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1つひとつコツコツと
町家暮らしをつくる宿

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心地よさってなんだろう。

たとえば、吹き抜けていく風、さわさわと差し込む木漏れ日。そこの空気に自分が馴染んでいく、そんな感覚なのかもしれません。

今回訪れた「奈良町宿・紀寺の家」。

取り壊されそうだった5棟の町家を改修し、2011年に1棟貸しの宿としてオープン。宿の運営経験がないところから、「今の町家暮らし」を体験できる宿を形づくっていきました。

お米も、制服のワンピースも、周辺地図も。できるものはスタッフの手で、宿に合うようにつくる。今の町家暮らしに向き合い、暮らしのなかで何が自然か、みんなで考えて形にしています。

今回は、「これからの町家暮らし」を一緒につくり、営んでいく仲間を募集します。

 

奈良駅の隣、京終(きょうばて)駅から歩いて12分ほど。

路地に小さな神社や町家が点在するまちなみからは、古都の趣が感じられる。

「奈良町宿・紀寺の家」があるのは、奈良市の南東部に位置する奈良町。春日大社や興福寺からも近い。

この地域の町家は間口が狭く、奥行きが深いことが特徴。中庭や玄関から裏庭までをつなぐ通路に沿って通り庭があり、家の奥まで風と光が入るような工夫が凝らされている。

 

そんな町家で育ったのが、代表の藤岡さん。紀寺の家の経営や設計事務所に所属する傍ら、まちのプロジェクトにも関わっている。

「父が町家の改修や文化財の保存修理の仕事をしていて。その父の仕事を見て、自分も建築の道に進みました」

大学に通いつつ、ヨーロッパを旅行し各地の建築を見て回った。

そのときに衝撃を受けたのが、イタリアの伝統建築。まちごとにまったく異なる建築があり、今も人が住み続けていることに驚いたそう。

「じゃあ、日本はどうなんだ?」と、藤岡さんは考えた。

「以前は日本の伝統建築をひとまとめにして考えていたことに気づいて。雪の深い地域では屋根の勾配を急にして、雪が落ちやすいようにしたり、沖縄などの台風がよく来る地域では瓦を漆喰で固めて飛ばされないようにしたり。同じ木造でも、その土地にあった方法で建てられているんですよね」

「僕も日本の建築に誇りを持ちたいと思って、木造を手がける東京の工務店に就職しました。その後、父の仕事を学びたいと思い、奈良に帰ってきたんです」

当初は駅前のアパートに住んでいた藤岡さん。そこから事務所まで、自転車で毎日10分ほどの道を通った。

「その10分くらいの道沿いでも、すごい勢いで町家が潰されていることに気づいて。日本全国で伝統的な建物が取り壊されていることは知っていたけれど、それがどういうことなのかわかったんです」

「新築では出せない良さがある町家がなくなってしまうのは、本当にもったいない。住みたい人がいるのに取り壊す理由ってなんなんだろう?って考えて。町家が売られていないのかな、と思って不動産屋さんを調べました」

不動産のホームページの売買の欄には「新築」「中古」「土地」のカテゴリー。「中古」を調べても、藤岡さんが思うような町家は1軒も見つからない。諦めきれず、不動産屋を訪ねると、なんと「土地」として町家が売買されていた。

「当時はすぐに住めない物件は土地として売買されていたんです。物件を案内してもらったときも『これは更地にしたほうがいい』とか『お金がいくらあっても足りない』とか。僕から見たら直せる家なのに、すごくネガティブな説明をされてしまって。住みたい人が住めない状況があったんです」

町家のいい活用例を示せたら、状況は少し変わっていくんじゃないか。

そんな思いからはじまったのが、紀寺の家。学生アパートにするため取り壊される予定だった5棟の町家を1年かけて改修し、宿としてオープンした。

古い建物の趣を残しながら、床暖房や洋室も設けるなど、現代の町家暮らしを提案。フロントには、町家に住みたい人が気軽に相談できる窓口「町家・古民家暮らし準備室」も設けられている。

設計事務所に行くのはハードルが高いけれど、ここなら宿泊していいなと思えば、チェックアウトのときに相談することができる。

宿としてのおもてなしと、お客さん自らで楽しむ町家暮らしの体験。そのバランスを見出すまでは、試行錯誤の日々だった。

「最初は1棟の町家を掃除するのに、3、4名のスタッフで1時間くらいかけていました。3年目くらいまでは、お出しするお料理もお客さまによって変えてみたり、ユニフォームをつくってみたり。楽しかったですが、働く時間も長かったし大変でしたね。いろいろ試しながら、これがベストだね、というところをみんなで探していきました」

 

そんな紀寺の家を立ち上げから支えてきたのが、妹の志乃さん。今はお子さんを育てながら、マネージャーとして主にスタッフのシフト管理などをしている。

「紀寺の家の業務は、大きく分けて調理・接客・裏方の3つです。掃除はスタッフみんなでするので、この3つを毎週かわるがわる担当していきます」

新しく入った人は、1年ほどかけて業務を覚えていく。

紀寺の家は、毎年行われる若草山焼きの時期に来る人など、リピーターが多い。なかには、近くの町家に住むことになった人も。

「オープンして2〜3年経ったくらいから、毎年ご夫婦で来ていただいている70代くらいのお客さまがいらっしゃって。最初は奥さまだけだったんですが、そのうち旦那さまも一緒に来られるようになって、今ではおふたりの誕生日がある3月には毎年来ていただいています」

「私も昔からお付き合いさせていただいて、結婚や出産をお祝いしていただいたり、赤ちゃんを抱っこしていただいたり。スタッフとお客さまという関係以上の関わりをさせてもらっているのは、本当にありがたいなと思います」

連泊のお客さまの部屋には、変化を楽しめるよう蕾の花を活けるなど、小さな工夫を丁寧に積み重ねている。

その積み重ねの結果が、紀寺の家の心地よさにつながっているのかもしれない。

「紀寺の家で働いていなかったら、一生関わることがなかったようなお客さまとお話しできて。自分の世界が広がるような感覚があります」

紀寺の家での仕事から、お茶、お花、習字などに興味を持ち、実際に習いはじめたという奥井さん。ここでの出会いは、働く人の暮らしも豊かにしているように感じる。

 

同じように、自分の世界をどんどん広げていっているのが、現場責任者の菊池さん。たくさんのお客さまと話をするなかで、写経や乗馬に興味を持ったそう。

「茨城県出身で、姉が奈良の和菓子屋さんに就職したことをきっかけに、遊びに来るようになって。仏像やお寺とか古いものが好きなのと、ゆったりした空気と人のあたたかさが魅力的だなと」

「テレビや舞台の照明の専門学校に通っていました。横浜の会社でインターンもしていたんです。けれど、そのまま就職しようかと考えたときに、自分が楽しんで働けるか疑問に感じて。それで、以前から好きだった奈良に思い切って引っ越したんです」

最初は販売の仕事を経験。ただ、もっと奈良のまちのことに関われる仕事がしたいという思いから、紀寺の家にたどり着いた。

「掃除とか調理の仕事があるのはイメージできましたが、田植えや餅つきも仕事内容に含まれていたのには驚きました」

紀寺の家では毎年6月に、宿で提供するためのお米を自分たちで植えて育てている。

それ以外にも、草むしりや庭木の手入れ、ときには床や家具のワックスがけ、格子戸の塗装など。自分たちの手でできることは極力自分たちで行っていて、体力仕事も多い。

ブログの更新や宿泊したお客さまへのお礼状なども、すべてスタッフ自ら書いている。隅々まで心配りがされていることが伝わってくる。

一日の仕事の流れはどんな感じでしょう。

「朝食が朝8時だとすると、調理担当と裏方担当は6時半に出勤して調理をはじめます。裏方担当はお掃除や片付け、町家の前の石畳に朝の水打ち。接客担当も朝食時間前に出勤して、みんなで調理の仕上げと盛り付けをします」

「朝食を岡持で各町家にお持ちして、11時まで各担当の仕事をします。接客担当は予約処理、電話受付、メール対応。調理担当は翌日の朝食の買い出しや仕込み。裏方担当は朝食の片付け、部屋着やランチョンマットのアイロンがけ。11時にチェックアウトを接客担当が行い、お見送りが済んだら、みんなで13時まで町家の掃除をします」

昼休憩を挟んで14時から16時の間に、備品を揃えたり、花をしつらえたりなど、お客さんを迎える準備を済ませる。最後に水打ちをして、16時からチェックインが始まり、接客担当は19時で退勤。

「スタッフで考えた企画をすることもたまにあって。周辺の地図を自分たちでつくってみたり、販売用のお米のパッケージをデザインしたりと、みんなで考えて形にすることも多いです」

デザインや調理の経験があれば活かせるだろうし、未経験でも、つくることを楽しめる人なら歓迎だそう。

「なんでもやってみたいという欲張りな方にぜひ来ていただきたいです。紀寺の家がスタートして10年経って、これからさらに成長できると思っていて。この場所を一緒につくっていきたいという気持ちがある方だとうれしいです」

 

最後に、藤岡さんにまちを案内していただいた。

「昨年9月より、『縁側の町家』という町家は、1週間以上の長期滞在向けの施設に変えました。お鍋とか洗濯機とかも置いて、料理もできるし、洗濯も、掃除もできる。よりじっくりと町家暮らしを体験していただけます」

またこの春から、奈良の町家に住みたい方や、お店をやりたい方向けに、改修した町家を貸し出すこともはじめた。なかには藤岡さんが育った町家もある。

柱や木枠の窓など、手を加えながら長年使われてきた風合いが感じられる、モダンな造り。

「町家を残していくためには、まちも魅力的でないといけないと思っていて。紀寺の家だけではなく、まわりもすごく重要なんです」

「もうひとつ案内したいところがあって」と、紀寺の家からすぐの改修中の施設を見せてもらう。銀行だった建物で、1階はシェアキッチンとしても使えるレストラン、2階はシェアオフィスやコワーキングスペースになる。

「奈良の人たちが集まって、夜な夜なお酒を飲んだり、何か企てたり。奈良をこれからよくしていこうっていう仲間が交流できる場をつくろうとしています。まずは地域の人に親しんでもらって、紀寺の家に泊まる人もそこにふらっと入って交流できる場所になってほしい」

屋上からは奈良の街並みが一望できる。遠くに五重塔や若草山も見える、気持ちの良い場所。

このプロジェクトは紀寺の家のスタッフにとっても、まちの人との交流は今の町家暮らしをつくる大切な要素になっていくと思う。

 

まずは町家のこと、奈良のことを知ってほしいです。紀寺の家は、小さなことからコツコツと「今」をつくっていくような仕事だと思います。

(2022/5/19 取材、2022/9/13 更新、2022/11/21 更新 荻谷有花)

※撮影時はマスクを外していただきました。

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