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日本中どこにいても、海外からの観光客と出会う機会が多くなりました。片手には大きなスーツケース、もう一方の手でスマホ片手に地図を見ながら、街から街へ移動していく旅行者たち。
ウキウキする雰囲気も感じる一方、あちこち急いで回るのはちょっと大変そう。
華やかな観光地もいいけれど、もっと日本の日常をゆっくり楽しみたい。
最近はそんな考えから、日本に暮らすように滞在できるセカンドハウスを持つ人も増えてきているのだとか。
そこで注目されているのが、京都に残る町家。

今回は、そんな海外のお客さんが安心して日本での生活を楽しめるように、売買仲介から入居案内まで、英語でコミュニケーションを取れる人を募集します。
建築への強い関心があれば、異業種からの挑戦でも大丈夫。
京都市・下京区。
地下鉄四条駅から路地を5分ほど歩いて八清のビルに到着。ドアの前には数台自転車が停まっている。そういえば、以前京都で働く人に話を聞いたときも、自転車であちこち移動できる街だと話してくれていた。

階段を上がって、応接室で最初に話を伺ったのは、専務取締役の西村直己さん。

「最初は偶然だったんです。中古の物件を仕入れているときに京町家に出会って、土間とか吹き抜けとか、町家らしい意匠を残して販売したら、今までお付き合いのなかったようなお客さんにも好評で」
京都市内には、今でも4万棟以上の町家が残っていて、そのうち18%が空き家なのだそう。
八清では古い町家の味わいを残しながら、構造面でも地震や断熱なども考え、在来建築に劣らない住宅として提案してきた。

「定義としては、旧市街地に昭和25年以前に建てられた伝統建築のことを町家というんです。間取りや構造には、“職住一体型”と言われる京都の暮らしが反映されているんですよ」
たとえば、通りに面した部屋を「ミセの間」と呼ぶのは、そこで商いをするために使われていたから。
「表の格子の種類によって『ここは糸屋さんやな』とか『酒屋さんやな』とか、その家の仕事が分かるようになっています。あと、格子に“バッタリ床几(しょうぎ)”っていう折りたたみ式の台がついていて、そこでちょっと腰掛けてもらったり、品物を並べて商売したり」
名前の響きだけでなく、機能を備えたデザインの美しさにも、無駄を省いた京都らしい文化を感じる。

「うっかり門を閉め忘れて外出すると、隣のおばちゃんが『あんた、開いてたで〜!』と注意してくれるような関係性も、町家ならではです」
八清を選ぶお客さんは、単純なスペックよりも町家だからできる体験を求めているのかもしれない。
「高気密・高断熱で快適な家もいいけど、夏には汗をかいて、冬には庭の雪景色を楽しむっていうほうが、人間らしい気がするんです。そういう感性に共感してくれている人が多いんじゃないかな」
町家を手がけるようになって、首都圏、そして海外へとお客さんの幅が広くなってきた。

仕組みづくり?
「ええ。八清を通じて町家暮らしをはじめた人たちが、お互いに交流できたり、僕たちが地元の職人さんを紹介して、京都のドメスティックな産業を見てもらったり。観光地のイメージだけじゃなくて、京都の地元ならではのコンテンツを楽しんでもらいたいですね」

ただ家を売って終わりではなく、京都の暮らしをナビゲートできるような不動産会社を目指して。
今、そんな海外からの新しいニーズに対応するためのまとめ役になっているのが、暮らし企画部の本門(もとかど)さん。

「それに、世界の第一線で働いているような方が『町家は隠れ家みたい。京都にいる間は携帯の電源を切って、庭の落ち葉を眺めて過ごすんだ』って言われる。心休まる場所として、京都に愛着を持ってもらえるのもうれしいです」
海外のお客さんは町家を別荘として使うけれど、できるだけ“住民”としてご近所さんとは気持ちよくお付合いしてほしい。
そんな思いから、挨拶のタイミングや手土産など、日本人独特の習慣をアドバイスすることもあるそう。
暮らしの面で相談を受けることも多く、家電やガス、水道に関することまで内容はさまざま。
「サポートは大変なこともありますけど、お客さんに『京都のいいところを見て、日本での生活を楽しんでもらいたい』っていう思いがあるから工夫していける。ある意味“京都大使”、アンバサダーみたいな気持ちでいられるといいかもしれませんね」

「地元の関西で探していたんですけど、未経験では難しくて。新卒から4年くらいは東京で空間装飾の仕事をしていました」
昼も夜もなく働き、家に帰ると寝るだけ。そんな生活を見直したいと、Uターンで転職したのが八清だった。
入社して受付やウェブサイト担当などを経験し、現在の売買部門に配属された。
今は、前職の経験を生かして建築の企画に携わりながら、海外のお客さんに向けて八清らしい住まいの提案をしている。
「海外のお客さんは、限られた来日期間中にいろんな物件を見て回りたいという希望があるので、スケジュール調整も必要です。それに不動産の専門的な内容から日本の常識まで、すごく質問が多いんです」
「最初はウェブサイトに英語のページもなかったので、全部メールの本文で説明していました。今は、よくある質問はウェブサイトに掲載して、リンクを見てもらえるので楽になりましたよ」
八清には、海外出身のスタッフもマーケティング担当として在籍しているので、お客さんとのコミュニケーションに困ることがあっても相談しやすい。
「お客さんは香港の方が多いので、コミュニケーションは英語ができれば大丈夫です。いざというときは中国出身のスタッフもいますし。ただ、国によって感覚のギャップはあるので、そっちは慣れるまで大変かもしれません」
感覚のギャップ?
「たとえば、値引きの交渉もすごく率直で。そのまま売主さんにお伝えすると心証が悪くなって、契約もうまく進まないので、間に入って調整をすることもあります」
売買の相場など、専門的な不動産の感覚も必要なんですね。
「私も、もともと不動産の知識はまったくなくて、ここに入ってから身につけました。最初は営業担当に同行して通訳をしていたので、お客さんの質問を通して、契約や専門的な用語を覚えていけました」
八清に入社してから勉強をして、建築士の資格も取得したという本門さん。
暮らし企画部に異動してからは、物件のプロデュースも手掛けるようになったという。
また、建築以外にも、八清にはシステムエンジニアやマーケター、コンサルタントなど、異業種からのキャリアチェンジで入社した人も多い。
個性豊かなメンバーだからこそ、専門性を活かした分業制かと思いきや、そうではないらしい。
それぞれの経験を共有しながら、仕入れや設計から物件の契約までひとつのプロジェクトを一人で完成させられるよう、それぞれがプロデューサーとして活躍していけることを目指している。
本門さんと一緒に働く、暮らし企画部のリーダー藤井さんも、以前は設計が専門だった。今は営業・契約まで行っている。

「とはいえ、企画とか営業とか、それぞれの得意分野に合わせて仕事の比重はちゃんと調整します。僕もメインは設計なので、海外の案件はグローバル担当に手伝ってもらっているし、逆に英語と販売に強い人であれば、僕が設計の部分で協力することもできると思います」
今、チームに必要なのは、まずは英語でお客さんとコミュニケーションが取れる人。
もし建築の経験があれば、スムーズに一人で企画の設計や施工管理も担当することもできる。異業種であれば、自分の経験や視点から、町家に新しいコンテンツを結びつけることができる。
いろんなバックグラウンドのある人がいる会社だからこそ、町家の伝統を守るだけでなく、新しい挑戦を続けてこられたのかもしれない。

だからこそ、より八清らしい提案で差別化する必要があると、藤井さんは話していた。
“設計”や“営業”ではなく、“プロデューサー”として一気通貫して建物に向き合うことで、単に建築の構造やデザインだけでなく、顧客に合わせた使い方やそこから広がるコミュニティまで考えて企画をしていくことができる。
プライベートを大切にする住宅だけでなく、町家の空間の中で人との交流が生まれるように意識したり、短期滞在に適した間取りにアレンジしたり。
町家のあり方もアップデートし続けている。

これからは地元に暮らす人だけでなく、お客さんも、遠くから通ってくる“ご近所さん”も、一緒に豊かな時間を過ごせる空間として育っていくような気がします。
(2018/10/5 取材 高橋佑香子)