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世界三大漁場のまちを
暮らしながら、編集する

三陸の海は、世界三大漁場のひとつ。

寒流と暖流が交わり、沖合でプランクトンが大量発生するため、豊富な種類の水産物が育ちます。

その恵みを受けてきたのが、岩手・大船渡。

マや鮭の漁牡蠣やホタテの養殖業など豊かな海の幸と人々の営みが、このまちを形づくってきました。

そんなまちの中心に今年できたのが、移住・定住相談センター「トモヅナ」。となりの陸前高田市で移住定住に長年取り組んできた、特定非営利活動法人高田暮舎(たかたくらししゃ)が運営しています。

今回募集するのは、編集者や移住コーディネーターとして、大船渡への移住の入り口をつくる人。

地域おこし協力隊のため、任期は3年。卒業後はトモヅナに残ることも、ほかの地域で編集者としてステップアップもできます。

住まいや車などの補助も充実していて、すぐ移り住むこともできる環境。

書くことを仕事にしたい人、地域の暮らしを発信したい人、3年後の自分のあり方を考えたい人に知ってほしい仕事です。

 

東京から新幹線で一ノ関へ。電車に乗り換え、東へと山沿いを進んでいく。

ここまで4時間ほど。視界がパッと開けるたびに、入江と半島の景色が見える。

三陸の海に見られるリアス式海岸は、いつ見てもきれい。

スタッフの方に最寄り駅まで迎えにきてもらい、まずはお昼を食べることに。

注文したのは、季節の十割蕎麦。

大粒の牡蠣とワカメがたっぷり入っていて、おいしそう。

濃厚でミルキーな牡蠣に、やさしい蕎麦がよく合う。マグロの竜田揚げとキビナゴの南蛮漬けもサービスしてもらい、気持ちまで満たされる。

食事を済ませた後は、近くにあるトモヅナの事務所へ。

まずは、高田暮舎の代表理事を務める岡本さんに話を聞く。

陸前高田の出身で、東日本大震災をきっかけに、東京から地元へ戻ってきた。

「震災のとき、支援で全国から人が来てくれました。でも、所属先や予算の都合で、活動が終わると離れることになって。そのなかには、まちに残って力になりたいと思っている人がたくさんいたんです」

そんな人たちのために、移住定住を支援する高田暮舎を2018年に立ち上げた。

メインの事業は、移住ポータルサイトや空き家バンクの運営。築180年の古民家を改装して、泊まれる古本屋「山猫堂」を立ち上げるなど、さまざま形で地域課題にアプローチをしている。

立ち上げから8年で移住に携わった人は、およそ123人。行政と連携をとり、受け入れ体制をきちんと整えたことで、全国的にも一定の成果を収めることができた。

影響はまちを越え、大船渡市から「移住定住の事業を担ってほしい」と声がかかったのは2年前のこと。

「陸前高田で形にできたのは、自分のまちを良くしたいと思っている人がいたから。大船渡でやるなら、地元の人が中心でやるべきだと思って、一度はお断りしたんです」

「もし高田暮舎がやるとしたら」と聞かれて、2つの条件を伝えた岡本さん。

1つは中心メンバーを大船渡の人で構成すること、もうひとつは腰を据えてじっくり取り組む時間や予算を確保すること。半年後、その通りに計画が組まれることに。

「ここまで言ってくれるなら、市としても本気なんだなと。だったら、ちゃんと応えなきゃいけないと、大船渡にも拠点を立ち上げることにしました」

船を陸地につなぎとめる艫綱(ともづな)から名前をとった「トモヅナ」。人と人を結びつける存在でありたいという願いが込められている。

トモヅナの活動拠点、ポータルサイトは、まだ今年できたばかり。

新しく入る人は、事業の立ち上げから関わっていくことになる。

「ゼロから考えるわけではないので、気負わずに来てもらえたら。陸前高田で8年かけて積み上げてきた仕組みを参考に、まずは土台を整えていくつもりです」

「いろんな仕事がありますが、やりたいことはシンプルで。移住する人に、理想の暮らしを叶える場所を見つけてもらうこと。届けたい人を想像すると、必要なものが見えてくると思います」

たとえばそのひとつは、先輩である移住者のインタビュー記事をつくること。どうして大船渡を選んだのか、どんな暮らしを送っているのか、一人ひとりを掘り下げることで、まちの魅力も見えてくる。

「すでに記事になっているんですが、三陸の海と山に惹かれて移住した方がいます。NHKで長く働かれていた方で、いまは山道を走るトレイルランニングの大会を運営されていますね」

大船渡はここ数年で、地域おこしの新たな目玉がたくさん生まれている。

たとえば、地元産ぶどうを醸造するワイナリー。三陸の南北に点在する10以上のワイナリーを巡る「ワインツーリズムさんりく」といったイベント。

ほかにも、青森から福島まで1000kmの美しい海岸線を巡る「みちのく潮風トレイル」など。海外からの旅行者や、何度も訪れるリピーターも増えている。

こうした新しいコンテンツの紹介や、お試し移住ツアーの企画などを通して、大船渡を訪れるきっかけをつくっていけるといいと思う。

編集やイベント企画などの経験はなくても大丈夫。

どんな人に来てほしいか聞くと、「まだ大船渡を知らない人」と岡本さん。

「地元の人にとっては当たり前のことでも、はじめて訪れる人にとっては、感動するほどの魅力が残っている。この仕事においては、むしろ地域を知らないことが強みになるんです」

「また、自分の仕事が、そのまま大船渡市の施策になる。実績をつくって、ほかの地域の移住定住を支援してもらうキャリアも大歓迎です」

ほかに理事として関わってくれるのが、阿部正幸さん。

阿部さんは、震災後に岩手で生まれたメディア「東北食べる通信」の編集長をつとめている。自身も札幌から移住した一人として、生産者の暮らしに耳を傾けて言葉にしてきた。

新しく入る人が書く原稿は、阿部さんに見てもらうことになる。地域で編集に携わってきた人のとなりで、自分の文章を磨いていける環境は、なかなかないと思う。

「興味が湧いたら、編集やライティングの仕事も紹介できます。任期後のキャリアもサポートするので、安心して飛び込んできてほしいですね」

 

「もうひとりの理事には、ぜひ会ってみてください」、そう紹介されて事務所を後にする。

車で30分ほど海沿いを東へと進み、越喜来(おきらい)という小さな港町へ。テントで作業をしていたのが、ホタテ養殖を営んでいる中野さん。

大船渡の出身で、高校から仙台、大学で東京へ。震災をきっかけに地元へUターンしてきた。

「移住というか、地域に来てもらうことの大切さを感じていて。お手伝いやインターンなどの受け入れを、漁業のかたわらずっと続けてきました」

「でも、一人の事業者としてやれることの限界も感じて。市の事業として動くことで、より多くの人に届けられると思って、関わらせてもらうことにしました」

トモヅナでは、どんなことができそうでしょうか。

「まだ始まったばかりなので、自由度は高いと思います。移住する人のためになれば、なんでもできる。新しく入る人の個性が出るんじゃないかな」

中野さん自身、漁業にとどまらず、さまざまな活動をしてきた。

たとえば、越喜来の海の幸を全国に届けるプロジェクト「OKIRAI PREMIUM」の企画、新鮮なホタテを自分で焼いて味わえるイベント「ホタテふぇすた」の開催など。

漁の手伝いなども歓迎だそう。やってみたいことがあれば、中野さんも力を貸してくれると思う。

 

新しく入る人は、大船渡のまちを楽しんで、魅力を発見できると良さそう。

そんな話の流れから、漁の仕事を手伝わせてもらうことに。

中野さんが船長を務める「えびす丸」では、ホタテ養殖のほかに、いまが旬のワカメ漁も行っている。

作業服に着替えて、今朝採れたばかりのワカメを茹でて塩蔵加工する作業を見せてもらう。

漁師さんが、青いカゴのなかに入っている大量のワカメを、次々にお湯のなかへ入れる。

黒ずんだワカメが、鮮やかな緑色に変わっていく。

実は大船渡は、ワカメ養殖発祥の地。三陸のリアス式海岸で育つワカメは、全国でも高く評価されている。

都内にいるとワカメは乾燥して縮んでいるイメージがあるけど、大船渡のワカメは肉厚で葉が大きい。旬の生ワカメをしゃぶしゃぶで楽しむ文化もある。

採れたてを食べさせてもらうと、コリっとした食感でおいしい。

「東京にいた頃は、面白い仕事は都市にしかないと思ってました。でも震災があって、地域の課題が出てきて、それに取り組んでいるうちに、東京では味わえないチャレンジが、このまちにはあるって気づいたんです」

「大きな都市だと自分は小さな存在だけど、こっちは自分ひとりでまちが変わる可能性がある。大船渡に限った話ではないですけど、生きてるなって実感がありますね」

確かに、久しぶりに身体を動かして、充実感もある。心身の健やかさは、こうした暮らしからも生まれるのかもしれない。

 

事務所に戻り、最後に話を聞いたのは、働き始めて3週間の東川さん。

大船渡で生まれ育ち、飲食店の立ち上げを経てトモヅナへ。新しく入る人にとっては、一緒に働く同僚になる。

「正直、20代の前半までは、このまちは廃れていく一方だと諦めていたんです」

考えが変わるきっかけになったのが、大船渡市の観光や特産品をPRする親善大使「つばき娘」に就任したこと。

「ご飯を食べているとき、まちなかで声をかけてもらうようになって。大船渡のことを考えている大人がこんなにいるんだって。そこから、自分も同じ側に立ちたいと思うようになりました」

実際に働いてみて、どうですか。

「私が地元出身なので、移住者の方とのつながりが少なくて。どんな方がいて、どうして移住したのかのヒアリングからはじめていますね」

「移住者の方にインタビューをさせてもらって、記事も書いています。私自身、書くのは未経験ですが、まずはやってみて、阿部さんに確認してもらいながら進めていて。新しく入る人とも一緒に切磋琢磨していけたらうれしいです」

まだ働き出したばかりの東川さん。少し気は早いけれど、3年後についても聞いてみる。

「まだ明確にはないんですけど、人との関わりが増えて、日々刺激をもらっています。漁師、編集者、醸造家さんなど、いろんな生き方があるんだなって」

「岡本さんや中野さん、阿部さんと経験豊富な方たちの近くで働けて、学べることは多いです。まずは目の前のことに取り組んで、これからを考えていけたらと思っています」

 

 

インタビューや書く力は阿部さん、地域とのつながりや企画の力は中野さん、事業の足場は岡本さんと高田暮舎の8年から。

立ち上げの自由度はありながらも、学べる土台はしっかり用意されていると思いました。

世界三大漁場の恵みを味わいながら、大船渡への入り口をゼロから編んでいく。

実りのある3年間になると思います。

(2026/04/21 取材 櫻井上総)

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