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私たちは毎日ごはんを食べる。
なるべくなら、自分がなにを食べるのかちゃんと選びたいと思う。
毎日行う選択は、未来の社会を変えていくことにつながっているはずだから。
「食材が生まれるところにちゃんと立ち会える機会をつくります。ここでなら、自分の食べているものがなんなのか知ることができる。食べるものや自分の生活が、太陽の力とつながっていることに触れてもらいたいんです」
kurkkuの小林武史さんが、そう話してくれました。
kurkku(クルック)はオーガニックな消費や暮らしのありかたを提案しているプロジェクト。東京・代々木など、都心を中心にレストランやカフェを運営しているので、目にしたことがある人も少なくないと思う。
そのkurkkuが木更津の広大な土地ではじめようとしているのが、kurkku farm village(クルック ファーム ヴィレッジ)。ここで自然とのつながりや、食の循環を体感するための場づくりがはじまっています。
今回募集するのは、ここにできるカフェや食堂、ピッツェリア、物販スペースの方向性を考え、運営していく人。そしてこのプロジェクトを、事業として成り立つように進めていく人です。
サステイナブルな食の循環に触れる場所。オープンに向けて、さまざまなことが動きはじめています。
東京からアクアラインを渡り、1時間ほどで木更津へ。
周りを山に囲まれた敷地の中では、併設する農業生産法人「耕す 木更津農場」のメンバーが農作業や養鶏を行っている。
私がクルックファームヴィレッジを訪れるのはこれが2回目。
前回はkurkkuと耕すの代表で音楽プロデューサーでもある小林武史さんに、この場所をはじめるまでのことを聞かせてもらった。
あらためて小林さんに話を聞きました。
「陽が気持ちいい日もあれば、風が強くて立っていられないような日もある。ここにいると、太陽の力と人の営みがちゃんとつながっていることが感じられるんです。都会にいるとわからないことが多いので、もっと触れる機会をつくっていきたいですね」
「いろいろな方がここを訪れるようになりましたが、みんな特別な場所だと感じてくれています。自然の中でひらかれた場所で、各々ができることを楽しくつないでいる循環が見えるからなんでしょうね。年末には働く人が泊まる宿舎もつくりますが、そこは毎日新しいつながりが紡がれるような場所にしたいと思います」
「目標は1年後のオープンです。これまではゆっくりやってきたんだけど、集中して進める期間に入ってきました。やればやるほど、正直な想いに近づいている感じはありますね」
正直な想い、ですか。
「やっぱり人に来てもらうための施設だと思うと、お客さんが喜んでくれそうな要素に迎合するようなことも浮かんでくる。でもここで本当にやるべきこと、やりたいことが、具体的に考えれば考えるほどはっきりしてくる感覚があるんです」
「代々木など都心ではいくつも食のプロジェクトをやってきたけど、それはセレクトショップなんです。ここは食材が生まれるところにちゃんと立ち会える。だからこそ自分の食べているものがなんなのか、知ることができるんだよね」
プロジェクトを具体的に考える中で、この場所で酪農をすることになった。小林さん自身も、牛を飼うことになるとは思ってもみなかった。
「ピッツェリアをつくるんだけど、食材として大切なのはトマトとモッツァレラチーズ。トマトは有機農法でつくることに成功しました」
ピッツェリアはただピザを提供する場所ではなくて、自分でつくったピザを焼いて食べることができるような仕組みも考えている。どんな形になるにせよ、この場所ではおいしいものを食べてもらいたい。
「やっぱりつくりたてのモッツァレラチーズって、おいしいんですよ。目の前でつくったものをここで食べる。それが正しい食べものだって思うんです」
乳牛を飼うことで牛乳もつくれるし、食堂で使うバターやヨーグルトもできる。
バターや砂糖をたっぷり使ったおいしいスイーツもあるし、控えめで身体にいいものもある。ここでは「絶対にこれがいい!」ということよりも、いろいろな食べ方を提案していきたい。
「目の前にいる牛から、さまざまな選択肢が生まれていること。僕らがあますことなく使って、可視化する。それがここでやる正しい営みだという感じがするんです」
「ここで鶏をのびのび育てて、いい卵をつくることができました。自然に近い環境で育てることで、奇跡のようにおいしいものができるということを、生きものから教わっているんです。牛でもそんなことが起きるといいなと思ってね」
話をしているあいだも、養鶏場からは鶏の元気な声が聞こえてくる。
耕すで育てている鶏は、自然養鶏の考えを反映した環境で、農場で残った有機野菜などを食べ育っている。余計なものを加えない餌を食べて育つ卵は、きれいなレモン色。
その卵を使い、食の循環に触れる機会をつくるのが「たまご食堂」の役割になる。
たまご食堂のディレクターとして加わる人には、メニューの開発からお店の空間づくり、食器選びなど、あらゆることを任せていきたい。
ちょうど今日は、たまご食堂の試食会があるというので参加させてもらう。
ふわふわのスクランブルエッグにあわせて、日本の出汁をベースにした3種類のソースが並ぶ。ここを訪れる人のことを想像しながら、どんな食事を出すのがいいのか、意見が飛び交った。
キッチンで腕をふるっているのが、主に加工肉をつくっていく部門を担当している岡田さん。照れながらも、話を聞かせてくれました。
フランスやスイスでの修行経験、老舗店の料理長、それにパン屋さんだったことも。「なんでもできるコックさんになりたいんだよね」という岡田さんの経験は多彩だ。
そんな岡田さんが地元の木更津で9年前にはじめたのが、ジビエ料理を得意とするフランス料理店だった。
「自分で狩猟もします。命をいただいていることを実感するから、普段食べないような部分の肉も、なんとかしたいと思う」
「山を走っている猪は走っているルートも食べているものも違うから、肉質も個体差がある。肉と人間の知恵の勝負をしておいしくするっていうかさ」
お店には常連さんもついて順調だった。どうして自分の店を閉めて、このプロジェクトに参加することにしたんだろう。
「俺も新しい刺激を求めていたんです。常連さんたちはおいしいって食べに来てくれるんだけど、ぬるま湯に使っているような感覚があったんでしょうね。井の中の蛙になりたくないというかね」
大きな決め手になったのは、小林さんの存在だった。
「小林さんがうちの店に食べに来てくれたときに、ジビエは猪汁がいちばんおいしいと思うって話しててね。もっといろんな食べ方があるのにって悔しかった。おいしいものを知っている人だから、食べものの話をしているとセッションしているみたいでね、刺激になるんですよ」
プロデューサーとして、最初のアイディアは小林さんからはじまることが多い。ピッツェリアもたまご食堂、カフェ、そして物販スペースも。具体的に考えていく過程で、言われたことをやるだけでは立ち行かなくなってくると思う。
「小林さんって、根本的に本当に正しいことを言うんです。農業の常識からすると、え?ってなることもあるけれど、まずは取り入れてみます。それが、自分の常識を広げることにもつながると思うんです」
そう話してくれたのは、エディブルパークを担当している伊藤さん。前回の日本仕事百貨の募集を見て、12月からここで働いている。
農業の勉強はしたことがあるけれど、経験が豊富なわけではない。エディブルパークがどんな場所になるのかはまだ具体的に決まっていないなか、耕すのメンバーに教えてもらいながら、今できることを考え行動している。
「やることは山ほどあります。その中でも、まずは種をまくこと。自分が経験していないことは、来てくれる人にも話せませんからね」
「農業っておもしろいんです。やらないとわからないことも多いから、まずは農業に触れてもらう場所にできるように、これから考えていきたい。ここで触れることが、自分の食べるものを考えるきっかけになればいいと思うんです」
伊藤さんと同じ記事を読み、4月から新卒で働くことになった新井さんは自然体験の担当。今は人工知能について調べているところだと言うから意外だった。
「昔みたいに自然遊びをする子どもは減っていると言われています。だから自然体験を取り戻さなきゃって言われている。そうではなくて、今の時代だからこそフィットする、積極的な体験はなんだろうって考えていきたいです」
新井さんがここでつくりたいのは、新しい自然体験。
「ここはいろいろな人が来る場所になります。どこにでもあるコンテンツを提供するのではなくて、新しい発見のあるような。これまでの自然体験のイメージをアップデートしたいんです」
最後に、小林さんから「僕の女房役」と紹介してもらったのが江良さん。このプロジェクト全体を、事業としてスムーズに進むように動かしている人です。
にこやかな雰囲気で話をしてくれるけれど、事業のことになると厳しい一面を見せるそう。
最初はIT企業で営業やマーケティングの仕事をしていた。給料がいいという理由で選んだ仕事だったけれど、これが幸せなのかと疑問に感じるようになった。
「子どもが生まれたのもあって、サステイナブルなこと、ちゃんと次の世代につながっていくことに関心がありました。当時は事業として成立していると言えるところは少なかったと思います」
社会をよくすることと、ちゃんとお金が稼げること。
この2つを両輪で回す勉強をしようとkurkkuの立ち上げに参加してから、今年で11年が経つところ。
今では自分が代表を努めるkurkku alternativeというオーガニックコットンを広める会社を運営しつつ、kurkku全体の事業を考える役割を担っている。
「小さなコミュニティの中で、小さな幸せを積み重ねて満足できることもあると思います。せっかく機会があるから、僕らは小さなものが、広くちゃんと伝わることをしていきたいんです」
「出てきたアイディアをちゃんと事業にしていかないといけません。当然経済的なところもそうだけれど、組織の中で誰がやるのかとか、スケジュールとか。あとは全般的なオペレーションも考えます」
たとえば営業的な側面から、卵の値段を見直してみる。大切にしたい作業は残しつつ、効率的にできることを考えて、現場のスタッフと相談しながら進めていく。
オープンに向けて、大きく分けて11もの事業がぐっと動き出そうとしている状態なんだとか。
「僕の上でも、横でも、下でもかまいません。そういう視点で今見ているのが僕だけなので、プロジェクトを続けるために動き回れる人が必要ですね」
食の循環に触れる機会をつくり、考える人を増やすことは、未来を健やかな方向にシフトすることにつながっていると思います。
4月16日には東京・清澄白河で、江良さんたちがゲストバーテンダーになるイベント、しごとバー「おいしい農場ナイト」も開催します。よかったら話を聞きに、気軽に遊びにきてください。
(2017/4/11 中嶋希実)