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編みものって本当に不思議なもので。針をリズミカルに動かしていくうちに、一本の糸が平面や立体に変化する。
はじめは何もなかったところから、徐々に形になっていくものに向き合い、手を動かしていく。それはもしかしたら、編みものや手芸にかぎらず、どんなものづくりにも共通する醍醐味なのかもしれません。
今回は、そんなものづくり好きのための仕事を紹介します。

あるいは、デザイン性の高い編み糸のブランドDARUMAに以前から注目していた編みもの好きな人もいるかもしれません。
定番の商品も、新しいデザインも、品質を保ちながらアイデアをかたちにしていくためには、企画と現場の橋渡しをする人の存在が欠かせない。それが、今回募集する生産管理の仕事です。
どちらかというと、縁の下の力持ち。目立つ存在ではないけれど、素材の奥深さ、職人さんの技術などを間近に感じ、ゼロからイチに立ち会える。ものづくりの根本的なワクワク感を一番近くで感じられる仕事だと思います。
新大阪から地下鉄で本町へ。このあたりは、船場と呼ばれる古くからの問屋街。昔ながらの看板を掲げた通りには繊維を扱う会社も多い。
少し歩いていくと、まわりとはちょっと雰囲気の違う白い外壁のビルに到着。ここかな?とキョロキョロしていると、壁に掲げられた真っ赤なダルマと目があった。

1901年に創業した横田株式会社の5代目。老舗メーカーの社長さんと聞いて想像するより、とても気さくで優しい印象にホッとする。

綿糸などのスタンダードな材料だけでなく、ウールや紙、ジュートやプラスチックなど、素材の面でも広がりを見せている。
さらに本やウェブサイトを通じて、糸を使った手芸や服づくりなどの楽しみ方をわかりやすく紹介することも。
手芸の素朴で温かい面だけでなく、ファッションとしての伝え方ができるのも、この会社のブランド力のひとつだと思う。
洗練されたパッケージは、お店でも目を引きますよね。

編みものをはじめとして、手芸で作品をつくるには時間がかかる。
あらゆるものが簡単に安く手に入る時代に、わざわざ楽しむ手間ひま。その時間が豊かであるためには、「編みやすいこと」や「完成した作品を長く楽しむための色もちの良さ」など、高い品質が欠かせない。
「あとは誰でも手に取りやすい価格であることも大切です。そのためには、加工にかかるコストも考えていく必要がある。今回募集する生産管理担当は、品質と価格の両面に関わる大事な役割なんですよ」
加工の指示や納期管理、価格の交渉など、数字に関わる業務の多い生産管理の仕事。
さらに、素材によって重さの単位の呼称が異なるなど、糸業界ならではの感覚もある。

「この会社を今後どうするか考えたとき、国内の市場が縮小していくからといって、シェアを広げるために価格競争に参入するのはおもしろくない。それよりも『ここでしかつくれないもの』を大切にしたいんです」
横田株式会社の強みのひとつは、小ロットでも加工できる自社工場があること。
さらに、たとえ自社でつくれないものや市場性の低い商品であっても、独自の価値があるものならば、加工場を探してでも挑戦する姿勢を大切にしているのだそう。
「こだわりの糸っていうのは、手芸だけでなく、アパレルなど、糸を扱うほかの業界にとってもこれから必要とされるものだと思うんです。本当に一歩一歩だと思いますけど、今までの枠にとらわれずいろんな可能性にアプローチしていけたらいいですね」

ブランドのオリジナリティを支えている企画チームでは、普段どんなふうにアイデアが生まれているんですか。
「うちの企画のメンバーは、結構むちゃくちゃなことを考えてきますね(笑)。こないだも、スーパーのビニール袋みたいな素材にプリントして、それを切って糸にしてみたいとか、光る糸がつくれないかとか」
それはたしかに見てみたい…。
そばで一緒に話を聞いていたのは、生産課の高橋さんと東さん。今回募集する人の先輩にあたるおふたりです。

「今までにないものをつくるとなると、まず加工先さんを探すところからスタートですね」
そう教えてくれたのは、髙橋さん。

紡績や撚糸の工場だけでなく、ときには靴の部品を扱うような革製品のメーカーなど、異業種の加工場とも協力してものづくりを進めていく。
20年以上糸に関わる仕事をしてきた髙橋さんでも、新しく学ぶことは多いのだとか。
「僕はこの仕事をはじめたとき、上司から『とりあえずひとりで加工先さんに行って、最低1時間はそこで話をしてこい』って言われたんです。20代の私が50〜60歳、下手したら70歳くらいの職人さんと、一対一で話をせなあかん。最初は用語の意味がわからなくて大変でしたね」
熟練の職人さんの感覚や、的確な判断、素材の特性など、加工の現場で得られる知識はたくさんある。

ときには仕事と関係のない話に脱線したり、食事やお茶をともにしたりして、相手のペースに合わせて関係性をつくっていくことも大切だったという。
「何回か通って向こうさんの懐まで入ると、初めていろんなことを教えてもらえる。そこから次の一歩がはじまるんですよね」
発注者・受注者という単純な関係ではなく、お互いに尊重しあえるパートナーになってこそ、急な発注や厳しい状況を乗り越えていけるのかもしれない。

思わず「大変でしたね」と言いそうになった私をよそに、皆さんは「あんとき、楽しかったですね」と笑っている。
「そうやって追い立てられながらでも、自分がつくったものが順調にどんどん売れていくっていうのは、やっぱりやりがいに感じますよ」
消費者としては、店頭にいつも「いい製品」が並んでいるのが当たり前という感覚があるけれど、それは急な状況変化やトラブルが起きても、見えないところで軌道修正をしている生産管理の人がいるから。
「僕らの仕事は上手くいってて当たり前なんですよね。だから、トラブルを減らしていくためにも、わからないことや疑問はそのままにしないで聞いてほしい。常にいろんなことを気にかけておくっていうのは大切かもしれないですね」
髙橋さんと一緒に働いている東さんは、その言葉を受けて「僕はある程度気にしない部分も持ちながらやっていかないともたないです(笑)」と続ける。

膨大な種類の製品それぞれに対して、生産に必要な時間と加工場の状況を把握しながら、売れ行きを予測していく。在庫が切れたり余ったり、加工が予定通りに進まなかったり、デジタル的な発想で思い通りに進むことばかりではないのだそう。
「だから逆に、ちょっとした失敗ではめげないっていうことも必要。次から同じ失敗をしないようにすればいい。僕自身、そう思えるようになったのはここ最近なんですけどね」
勤め始めて今年でちょうど20年になるという東さん。もともとものづくりが好きで、メーカーで働きたいという思いがあった。
「僕は机にじっと座っとくっていうのがあんまり得意じゃないので、事務作業や発注のようなことは手際よくやって、あとはなるべく工場に行くんです。ちゃんとやることをやれば、あとは好きに動かせてもらえるのがこの会社のいいところですね」
工場で見た素材や技術を会社に持ち帰り、企画につなげることもあるという。
「たとえば」と見せてもらったのは、麻糸をコアにして、包むように編まれた綿の紐。
もともとDARUMAでは、バッグを編む素材として麻糸を販売していたものの、素材の特性上、どうしても編んでいる途中で繊維のかけらが落ちてくる。
綿でカバーすることで、滑りが良くて編みやすいオリジナルの糸が生まれた。

「生産っていうのは、営業とか企画とか工場とか、立場の異なる人たちの間に立つので、それぞれの分野のことを知らないと話ができないんです」
大阪本社の事務所でも、企画や生産など社長も含めて30人弱のスタッフみんなが机を並べて働いている。働く人同士の距離が近いからこそ、担当領域を超えて、コミュニケーションを取りやすい。
素材を扱う専門職ではあるけれど、それ以上に人と人をつなぐ調整役として、お互いの仕事に敬意をもって向き合う姿勢が大切なんだと思う。
「僕はものづくりが好きっていうだけで、この仕事を始めるまで手芸はやったことなかったんです。会社に入ってからは、ちょっと試しで編んだりすることもあって、やってみると案外嫌いじゃないなって思います」
「これから入る人も、別に最初から手芸のことを知らなくてもいいので、とにかくものづくりは好きであってほしいですね」

糸を通じてそれを伝える人たちは、誰よりもものづくりを楽しむ人たちでした。
(2019/6/17 取材 高橋佑香子)