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「楽しくやろう」日本百貨店の代表を務める鈴木さんが、よくスタッフにかけている言葉です。
勇気をもらえるいい言葉だなあと思いつつ、仕事には責任が伴うもの。どうやって「楽しさ」と「責任」を両立しているんだろう。
最初は少し疑問だったのですが、話を聞き終えてちょっとだけわかった気がします。
ヒントはたぶん「一緒にいる人がうれしそうだと、自分も楽しい」という感覚。
今回募集するのは、雑貨や食品など日本の「スグレモノ」を集めたお店、日本百貨店の販売スタッフ。創業から10年という節目の年を迎え、日本橋に新しく出店する旗艦店で働く人を探しています。
向かったのはJR秋葉原駅と御徒町駅の間の高架下。秋葉原駅から向かうと、まずたどり着くのが『日本百貨店しょくひんかん』。
ここで代表の鈴木さんに会う。今日はこの後東北へ向かうそうで、やや大きな荷物を手にしている。
話を聞く場所として案内してもらったのは、同じ高架下にある『やなか珈琲店』。鈴木さんが手際よく用意してくれたコーヒーを受け取ると、取材が始まった。
「日本仕事百貨の取材を受けるときは、いつもここなんですよ」
10年前、わずか4人のメンバーでスタートした日本百貨店。今ではスタッフは100人近く、お店は10店舗まで増えた。
職人の技術を生かした工芸品や、日本の気候のなかで育まれた食材加工品。郷土玩具に、花火、涼しげなグラス、小さなおやつ。
日本百貨店のお店を覗くたびに「もうすぐ夏が来るなあ」とか、「たまには急須でお茶を淹れてみるか」とか、何かを思い出すような感覚が湧いてくる。
「スタッフの採用面接をしていても、日本百貨店の“もの”が好きっていう声はよく聞きます。それが実際に働いているうちに、今度は“人”が好きになる。社内もそうだし、メーカーさんともいい関係ができて。長く勤めてくれているスタッフは、お店が自分にとって心地いい“場”になっているんじゃないかな」
「ここは、つくり手と使い手と売り手、その応援団も含めて、いろんな人が出会う場所なんですよね。たとえば50年後、僕はもう仕事していないかもしれないけど、その“場”をつくるっていう意識だけは保ち続けてほしいんです」
話をしていると、向こうから笑顔で手を振る人がいる。
「お〜!」と応える鈴木さん。聞けば、桐生の織物メーカーのご夫婦だそう。
「いつもこういう感じで、ふらっとつくり手さんがお店にやってくるんです」
「あの旦那さん、初対面のときはこう腕組んで黙ってて、なんか頑固な人だと思ってたんだよね。その横で奥さんがニコニコしているもんで、そっちばかり見て喋っていたら、旦那さんもなぜか奥さんを介して僕と会話しはじめるっていう変な感じで(笑)」
最初はぎこちない会話で終わったものの、なんとなく気になって、後日そのつくり手さんのいる桐生を訪ねた。すると工房には、センスのいいストールがたくさん。
すぐさま、お店で扱うことが決まったという。
「彼には、本当は熱い思いや話したいことがあるんだけど、照れ屋なんですよ。人間つついてみないとわかんないですね」
この人の商品を売りたい。
鈴木さんたちの商品選びは、そんな気持ちがきっかけでスタートすることも多い。
鈴木さんだけでなく、それぞれのお店の店長も同じ。自分が売りたいと思うものを選んだり、経験を積んで自ら買い付けに行ったりする人もいるという。
「やっぱり、僕が選んだものを売るだけだったらつまらない。もちろんルールはありますよ。ただ、基本的にはお店ごとの自主性を大事にしたい。任せて失敗することも多いんですけど、たまに僕の想像出来ないようなことが起こるんですよね」
鈴木さんが話してくれたのは、秋葉原のお店でチーズのお菓子を仕入れたときのこと。
見た目はかわいいけれど、正直あまりピンとこない。鈴木さんはその商品を提案した店長にやめたほうがいいと助言した。
「そしたら『なに言ってるんですか、鈴木さん。ここ秋葉原ですよ。絶対売れます!』って言われて。昨日今日入った人の言うことだったら信用できないけど、店長としてちゃんと実績を上げているから断れない。じゃあ好きにすればって仕入れてみたら、本当にすごく売れたんですよ」
「会社が大きくなっても、そういう声を生かせる環境は大事にしたい。『こうしなきゃ』じゃなくて、『まあ、やってみようぜ』っていう精神は忘れたくないですね」
創業からまもなく10年。これまでやってきたことを詰め込んだ旗艦店を、日本橋にオープンすることになった。
「以前から日本橋は意識していたんです。僕らの根本にあるのは日本のつくり手にお金を回すっていうことだし、地方でものづくりをしている人が『自分のつくったものが日本橋で売られている』ってことになったら、モチベーションが上がるじゃないですか」
新しいお店では、文化と歴史のある日本橋の土壌を生かして、これまでにない取り組みにも挑戦する。
ものを売り買いするだけでなく、閉店後に落語会を開いたり、能などの伝統文化に触れられるイベントを企画したり、職人さんのものづくりを体験できるワークショップを開いたり。
日本のつくり手、クリエイターという対象をより大きく捉えて、いろんなモノ・コトが生まれる場をつくっていく。
「お店も大きいし、新しいことも多い。結構エネルギーのいる仕事なんですよ。だから、日本橋店の店長は特に熱意のある人がいいなと思って」
そこで紹介されたのが、日本橋店の店長を任されることになった片桐さん。入社して8ヶ月。今は横浜にある日本百貨店あかれんが店で働いている。
インテリアの販売に関わる仕事をしていた、前職の経験も買われて任されることになった大役。
今はどんな気持ちですか。
「いや、不安しかないですよ(笑)。まだよく知らない商品も多いですし。それを鈴木さんに言ったら『そんなの大丈夫だよ、みんながいるんだから』って言われて、ああそうかってちょっと納得したんです」
「普段働いているあかれんが店でも、店長が一人で責任を負うという感じではなくて。チームみんなで考えようっていう雰囲気はあると思います。店長になることが決まってから、他の店長さんも『何かあったら言ってね』ってよく声をかけてくれる。みんな優しいんですよ」
鈴木さんの「楽しくやろう」という言葉や、一緒に働く人の一体感と優しさ。お店の雰囲気を見ていると、頷ける部分もある一方でやっぱり少し気になることがある。
たとえば忙しくて余裕がないときとか、いつも明るくいるのが難しく感じることはないですか。
「やっぱり、自分たちの立てた企画が上手くいかないときは、どうしよう!ってなりますね。この前もたくさん仕入れたパンが、思うように売れなくて」
あかれんが店周辺のエリアで開かれたパンフェスに合わせて仕入れたパン。
フェスが終わると、パンを求めてやってくるお客さんは減ってしまう。しかも、パンの賞味期限は3日間。期間内に売らなければロスが出るというプレッシャーがあった。
試食を出したり、接客のキーワードになりそうな言葉を考えたり。並べ方、見せ方、品出しのタイミングなど、そこでの経験は後々の通常業務にも生かせる学びになったという。
「みんなでアイデアをいっぱい出して片っ端から試したら、少しずつ売れはじめたんですよ。休憩から戻った人が、『何個売れた?』って聞いたりして。ああ、いいチームだなって感じました」
チームとしての信頼関係は、同じものが好きという趣味・嗜好だけでなく、同僚やつくり手、お客さんなど、人に対する思いやりがなければ生まれない。
つくり手とお客さんの間をつなぐ販売の仕事。片桐さんは最近、「つくり手の思いを届ける」という感覚を以前よりはっきりと実感できるようになったという。
「たまに試飲会などでつくり手さんがお店に来たとき、お客さんとすごく熱心に話しているのを見かけるんです。普段はなかなか機会がないけど、本当はこんなに話したいことがある。私たちはそれをちゃんと語って伝えていかないとなって思うんですよね」
「扱うものが好きで、つくり手さんのことも好きで、お客さんのことも好きになって伝えたいって思ってくれる人がいたら、一緒に働きたいですね」
続いて向かったのは東京駅構内にある『日本百貨店とうきょう』。
時刻は夕方6時。いそがしく行き交う人のなかに、新卒で入社して3年目の沖津さんの姿があった。
代表の鈴木さんが「彼女みたいな人を募集したい」と言っていましたよ、と伝えると「え〜?なんででしょう。よく明るいとは言われますけど」と笑う沖津さん。
「お店が混んでいると笑顔がなくなりそうになるんですけど、連携プレイでなんとかやっています。接客を抜けたらレジとか、お包みとか、いろいろなところに目を配って」
「わたしだけじゃなくて、みんな根が明るいというか。お店の雰囲気はすごくいいなと思います」
日本百貨店での接客に、決まったマニュアルはないという。
仕事を覚えたてのころはどうでしたか?
「お客さんに話しかける最初の一言は難しかったですね。お店がすいているときに、先輩に商品のことを一つひとつ聞いて覚えていきました。たとえば、『このバッグ、柔道着と同じ素材でつくられているから丈夫なんです』とか、『実は黒帯でできているんですよ』とか」
セリフとして覚えるのではなく、自分自身も驚いたり楽しんだりしながら。
そうすると、だんだん意識しなくても自分の言葉が出てくるようになる。
働きはじめて3年目。「やればやるほどいろんなことに興味が湧いてくるんですよ」という沖津さん。
これから目標にしていることって何かありますか。
「今はとにかく、いろんなメーカーさんと話をしたり、展示会に行ったりして知識を広げたい。それでいつか、自分で商品の仕入れや企画ができるようになったらいいなと思います。あとはちゃんと数字を見られるようになりたい!本当に、目標はいろいろあります」
「私はお店のなかで一番年下だけど、ちゃんと意見や提案に耳を傾けてもらえるし、何か提案してみるっていうこともしやすい。それがアイデアとして未熟だったときはちゃんとアドバイスももらえますし。成長できる職場だと思いますね」
いそがしい仕事の合間を縫って話を聞かせてくれた沖津さん。売り場ではお客さんを前に、明るいハキハキした声で商品を紹介していた。自分がいいなと思ったものだから、お客さんに自信を持って話せるのかな。
つくる人、受け取るお客さん、一緒に届ける仲間。
自分以外の誰かのよろこぶ顔をみたいという気持ちが、仕事を「楽しく」する近道なのかもしれません。
(2019/7/11 取材 高橋佑香子)