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「一人ひとりの活動が枝だとすると、その枝のおおもとには、よりよい未来という大きな幹がある。Tree to Greenは、同じ未来を一緒に目指したい仲間が集まっている場所だと思うんです」
株式会社Tree to Greenは、日本の“木”を使ったものづくりから、よりよい環境や地域のくらし、文化をつくろうとしているベンチャー企業です。
社名を単純に訳すと、木から緑へ。国産材による空間デザインや子ども向けの木育ワークショップなど、“Green”にはさまざまな意味が含まれています。“緑”という意味だけではなく、“元気さ”や“若々しさ”といった意味も、活動のなかに込めているそう。
今回は、そんなTree to greenで今後の設計デザインを担っていく建築設計士を募集します。
日本の木を使ったものづくりや、そのもとにある自然環境、そして地域づくり。それらに関心がある人にとっては、やりがいのある仕事だと思います。
(新型コロナウイルスの感染拡大を受け、オンラインにて取材を行いました。なお、現地の写真はご提供いただいたものを使用しています)
予定の時間になりZoomをつなぐと、Tree to Greenのおふたりが迎えてくれた。
画面左から、代表の青野さんと、内装ディレクターの村上さんだ。
ほとんどのスタッフは自宅勤務になっているそうで、代々木上原にある事務所に出勤しているのはおふたりだけとのこと。
「仕事もすこし落ち着いている状況ではありますが、立ち止まって先のことを考える時間をもらえたってことなのかなって。逆にチャンスだと思ってますね」
そう話しはじめてくれたのは、代表の青野さん。
Tree to Greenは、2013年に青野さんが仲間と一緒に立ち上げた会社。
最初は木曽の木材を使った照明器具の製作からはじまり、次第に椅子や机などさまざまな木製品を手がけるように。
その後もっと広く木を活用していきたいと、建築や内装デザイン、さらには木育をテーマにしたワークショップの企画運営にも取り組んできた。
会社を立ち上げる前は、どんなことをしていたんですか。
「もともと、銀行やコンサルティング会社で働いていたんです。日本の木のことについて考えるようになったのは、ある企業さんのコンサルティングがきっかけで」
「資料をまとめているときに、たまたま日本の木材自給率がすごく低いっていうことを知ったんです。そのときに、なぜか強い違和感と憤りを感じたんですよね」
かつては林業が盛んだった日本。もともとは国内で使用する木材を自給し、同時に人工林を育てていくことで豊かな森林環境を維持してきた。
けれども、昭和40年代ごろから価格の安い外国産の木材が多く輸入され、国産材が余ってしまう状況がつづくように。
現在の木材自給率は3割ほどにとどまり、各地で人工林が放置され、森がどんどん荒れてしまっているそうだ。
「違和感を感じながらもコンサルの仕事はつづけていました。そんなときに起こったのが、東日本大震災だったんです。新宿のビルの20階くらいにいたんですが、グラグラ揺れて」
「家族は無事でしたが、そのあとも原発や放射能、いろんな恐怖と隣り合わせの日々。次第に、どうしてこんなことになってしまったんだろうっていう疑問が大きくなったんですよね」
自然災害を完全に防ぐことはできないかもしれないけれど、原発やそれによって生み出されるエネルギーに頼る生活は、長い歴史のなかで人が生み出してきたもの。
過去の人が必要だと決めたことが、今になってたくさんの人の暮らしに大きな影響を与えていることに、疑問を持った。
「だったら、今の時代を生きる自分が次の世代にバトンを渡していくときには、少しでも未来にとっていいことがしたいなって思ったんです」
未来にとっていいこと。
「たとえば、森林を守って自然環境をよりよい状態で子どもたちに引き継ぐことができたら、それは未来にとっていいことだろうなって。同じような思いを持った仲間と一緒に、できることから取り組んでいける場所をつくりたいなと思って、会社を立ち上げました」
日本の林業や、自然環境の保全。最初から大きなテーマでは共感を生むことが難しい。
だったら、入口は楽しく、心地よく。Greenの思いは持ちながら、もの・空間・体験と、さまざまなことに取り組んできた。
今回募集する建築設計士は、そのなかの空間づくりに関わることになる。
「今手がけている内装は、保育園やキッズスペースといった子どものための空間が多いんです。たとえば、このしらかし保育園では床材にすごくこだわっていて」
「全部で8種類の木を使い分けているんですよ。年齢が低い子の部屋はやわらかい木を使って、だんだん年齢が上がっていくと木が硬くなるようにする、という感じで」
子どもたちの動きの激しさに対応するように床の強さを変えているという点で、理にかなっている。
ただそれ以上に、木の存在を身近に感じてほしいという思いがある。
「木の種類が違うと、硬さだけじゃなく色や肌触りもそれぞれなんです。学年にひとりくらい、その違いに気づいてくれる子がいたらいいなって。単純に国産の木を使うだけじゃなくて、どうしたら木のことに興味を持ってもらえるかな?ということも大事にしたいんです」
単純に木を使った内装を施すことだけではなく、なんのために、どんな木を使うのか。つくり手としてそれを意識することが大事だし、使ってくれる人にも感じてもらえたら、より心地いい空間になる。
「今のほとんどの住宅建築って、安く早くという点があまりにも重視され過ぎている気がしていて。ぼくは別の業界から来たので、特に新築の住宅工事が重視され過ぎている現状に、すこし違和感を感じているんです。都市でも地方でも、地域の風土や文化などの特徴がより引き立つように、既存の建物を上手に活かしていくことがこれから大切になってくるのかなと思います」
「地域のくらしを彩って、使う人が『心地いい』と思ってくれる場所をつくっていきたい。コロナの影響もあって、今は仕事と暮らしの一体化が進んでいるときだと思うので、そういった潜在的な需要に応えるような建築をしていきたいと思っていて。今回お迎えする設計士の方には、そのコアになってほしいんです」
たとえば、地方や郊外にある空き家を、木にこだわってリノベーションする。都会で暮らしている人にとってはその空間がひとつの価値になるし、それによって都市と地方をつなぐことにもなる。
ほかにも、今後需要が高まっていく地域の人たちがサロン的に集う場所や高齢者の住まいなどにも、これまで以上に携わっていきたいそう。木を使うからこそできる空間の心地よさや柔らかさは、そういった場所でより活きる気がする。
これまでは、建築設計の部分を外部の設計士と協働してつくってきたけれど、今後は自社で手がけることで、自分たちらしい空間づくりにもっとこだわっていきたいと考えているところ。
設計士の人と一緒に、兄弟会社として設計事務所を設立するかたちもあり得るとのこと。
Tree to Greenのメンバーは、役員を含めて現在17人。建築内装担当や、家具造作、ワークショップ担当など、それぞれの強みを生かして活躍している。
「今一緒にいる村上は、会社を立ち上げて1年半くらい経ったときに合流してくれたんです。わたしたちの思いに共感して来てくれたんですよ」
そう紹介してくれたのが、内装ディレクターの村上さん。
村上さんはもともと、別の会社で内装施工や家具づくりの仕事をしていたそう。自分が取り扱っている木のほとんどが海外産であることに、違和感を感じながら働いていた。
「青野と最初に出会ったときは、おなじことを感じている人がいるんだって驚いたし、同時にすごくうれしかったですね」
「当時、価格の安い海外産の木材を使うのは、内装や家具業界のなかでは常識だったんです。だからこそ、別の業界で活躍していた青野と一緒だったら、新しいことにチャレンジできるんじゃないかって。なにより、気持ちを共有できる仲間と一緒に仕事ができるのは面白そうだなって思いました」
入社後はそれまでの経験を活かして、デザインから内装施工、そして家具造作まで、幅広い業務を担当している。
印象に残っている仕事を聞くと、施工を担当したある企業のオフィスについて話してくれた。最初の要望は、「おしゃれな空間にしたい」という抽象的なイメージからはじまったそう。
そこから詳しくヒアリングをしていき、施主の思い浮かべるイメージと実際の使い勝手を想像して、どんな空間にしていくかの解像度を上げていった。
「空間全体にナラ材を使うというのはイメージとして固まって。そこからどう仕上げるか考えていくんですが、このときはおなじナラ材でも、どの地域の木材を使うかというところまでこだわりました」
たとえば、と話してくれたのが、大きな一枚板のテーブル。
「木の素材感が強い、粗野な雰囲気のテーブルを置きたい」という施主の要望を聞き、村上さんは考えた。各地の協力会社まで実際に足を運び、さまざまな木材を検討するなかで、雰囲気や見た目のきれいさから北海道下川町のナラ材を使うことを決めた。
「テーブルとしてどう加工するかというのも、北海道の協力会社さんと相談してつくりました。これ、実は2枚の板を『ちぎり』っていう蝶ネクタイ型の木片でつないでいるんです」
「2枚の板を合わせることで迫力が生まれるし、パソコンを設置したときも真ん中に配線を通しやすい。素材のよさを引き出しつつ、完成後の使い勝手もよくすることができたと思ってます」
鉄でできた脚の部分は北海道では加工できなかったため、埼玉にある別の会社に制作をお願いしたというこだわりっぷり。もちろんコストと予算は考えつつ、よりよいものをつくるためにどうするのがベストか、とことん考えることが大切なのだという。
「どんな空間だったら幸せだろうって、想像できることが大事だと思っていて。それって、まずは自分がいいと思えるかどうか、っていう視点でいいと思うんですよね」
「これからつくる空間で、幸せを感じられるか。それをまず考えてから、ほかの人にも幸せを分け与えるような発想が、ここでは大切だと思うんです。そういう人、いるかな? 多分いると思うんです」
すると、隣で聞いていた青野さん。
「自分たちで設計から手がける案件が増えていけば、保育園の床材みたいな、細かいこだわりを今まで以上に追求できる。ぼくたちと一緒にワクワクするものづくりをしたいと思ってくれる方と、ぜひめぐり会いたいです」
一人ひとりの活動から、未来によりよいバトンをつなぐ。
木や自然環境のこと、関心がある人はきっと少なくないと思います。それをどう表現して伝えるか、どうかたちにしていくか。
Tree to Greenのみなさんとなら、たくさんの可能性を生み出していけるように感じました。
(2020/5/7 オンライン取材、2020/8/5 再編集 稲本琢仙)