第4回「地域とつながる、すべてがつながる」
前回に引き続いて300年以上続く、ちくごでは最も古い蔵元「若竹屋」にいます。
14代目の林田さんは、一度はちくごを離れて、東京で生きていこうとしていましたが、若竹屋の仕事に感動する機会があり、地元に戻り家業を継ぐことを決意します。
今回は地元に戻ってからのお話です。
―いろいろな「帰郷」はあるのでしょうけど、帰ってきてどう思いましたか?
第一印象はやっぱりほっとするよね。
帰って来た瞬間のことをよく覚えているよ。福岡から帰ってくるときは高速に乗って甘木インターを降りて、筑後川を渡って入るわけ。
筑後川の橋を渡るために土手を登って行かなきゃならない。登りきったら筑後川と田主丸の街並みと耳納連山がドーンと入ってくる。青年が旅立っていくときの決意と同じなんだよね。ここで一生生きていく、っていう決意をもって帰ってきているわけだから。
―戻ってきてどうでしたか。
とにかく仕事ですよね。いい蔵にしたいと思って帰ってきているわけで。
全国の蔵をバイヤーとして、それも先進的で評価の高いところに買い付けに行っているわけだから。するとどうにも不満なのね、うちのやり方が。こんなんじゃ良い酒にならないと。
でも帰ってきたばかりの1年坊主ですから、可愛いこと言っている、くらいにしかならない。
バブルもはじけてしまったし、流通革命なんかもおこっている。お客さんである酒屋さんの売り上げはどんどん落ちていく。
酒屋さんに行っても、悪いのはディスカウンターだとか、挙句の果てにはお客様のせいだとか。だから若竹屋ももっと安い酒を出せとか、もっとリベートを用意しろとか、もっと広告宣伝費が必要だとか。
でもそうじゃないでしょって。自分たちで変えていかないと、自分たちで努力していかないと、お客様が悪いんじゃなくて自分たちに魅力がないってことに気づかなきゃだめだよねって。
こんな状況ならうちの会社もきっと赤字だなと思って、親父に黙って決算書見てみたら案の定赤字。それもずっと赤字続きだった。
―それは大変でしたね。
経営は大変でした。でも経営って、売上だけ財務だけ組織運営だけ、じゃない。
たとえば人材の視点からすると、社員さんたちが働きがいのある、そして生き生きと頑張って喜びのある仕事に変えていきたい。そういったことすべてだから。
結論から言うと経営って人生なんだよね。
―人生。
生きるということと、経営ということは、ほぼ一緒なんです。
いろいろなことをやりましたよ。言い出せばきりがないんだけれど。たとえばこの場所も。
―ここはお酒を飲んだり、食事ができる場所なんですね。
そうです。もともと私が住んでいた家だったんですよ。今は試飲ができる直売所です。隣は貯蔵庫でした。
―素敵なところですけど、なぜこんな場所にしたんですか?
ここを開いた理由の一つは、つくっているお酒が売れなくなってきて、とにかく安く売れるお酒が求められていたんですよね。
でも安く売れるお酒は、資本力があって機械化して低コストでできるところのほうが当然有利です。そんな世界で生き残れるのか。いろいろ推考した結果、いや我々の強みはそこではないと。高品質なお酒を求めて下さるお客様にお届けをするという方向にシフトすると。
でも今までは若竹屋も8割9割が量産品をつくっていたんですよ。
こだわったお客様たちがどこにいるのか、我々の酒をどういう風に評価してくれるのかわからなかったので、それで試飲所をはじめたんです。そうすれば直接お客様の声が届く。カウンターつくって、ぼくがここに立ってやりはじめたんです。
そうしたらお客様がそこの囲炉裏で「ちょっと座って呑んでいい?」っていうから、試飲のコップにナミナミと注いだら、うまそうに呑むわけですよ。そのうち「つまみないの?」という話になってきて、あるものを出していたら… それ、もう試飲じゃないですよね。
それでお客様といろいろ話すわけです。ぼくらも考える。
たとえば、嫌な上司から説教されながら呑む酒はどんなにぼくらが心こめて技術を尽くしてつくった酒でもまずい。でも惚れた人に「おひとつどうぞ」って注がれたら、これはパック酒でも美味い。だから本当に美味しいお酒を飲んでもらいたかったら、どこで飲んでもらうか考えないとねって。
じゃあどこにそういうお店があるのか。
リサーチはぼくの得意分野ですからね。やっぱりそういうお店って言うのはある一定の要件、共通項があったりするわけですよ。不思議なことにそういうお店に卸している酒販店さんにも共通項があったりするんですね。
ほかにも象徴的な出来事がいくつかありました。個人のお客様と若竹屋は家族のように仲が良いです。飲食店でも常連さんって仲がいいように。そういうお客さんたちが一緒にうちに来て、イベントとかを一緒にやるようになっていって。
たとえば、いまは田植え、稲刈りを一緒にやります。そのあとに酒造りを一緒にやるお客様が年間に何十人もいます。
そこに至るまでは長い試行錯誤があったんですけどね。
ただ、田植えや酒造り体験はサービスとして提供しているのではなくて、うちの職人のように働いてくれるのね。ぼくらも日当を出します。お客さんなんだけどお客さんじゃない。もう身内なのね。
お酒の会の会長をやってくださったご夫妻がいらっしゃって。田植えはみんなでやるんだけど、その夫婦は自主的に草取りまでしてくれて。作業が終わったらここへきて一杯お酒を飲んでいるわけ。
その人は、日本全国いろんなお酒を飲んできたけど、こういうふうに米作りから酒の仕込みまで一緒にさせてもらえるなんてことはなかったそうです。
そして「若竹屋とお付き合いができてぼくの人生が豊かになった」と。ぼくもお礼を言ったら「ぼくのほうこそお礼を言いたい、林田くんありがとう」って。
ああ、そうだ。ぼくがやりたかったのはこういうことなんだ。ぼくらの仕事を通していろんな人との出会いがあって、そしてぼくらもその人も人生が豊かになっていく。これに勝る仕事の喜びはないよなって。
その冬も仕込みがやってきました。また早起きして夫婦でやって来てね。午前中の仕事が終わって、午後からはご夫妻でお酒を飲んでさ、JRつかって北九州に帰っていきました。そしたら翌日奥様がお亡くなりになってしまったんです。
お酒をもっていってね、御霊前にお供えしました。
そしたら「ありがとう」って。「こいつにこの酒呑ませたかった」って男泣きするんですよ。何度も「ありがとう」って。「このお酒つくってくれて、一緒につくらせてくれてありがとう」って。
あれから10年くらい経つんだけどね。生きることと、経営や仕事って、一緒だよね。
―関わっている人たちとも、地域とも。すべてが切り離すことができないことで、つながっているように感じます。
そうですね。
いま、多くの地方やまちが衰退していっているでしょ。都会に憧れて家並みが壊されて、世界的に言うとグローバリゼーションの流れで、もともとあった素晴らしさや文化の良さや地形や風土が、どんどん変わっていっているよね。
それを素晴らしいものだとして継承していくのは、長い命を持っている企業、商店、経営ができることなんです。
この酒蔵が残っているというだけで、街並みやこの近隣の人たちに与えている影響ってあると思うんですよ。冬になったら湯気がたつ。新酒ができたら酒の香りが漂ってくる。街の風景って言うかな、ぼくは「故郷感」って呼んでいます。ここが自分の故郷だと思えるような心象風景や原風景のひとつを担っているという自負があるんですよね。
好きだなあ、守りたい、伝えていきたい、と思っていることの中にそういう大事なものがあるとすれば、やっぱり自分も伝えていきたいね、子どもや孫に。
地元から抜け出したい、新しい世界を見てみたい。そういう思いで新天地を目指す方も多いと思います。
「父との関係がそうさせたんだけど、父との関係というよりも僕自身の問題ですよね。」
林田さんもこう言っていました。自分自身の問題。外に何かを求めるよりも、まずは自分のことを考えてみる。
足下を見つめ直すことで、自ずと地域や人とつながり、世界は広がっていくのかもしれません。
つながりを感じられる地元があることって、幸せなことですね。
若竹屋を離れて、林田さんの言っていた「筑後川と田主丸の街並みと耳納連山がドーンと入ってくる」風景を訪ねました。ちょうど夕日が沈みかかろうとしている瞬間。
川、街、そして山。この風景には何か人を安心させるものがあるようです。
その日は久留米に宿泊することになりました。夜になると、いろんなお店があるんですね。九州ちくご元気計画のみなさんと楽しい夜を過ごしました。ちくご暮らし、いいかもな。
さて、次はふたたび「うきは」に戻って、「テカラ」という雑貨屋さんを営む夫婦のお話を聞きます。お楽しみに。
ちくごを歩いて感じたこと、そして日本中で出会った生き方・働き方を共有する時間を福岡でつくることになりました。もし地域で働くことに興味がある方がいらっしゃったらぜひいらしてください。参加者同士が出会い、話をする時間もあります。
1月13日(祝・月)福岡天神にて開催「いま、ローカルで働く」
1日時
平成26年1月13日(月曜日・祝日) 14時~17時(13時半受付開始)
2会場
アクロス福岡 円形ホール(福岡市中央区天神1丁目1番1号)
3入場料
無料 ※事前の参加申込が必要です。
4定員
100名
5内容
第1部 講演 14時~15時
『テーマ:生きるように働くということ』
講師;ナカムラケンタ氏((株)シゴトヒト代表取締役)
第2部 パネルディスカッション 15時10分 ~ 16時10分
『テーマ:ローカルで働く・暮らす』
ファシリテーター;江副直樹氏(ブンボ(株)代表取締役)
パネラー;ナカムラケンタ氏 他
第3部 みんなのローカル談義 16時20分~17時
『テーマ:ローカルの現実を知る/リアル田舎暮らし大解剖』
6参加方法
【インターネット】
下記入力フォームにお進みください。
申込画面
【ファックス】
FAX申込フォームに記載のうえ、FAX 092-643-3164筑後田園都市推進評議会事務局(福岡県広域地域振興課)までお送りください。
FAX申込フォーム
※電話・Email等での参加申込は出来ません。
7応募締切
平成26年1月10日(金) 17時まで
8お問い合わせ
筑後田園都市推進評議会事務局 (福岡県広域地域振興課)
電話:092-643-3177
FAX:092-643-3164
Eメール:koiki@pref.fukuoka.lg.jp