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人は、命を食べて生きています。
ピザに乗った豚肉や猪肉のソーセージ、水牛の乳でつくったチーズ、トマトやルッコラ、生地をつくるのに使った酵母や小麦。
すべて、命が循環してできたもの。
経済合理性が優先され、いろいろな役割が分けられている今、その循環は見えにくくなっているかもしれません。
自分が日々なにを選択し、食べるのか。それが地球の裏側に暮らす人や地球の環境など、さまざまなことにつながっていることも、お皿に盛られた食事からは想像しにくいもの。
10月に木更津にオープンするKURKKUFIELDS (クルックフィールズ)は、そんな命の手触りを実感できる場所。
KURKKUは小林武史さんが立ち上げたプロジェクト。小林さんは音楽プロデューサーであり、「ap bank」や「Reborn-Art Festival」などを進めてきた方です。
オープンに向けて準備が進むKURKKUFIELDS は農業や酪農、養鶏などを行いながら、そこでつくった食べものを味わえる場所になる予定。
今回募集するのは、ここで体験型農業に関わっていく人、事業を回していくための仕組みをつくる人、広報を担う人、飲食の部分を支えていく人など。
立ち上げから運営まで、ともに場をつくっていく開拓者を募集します。
東京から千葉・木更津へは、アクアラインを通ると車で1時間ほど。
看板をたどって坂を登っていくと、急に視界がひらけ、広大な土地が広がった。
東京ドーム6個分の広さがあるというこの土地では、有機農業や酪農、養鶏が行われている。
それに加えて農場で育てた食べものを提供するダイニングやベーカリー、シフォンケーキ専門店、地元の猪肉などを扱いハムやソーセージをつくるシャルキュトリー。宿泊施設になるタイニーハウスや、展示されるアート作品、さらに小川や森づくりが平行して進められている。
「この場所を開墾しはじめた10年前から、小林さんのなかにはKURKKUFIELDS の構想がありました。ようやくここまで来れたんだな、って感じですね」
そう話をしてくれた伊藤さんは、この場所を開拓してきたスタッフの1人。KURKKUと両輪で動いている農業生産法人「耕す」のリーダーでもあります。
伊藤さんがKURKKUに出会ったのは学生時代。当時KURKKUが運営している飲食店に、アルバイトとして関わりはじめたのがきっかけだった。
当時から小林武史さんは音楽活動をしながら、環境や社会に関わるプロジェクトに取り組んできた。
エネルギーや環境の変化も、世界のどこかで起きたテロも、大量につくることが優先になった農業も。
ふだんの私たちの生活には関係ないような気がしてしまうけれど、すべてはつながっていること。
私たちが今日なにを買い、なにを食べるのか。ひとつひとつの選択で未来を変えていける。
そんな想いからKURKKUでは、消費のあり方を提案するためのオーガニックな食材を取り入れたレストランやカフェ、ショップなどを展開してきた。
「当時から『小さなうねりが世界を変える』っていうのが活動の軸になっていて。頑なに声をはりあげるんじゃなくて、ハードルを下げて、楽しいアプローチしていこう。その姿勢にすごく共感したんです」
「農業で生きようと決めたのは、直感なんです。小林さんに共感したのはもちろんですけど、なにより農家さんの生き方そのものがかっこいいと思ったんですよね」
縁あってやってきたこの木更津の土地は、東京に出荷する牛を育てる牧場だった時期があったり、残土の受け入れをしたり。都会の開発を支え、都度用途を変えてきたような場所。
伊藤さんの仕事は、この場所を野菜が育てられる農地にするため、開墾するところからはじまったそうだ。
「土壌改良のために大量の堆肥を入れたり。大変でしたけど、土の本質を知ることができました。地域のみなさんに協力していただいて、この土地の歴史や風土まで教えてもらえたことは、今の農業に活きていると思います」
「野菜には不向きと言われた大地を開墾し、立派な畑になりました。今でも自分の中では、この土地のパイオニアだという想いが強くあるんです」
直感を信じてはじめた農業。
苦労も多いだろうけれど、一生続けていきたい仕事だと感じているそう。
「農業って、身体を動かしながらすごく頭を使うんです。良く考えて、たくさん動いて、たっぷり食べて、ぐっすり眠って。健康で、すごく楽しくて。人間としてとても満たされている感覚があるんですよね」
この土地では人参や大根などの根菜を中心に育て、有機JAS認証のオーガニック野菜として出荷をしている。
ゼロからはじまった農業も、今では年間200トンもの野菜を出荷できる規模になっているそう。
「日本では、オーガニック野菜は野菜全体の1%にも満たないんです。もっとつくってほしいと言われる一方で、値段が高くて買えないという声も聞きます」
「求めてる人がいるならたくさんつくって応えたいし、コストを抑えて、手頃な価格で販売できる工夫もしたい。パイオニアとして、今世の中にないものをつくっていきたいって思うんですよね」
これから農業に関わる人には、KURKKUFIELDS に新しくできる「エディブルガーデン」を、今いるスタッフとともに担当してもらうことになる。
エディブルガーデンは、日々野菜を育てながら、体験型のイベントなども開催していく予定。
ふだんスーパーで見ないような変わった野菜も育て、一流レストランのシェフやここに遊びに来た家族連れなど、さまざまな人に農業の楽しさを伝えられるような場所にしていきたい。
育てた野菜は場内のダイニングでもふんだんに使われるそうだ。
「採れたての野菜を食べて感動してくれるだけでもいいんです。美味しいものを食べたり、生産者と話したり、景色を見たり。壮大な循環を感じて、生き方を考えることもあるかもしれない」
「小林さんは土の微生物から宇宙の裏側まで、すべてを視野に入れて、向かう方向を指し示すような存在です。ここ数年で料理人やイベントを担うプロが集まってきているので、ようやくいいチームが出来てきた感じがしています」
10月のオープンに向けて、メンバーがそれぞれの仕事を動かしている。
みんなでこの場所をつくっている様子を「みんなで自治している」と表現するのが、スタッフの新井くん。
大学院を卒業して、そのままここで働くことになったのが3年前のこと。
今は全体の設計から細かな調整まで、さまざまなことを担っている。ふだんはここにいない小林さんと、ほかのメンバーとの調整役になることも多いそうだ。
「自分の仕事に誇りを持った人の集まりになってきて、すごくおもしろいんです。個人の想いと、KURKKUFIELDS として目指すべき方向性とを擦り合わせていくのが大変なこともありますけどね。この場所で取り組むことは自分たちが納得するやり方であり、これからいい未来つくっていける仕組みにもしたいんです」
たとえば、今検討しているのが入場料をどうするか。
エントランスで一定の金額を払ってもらうのか、ダイニングや体験などで都度お金をいただくのがいいのか。
帰りに満足しただけの金額をいただくことが、お金の使い方を考えてもらうことにつながるかもしれない。
運営していくための稼ぎを考えつつ、訪れた人が未来を考えるようなきかっけをつくる仕組みにしていきたい。
そのためには生産者と消費者ではない関係をつくっていくことも必要な気がする。プロジェクトマネジメントを担う人は、数字が見えることに加えて、スタッフや関わる人の想いを聞ける人がいいと思う。
「さっき、チーズをどう販売していくのかを職人と小林さん、あと営業スタッフで打ち合わせをしていたんです。担当の想いが尊重されることが多いものの、価格や売り先、出荷量のバランスまで小林さんも細かいところまでよく考えるので、簡単には決められません」
「お客様に対して価値をひびかせるということは、それだけ想像力とバランス感覚が大切だということを日々学んでいます。これからの未来を切り開いていくパイオニア精神がある人とか、ソーシャルグッドな社会の仕組みをつくりたい人に来てもらえたらうれしいです」
最後に紹介するのが、広報全般を担当している松本さん。やわらかな雰囲気で、丁寧に説明しながら農場を案内してくれた。
小さいころから絵を描くのが好きで、大学院までは日本画を専攻していた。
培ってきた色彩感覚などを活かせるのではないかと百貨店に就職して、美術品のイベントを担当していた時期があった。
楽しい仕事であったものの、アートをひたすらお金に変えていくことに少し違和感を感じるようになった。そのころ出会ったのが、日本仕事百貨で紹介されていたkurkkuの求人だった。
「小売りの経験を活かして、物販の担当として入社しました。プランがいろいろ変わるなかで、物販は少しあとにはじめることになって。広報をやってほしいと声をかけてもらって」
担当になったとはいえ、具体的な仕事は決まっているわけではない。
指示をしてくれる人がいない環境のなか、自分で必要な仕事を考える。どうすると人に集まってもらえるか、どんな表現をすればこの場所が大切にしていることが伝わるか。SNSを更新したりイベントを開催しながら、試行錯誤を続けてきた。
「広報がなんなのかもわからないなかで、最初は戸惑っていたんです。でもここにはたくさんの命があって、そこに携わっているおもしろい人たちがいる。それを自分でも体感しながら、伝えていきたいことが増えてきました」
最近はジャガイモの植え付けや水の循環を生む小川づくりなど、人と自然、そして命の現場をつなぐ体験イベントにも力を入れている。
印象的だったと紹介してくれたのが、採卵体験をしたあとにたまごごかけご飯を食べるイベント。
たまごを持ったときの重みや温かさを感じることで、命に触れてほしいと企画したもの。
ところが採卵をしたあと、たまごを食べられなくなったという人がいたんだそう。
「その方にとっては、食べものというより、命に見えるって。採れたての卵をとる、食べるっていうシンプルな行為でも、卵に対する考え方が変わることがすごく印象的でした」
「私もここに来るまでは値段を基準に卵を選ぶことがあったけれど、卵1個の重みを感じるようになりました。こういう場をつくることで、人の意識を変えることができるんだっていうことを、目の当たりにしたんです」
いのちの手触りを感じる場所をつくる。
そのために大切なのは、目の前にある命と向き合いながら地道に働くこと。そして常識にとらわれず、この場を開拓し続けていくこと。
その姿はこの場所を訪れる人に伝わって、未来への循環につながっていくんだと思います。
(2019/4/9 取材 中嶋希実)