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素朴で、軽やかで、あたたかい。素材や製法にこだわってつくられた群言堂の服には、この3つの共通点があると思います。
それは服だけでなく、はたらく人たちにも言えること。
今回お会いしたみなさんは、それぞれの居場所に感謝と誇りをもって暮らす、笑顔の似合う方ばかりでした。
全国31店舗の販売スタッフを募集します。
島根県大田市大森町。
29年前、松場大吉さんと登美さんご夫婦が立ち上げた群言堂は、今でもこの地に根を張り、全国に向けて暮らしを発信し続けている。
あぜ道を超えて隣り合う2つの建物のうち、奥が本社で、手前の茅葺きの家は鄙舎(ひなや)という。
もともと広島にあったこの家を引き取る際、暮らしそのものを引き継ぎたいとの想いから丸ごと移築したそう。
普段は社員食堂として利用するだけでなく、コンサートが開かれたり、学生の合宿所になったりと、人々が集う群言堂のシンボル的な存在になっている。
今回は、ここから歩いて5分ほどに位置する「暮らす宿 他郷阿部家」の一室でお話を伺った。築200年以上の武家屋敷を改修した趣のある宿は、登美さんが実際に暮らしながら営んでいる。
まずは営業管理部の神西さんから。
入社から23年経っても「まだまだ勉強中で、日々模索しながら奮闘しています」と話す神西さんは、明るくとても謙虚な方だ。
大阪の生地屋に勤めていた父の紹介で、群言堂の展示会を一度手伝いにいったのがきっかけになった。
「ぼくはその日の搬入だけ手伝って帰ろうと思っていたんですが、会長(大吉さん)に『今日から泊まり込め』と呼び止められまして」
強引な人だなと思いながらも、近くのホテルに泊まり込み、裏方の仕事を3日間続けた神西さん。展示会も終わり、帰ろうとしたところで再び声をかけられる。
「『お前、島根にきてみるつもりはないか』と。強引ではあるけれど、そのなかにも前の会社にはない温かみを感じて、その場で『いずれいきます』と伝えました」
当時は職についていなかったこともあり、半年ほど経って正式に入社。ちょうどはじめての直営店を広島に出すタイミングで、そこの販売スタッフとして店頭に立つことになった。
それから2年ほど経験を積んだ、ある日のこと。
「『そろそろ飽きてきただろう。わしと一緒に営業回るか』と言ってもらって。会長と一緒に九州や四国の卸先さんをぐるぐる回りました。そうやって徐々に営業マンになってきた、という経緯ですね」
以前は神西さんのように属人的に採用される人も多く、バス停で声をかけられて入社することになった方もいるらしい。
最近では2007年に石見銀山が世界遺産に登録されたことでメディアに取り上げられたり、自分たちで書籍を出版するようになったりと、まちや会社のことに興味をもって応募してくる方も増えたそうだけれど、根本にはやはり人を大事にする想いがある。
「一番うれしいのは、相手先さんだったりお客さんが喜んでくれるときですね。営業やってきてよかったと思えます」
「今掲げているのが、“笑顔ある売場づくり”という方針です。お客さんだけでなく、販売員さんのモチベーションも上げていくのが営業の役目だと思っています」
在庫や売り上げを管理するために数字を見ておく必要もあるけれど、その目は常に人を見ている。
また、百貨店の季節ごとのイベント開催時などには、売り場づくりにも関わるそうだ。
「パッと見て群言堂だとわかるような空間づくりを大切にしています。なので、できる限り什器や古道具も持ち込むんです」
「本社の近くに什器をストックしておく倉庫があるので、そこからトラックで運んだり。今あまり運転できる人がいないので、できれば運搬も手伝ってもらえる人だとありがたいですね(笑)」
基本的には裏方で環境を整えていくような仕事になるけれど、そのおかげで販売員さんも群言堂のことを伝えやすくなるだろうし、お客さんも世界観に入りこみながら買い物ができるのだと思う。
本店で販売スタッフをしている今崎さんも、似たようなことを話していた。
「ここの店にきたらいつも楽しくなるとか、ゆっくりできたとか。心を満たすような売り場をつくることが一番の仕事かなと思っています」
お客さんに対して、いきなり「お似合いですよ」と声をかけることはしないという。
「ちょっとした生活の世間話みたいなことからはじまり、それが自然とお買い物につながるような接客を心がけています。こちらが気取っていると、お客さまも無意識に気取らなきゃと思ってしまうんですよね」
ただ自然体であればいい、というわけでもない。素の状態の自分で接するためには、普段から自分を律する必要がある。
のんびりとした田舎暮らしを想像してくる人には、きっと合わないと思う。
「入ってすぐのころに玄関の掃除をしたとき、この店の前だけを掃いていたんです。その後、登美さんの娘さんのゆきこさんが周りの道まで掃いてくれて、わたしの掃除した後なのに、ちりとりいっぱいの葉っぱがありました」
「『向かいのおばあちゃんのところや道路がきれいじゃないと、ここだけきれいでも違うんだよ』って言われて、あ、そうだと思って。それから少しずつ、周りがこうしてくれたらうれしいんだろうなっていうところまで考えるようになりましたね」
疲れて帰ったらポストに野菜のおすそ分けが入っていたり、しばらく顔を見なければ大丈夫かな?と心配になったり。
暮らしと仕事が地続きにあることを忘れてはいけない。
「それともうひとつ…」と今崎さんは続ける。
「自分と相手と建物にとって、気持ちいいことができる人がいいと思います。今日は天気がいいから窓開けたら気持ちいいだろうなとか、これやってあげたら一緒に働いている人が気持ちいいんだろうなとか」
建物も一緒なんですね。
「そうですね。ほこりがなくなったり、風の流れができると全然違う。全部が気持ちいい状態になったときが、本当にいいときだなと思います」
続いて、こんな環境で服づくりに携わるパタンナーの佐古さんにもお話を伺った。
パタンナー歴は29年。東京での仕事に思うところがあり、日本仕事百貨を通じてここで働くことになったそう。
「ファストファッションの流れのなかで仕事をするのが面白くなかったんです」
「わたしがこの仕事をはじめたころはまだ、日本のいい生地を使おうとか、工場さんとやり合っていいものをつくろうっていう流れのときだったので、もう一度そういう仕事をしたいと思っていました」
群言堂には「登美」「根々」「Gungendo Laboratory」の3つのブランドがあり、それぞれにつき1人、担当のパタンナーがついている。佐古さんは「登美」の担当だ。
「『登美』では、日本の各産地を回り、織物職人さんが織ってくれた生地を使っています。なのですごくやわらかくて、体に無理がない。多少大きくても、体に沿って布が落ちてくれるので、きれいなシルエットが出やすいです」
「それぞれの特徴はありますが、全体として目指しているのは『服薬』という言葉です。その服を着ることで、心も体も楽になって元気になれるような。そんな服をつくりたいですね」
「ものづくりをする上で、工場さんでも生地屋さんでも、まずは大森にきていただいて、ここで感じた感性をもってつくってもらうんです」
「この時代、CADのなかだけでも服はつくれます。けれども、CADは単なる道具であって、職人さんの持つ線だったり、地の目だったりを自分の目で見て、生地を意識しながら組み立てていく。いろいろと自分で感じながら、デザイナーさんの想いを形にしたいと思っています」
素材や柄、生地をつくるところからはじまるので、展示会の前はどうしても時間が足りなくなりがち。
パターンの段階で納期に間に合わせるために、夜遅くまで作業することもあるという。
「大変なときもありますけど、ブランドのチーム全員で意見を出し合って、最終的にいいものができたねってお互いに言える。それがやっぱり一番うれしいことですよね」
最後にお話を伺うのは、経営戦略室の新井さん。
主に広報や人材育成を担当していて、群言堂の今とこれからを俯瞰的に見ている方だ。
「所長(登美さん)の言葉でよく思うことが2つあります。『足元の宝を見つける』ことと、『過去と他人は変えられない。変われるのは自分と未来だけだ』ということです。この2つがくっついて、なるほどなと思って」
「自分の足元に広がる物事に感謝できたり、それを楽しめる目を持てれば、自然と未来は変わっていくんだよ、っていうことなんです。ここはそれをすごく実践している場という気がしますね」
この話をうけて、今崎さん。
「足元といったら、わたしは花ですかね。お店のカフェの箸置きが一輪挿しになっているので、いつもスタッフが近くから花を摘んで出勤して、それを挿してお客さまに提供するんです」
「そうすると、自分が今までなんとなく通り過ぎていた花がすごく可愛く見えて。季節によって、そろそろあの花が出るなとか、あの花は今の時期咲いてないかなとか。道をちょっと歩くだけで感じられるようになりましたね」
たしかに、このまちには都会にないものがたくさんあって、見過ごしていた宝に気づきやすい環境なのかもしれない。一緒に食卓を囲んだり、スタッフ総出で稲刈りをしたりする機会もある。
けれど、あらためて最初の言葉を思い出したい。
「ここに答えがあるわけじゃなくて、宝は自分の足元にあるんです。自分で気づけるかどうかが大事ですよね」
ちなみに、新井さんご自身が気づいたことはありますか。
「ありますよ。なにか問題があったときに、ぼくら部長職が右往左往してもうまくいかないことが多い。おお、なるほど!これ、自分でやろうとするから悪いんだ、とそこで気づきました」
「実現できるかどうかわからないけれど、やりたいこと、改善したいこと、大変なこと、大きなことでも小さなことでも、とにかく全部聞こうと。そのためのプロジェクトを今進めているところです」
みんなが集まって言葉を出し、いい流れをつくっていく。「群言堂」という名前に込められた意味を、これからさらに実践していく場になっていきそうです。
取材後にご一緒させていただいた昼ごはん。
箸置きに小さな花が一輪挿してあるのを見て、つい先ほど聞いた話を思い出す。
まずは自分の足元を見つめること。
その上でここになにかの縁を感じたのなら、ぜひ応募してみてください。
(2016/9/10 中川晃輔)