のサイズにあわせた高さにダイヤで線を引き、そこにバーナーで熱を加える。すると、傷の位置でパカっと割れてグラスの形になる仕組みです」
「肝になるのは、できるだけ均一な力で傷をつけること。強すぎても、優しすぎてもいけない。同じように見えても一個一個違うものなので、慣れるまでは加減がむずかしいですね」
この段階では、まだ飲み口は切断しただけの状態。
次の工程が「摺り(すり)」。
最初は機械で、次に研磨剤を使い職人の手で。木材でいうヤスリがけのようなイメージで、徐々にグラスの飲み口を滑らかにしていく。
「この次が『洗浄』。新しく入る人にも、この仕事は必ず覚えてもらいます」
まずは手で洗い、そのあとは洗浄機で2回にわたり入念に洗浄。摺り工程の研磨剤や、素手で触る際の手垢などをきれいにしていく。
洗い終えたものは、水滴が残らないようきれいに拭き上げ、最後の「口焼き」の工程へ。
最後に飲み口をバーナーで炙って溶かすことで、繊細な口当たりのグラスができあがる。これらの工程が終わったら、隣のゾーンの検品にまわり、出荷されていく。
「みんな黙々と作業しているでしょう。常時声を掛け合うような雰囲気ではないんです」と、小田さん。
「でも以前は、それぞれの工程がもっと分断されていました。同じ仕上げ部門なのにって、もどかしくて」
ここ数年で、製造の体制を変更。「洗浄と火切り」「洗浄と摺り」というように、全員が洗浄ともうひとつの役割を兼務するようになったそう。
「より効率的に進められるように、みんなで連携していこうと決めました。その結果、いそがしいときにお互いがカバーし合うようになって、それぞれの大変さもわかりましたし、コミュニケーションも生まれた。最初はおぼつかなかったけれど、やり出してしまえば大丈夫でした」
今回入る人は、洗浄と火切りの工程を覚えていく可能性が高い。長い目で、作業一つひとつを習得していってほしい。
「うちの社内には、なんでもできる人はいません。前後の工程にはそれぞれのプロがいるし、仕上げの中でも、主担当が決まっている。それぞれが戦力で、みんなが力を出し合って製造しています」
「社歴は浅いけど、もう十分職人の入口にいる」と紹介されたのが、入社して1年半の平野さん。仕上げでは一番社歴の浅いスタッフ。
真剣な眼差しで、洗浄工程の最後にあたる、拭き上げ作業に向き合っている。
洗浄機から出して30秒待ち、その後ふきんで口元を拭く。ふきんの当て方は、全員のやり方を検証して導き出された、もっともきれいに拭き上がる方法だという。
「出荷検査前の最後の工程として、きれいに仕上げられるように特に気をつけています。自分たちは、吹きと検品の部門をつなげるところにいるので」
「ぶつけたり落としたりして一個一個を無駄にしてはいけないと、最初はとても緊張しました。つくるのが難しい商品などは、今もすごく慎重になります」
前職は公務員。もともと興味のあったものづくりや伝統工芸に関わりたいと、まったくの異業種から、松徳硝子に入社した。
「転職先を調べるうちに、東京の地場産業がガラスだと知って。私自身、お酒を飲むことが好きで、いいグラスだとお酒を飲む時間も楽しくなると実感していたので、興味を持ちました」
松徳硝子の『きっちり働いて、しっかり休んで、業績を出す』という働き方の方針にも強く惹かれたという。
「伝統工芸と休日数をしっかりと両立しているところはそう多くないですし、今後も長く続いていく会社だなと思ったことも、選んだ理由のひとつです」
うすはりのことは知っていたんですか?
「はい。ただ、ほしいなとは思っても、実際に使うには薄くてこわいなと。値段がちょっと高いこともあって、入社するまでは持っていなくて」
「でも製造する立場になると、ガラスにしなりがあるので、よっぽど強くぶつけたり、ひねったりしない限り、丁寧に扱えば長く使えることがわかりました。自分で買って使ったり、なにかの記念に友人に贈ったり。馴染みの飲み屋さんにもプレゼントしています」
自分の仕事を誰かに伝えたいと思うのは、自分の仕事に誇りを持てている証だと思う。
平野さんは今、洗浄と、タンブラー型の商品の摺りを主に担当。少しずつ、できる仕事の範囲を広げている。
「持ち方や力加減を試行錯誤して、うまく決まって高さがピッタリ揃ったりすると、うれしいです。それを継続できて、多くのグラスを綺麗に摺り上げられたときの達成感は大きいですね」
「商品によって具合が変わるので、自分のなかでも調整中というか、身体で覚えているところではあります」
あくまで工場だから、誰がやっても極力同じように仕上げるというのは大前提。それを達成するための工夫を、個々とチームで積み重ねていく。
たとえば、拭き取ってもうまく落ちない汚れがあったときや、なかなか製造が目標数に届かないときも。「こうしたらもっと良くなるんじゃないか」「ここを変えてみたらどうだろう」と、みんなで意見を出し合い、仮説検証しながら対策を立てていく。
仕上げのチームは控えめな人が多いそう。とはいえ、新人である平野さんも積極的に発言でき、それをフラットに受け入れてもらえる雰囲気だという。
新しく入る人も、まずは目の前の自分の仕事に向き合うことから。ゆくゆくは、全体として精度を高めていくための動きができるといいと思う。
「チームのなかで一体感のようなものを感じられる機会があるのが、いいなと思っています」
「仕上げのなかでも工程は多いですし、その一つひとつに気をつけることがたくさんある。それでいて、一通りできるようになるまでに長い時間がかかるので、小さいことにもコツコツと取り組める人が合っているのかなと思いますね」
ほかには、どんな人が向いている仕事だと思いますか?
「ガラスが好きな人や、いいグラスで飲むお酒が好きな人なら、自分でつくってみるのはすごくいい経験だと思います」
「自分たちのグラスで晩酌すると美味しさは全然違いますね。お店で、うちのグラスに上手にビールを注いでくれているのを見たり、それを飲んでおいしいと言ってくれる人がいるとうれしくなる。そんな楽しみを感じられる人なら、すごく充実した仕事ができるんじゃないかなと思います」
花形の仕事に惹かれる人や、わかりやすい大きなやりがいを得たい人には、あまり向かない仕事かもしれません。
毎日コツコツ、同じことに向き合い、手を動かし続ける。
そのなかで、先月よりも上手くなった、昨日よりも多くものを仕上げられた、そんなやりがいをモチベーションに努力できる人が、長く続けられる仕事だと思います。
ひたむきに、職人としての毎日を重ねていきたいと思う人に、松徳硝子の門戸は広くひらかれています。
(2024/10/23取材 増田早紀)