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人とのつながりを感じながら、暮らしも仕事も楽しみたい。
そこに地方という文字が重なるなら、こんな働き方もありかもしれません。
高知県馬路村にある「馬路村地域づくり事業協同組合」。この組合に属する村内の企業で、季節ごとに仕事を組み合わせながら働く、マルチワーカーを募集します。
観光業や農業、福祉など。働く人の希望も聞きながら、自分だけの働き方をつくることができます。「続けて働きたい」と思う場所があれば、マルチワークを卒業して就業することも可能です。
お客さんじゃない。かといって、将来を約束された形でもない。移住に向けて、なにか一歩踏み出してみたい。そう考えている人がいたら、ぜひ読み進めてほしいです。
高知県東部に位置する馬路村。ゆずジュース「ごっくん馬路村」や、ポン酢しょうゆなどで名前を知っている人も多いと思う。
馬路村へは高知空港から車で2時間ほど。太平洋を眺めながら1時間、さらに川を遡上するように車を走らせる。
「まちよったで」
ところどころに飾られた、手書きの看板に頬がゆるむ。しばらくすると、くねくねした道がパッと開けて、村の中心部が見えた。夏の緑がみずみずしい。
向かったのは、馬路温泉。日帰り温泉に宿とレストラン、土産屋もある地域の観光拠点だ。
土産のPOP、レストランの品書き、あらゆるところに手書きの文字が溢れていて、和やかな気持ちになる。
「ゆっくり見ていってくださいね」
明るく声をかけてくれたのは、林さん。
組合の事務局長で、馬路温泉の支配人を務めている。
人口減少と高齢化で担い手不足に悩む地域を対象に、国の事業として始まった「特定地域づくり事業」。
マルチワーカーは、地域の企業から構成される協同組合に職員として雇われる。そこから派遣される形で、地域内のさまざまな仕事を組み合わせて働くことができるという仕組みだ。
「移住するとなると、暮らす場所と仕事を決めんといかん。2つのことをあわせて決めるのは大変ですよね」
「マルチワークという働き方があれば、働きながら自分に合った仕事を選ぶことができる。お試し移住じゃないけれど、移住のきっかけになればいいなと」
地域おこし協力隊や短期滞在型のワーキングホリデーなど、村外からの人の受け入れにも積極的に取り組んできた馬路村。マルチワークは今年の4月にスタートしたばかり。
組合は、特産品となっている柚子の生産・加工を中心とした農協のほか、社会福祉協議会、観光業の馬路温泉、林業に関する事業者など、6つの事業者から構成されている。
たとえば、最初の1ヶ月は農協で、次の1ヶ月は社協など。慣れてきたら、派遣先を組み合わせた働き方も可能だ。
現在求人があるのは農協、社協、馬路温泉に、林材加工協同組合の4つ。季節によって仕事内容が変わる職場もある。
事務局としてそのマッチングを担っているのが、林さん。発起人である村長から任命されて、事務局長に。
現在働いているのは、4月から働き始めた2名。基本的には本人たちの希望を聞きながら、1ヶ月ごとに派遣先を決めている。
「どこも担い手不足なので、来てくれるだけでもうれしいって状態です」
「人口820人の村ですけど、働く場所が変われば、かかわる人も変わる。社協で働けばお年寄りとたくさん話すやろうし、温泉では村外から来られたお客さんと交流することにもなるから、視点も変わると思う」
さまざまな場所で働くことで、働く人自身が村のことを知るきっかけになるし、村の人に自分を知ってもらうことにもつながる。
先輩たちはどんなふうに働いているんだろう。
話を聞かせてくれたのは、今年4月からマルチワークをしているふたり。
ふだんは違う場所で働いているとのことで、「小さい村やけど、意外と会わんもんやねえ」と笑っている。
右側に座っている清岡さんは、お隣の安芸市出身。高知を出てから30年、関西で暮らしてきた。
「ずっとこのまま大阪にいるのかな…と思っていたけれど、やっぱりコロナが大きいかな。制約の多い、都会の過ごしにくさを感じるようになって」
「人や自然をもう少し近く感じられる距離感で、自分の仕事がどういう意味を持つのか感じられる仕事ができたら、と考えるようになりました」
何ができるかはわからないけれど、人の役に立つ仕事がしたい。そんなとき見つけたのがマルチワークの募集。
「文字を見たときに、これかな!?と思って。いろんなことを経験しながら、自分がやれそうなことを見つけていけるかもと」
「年齢も40代後半。50になったら新しいことはようせんかも、と思って(笑)」
4月から村へ移住。暮らしはじめて驚いたのが、人との距離感。
「すれちがう人がみんな挨拶してくれるんですよ。見ず知らずの人でも、おはようございますとか、おつかれさまって」
「そういう挨拶をする暮らしはすごく新鮮ですし、拒まれていないというか、受け入れられている感じがしますね」
最初の3ヶ月は「村のことを知る機会になれば」という林さんの勧めもあり、農協、社協、馬路温泉でそれぞれ1ヶ月ずつ勤務。短期ではあるけれど、するべきことは比較的はっきりとしているため、戸惑うことは少なかったという。
働いていると、いろいろなことがある。
集落ごとに高齢者が集まる社協主催の会で、体操やゲームをしていたときのこと。
「ゆずを育てている90歳くらいの方が『作物に表年と裏年があるように、人間もうまくいかんときがあってもいいがよ』と話してくれたことがあって。おお、と」
「みなさん、話すことの奥が深いんですよ。ちょっとした一言にいろんな想いが詰まってる。そういう言葉に触れられる仕事っておもしろいし、ちゃんと感じ取れる心の余裕を持てるのがいいなと思います」
この7月からは、ふたりの希望にあわせた働き方をしようと、1ヶ月単位で勤務先を調整することになった。清岡さんは週3日は社協で、残り2日は馬路温泉で働いている。
社協と温泉にしたのは「ちょうどいそがしい時期だし、どう?」と相談をもらったから。
宿泊施設もある温泉では土曜勤務が必要になったけれど、とりあえず働いてから考えられるのはマルチワークの良さ、と清岡さん。
「じつは、平日休みのほうが病院とか行きやすいんですよね。この働き方がずっと続くわけではないし、合わないと思えば相談できる。休みも、希望を言えば可能な限り調整してもらえる安心感があります」
とはいえ最初のうちは、2カ所で働くことに不安も感じることもあった。
「馬路村って、ユニフォームとしてポロシャツを着るところも多くて。温泉は温泉、社協は社協の色があるんです。わたしたちは緑なんですけど、働く先の色に合わせますか?って林さんに聞いたら、『そこは緑やろ〜』って(笑)」
「派遣業ってどこかふわふわしたイメージがありましたが、これを着ていたら『ああ、マルチワークの人ね』ってわかってもらえる。属する場所がちゃんとあるって感じられるのは、ありがたいですね」
事務局の林さんのほか、役場には暮らしの相談窓口である、移住コンシェルジュもいる。ゴミの捨て方からご近所づきあいまで、なんでも相談できる明るい方だ。気軽に相談できる体制が整っているのは、新しく来る人にとって安心だと思う。
「移住者が多いのは、安心材料のひとつでしたね」
そう続けてくれたのは、もうひとりのマルチワーカー、田中さん。
静岡県出身。大学生のときに馬路村のことを知り、新卒でマルチワークに参加した。
「大学生のときにコロナ禍が重なって、孤独を感じていたんです。卒業後は人とのつながりを感じられるところで暮らしたいなと」
「旅行していたときに高知がいいなと思って。いい意味でお世話好きというか、ほかの地域も行ったけれど、一番話しかけてくれる人が多い印象でした」
そんなとき、馬路温泉でワーキングホリデーを実施していることを知り、夏休みに参加。1ヶ月働いてみて、馬路村で働く決心がついた。
「短期間なんですけど、いろんなコミュニティの知り合いが増えて。相談できる人の顔がいくつも浮かぶようになったことは大きいですね」
「 Iターンの人も、20〜40代では半分近くいて。観光で来られる方も多いので、山奥だけど閉じていない、風通しがいい感じがします」
背中を押したのは、馬路温泉で一緒に働いていたスタッフからの言葉。
「『気負わなくていいんだよ』って。移住っていうとすごく重く感じちゃうけれど、短期間でもいいから来ちゃいなよ! みたいな感じで。肩の力が抜けた感じがしました」
もっと村のことを知ってみたいと、紹介されたマルチワークに参加。7月からは、農協をメインに働いている。
「農協の働き方が、自分に合っているなと思って。馬路村で採れたゆずは、基本すべて村内で加工して全国に発送されるんですが、いまはお中元なのもあってすごい量で」
「淡々と作業する時間が続きます。だけど、1日2回のおやつタイムがあって、そこではうわーっとおしゃべりして。そのメリハリがちょうどいいんですよね」
ゆずの収穫期である11月は、村総出の繁忙期。あちこちの畑を駆け回ることになるかもしれないけれど、それも楽しみ、と田中さん。
「最初は派遣先が変わるたびに、4月の気分というか。自己紹介から始まる感じに緊張していたんですが、知り合いも増えて。いまは仕事も休日も楽しめています」
「あとは、温泉がいいですね。マルチワーカーの福利厚生として、馬路温泉に入り放題なんですよ」
それはうらやましい…!
「温泉自体に癒されるのもありますし、温泉で働く人と話してリフレッシュできるのも大きいですね」
もともと馬路温泉で働いた縁もあり、なんでも相談できるスタッフもいるし、同期の清岡さんもいる。
働くなかで、村のいろいろなところに居場所もつくっていけるのは、マルチワークの魅力のひとつだと思う。
働き始めて3ヶ月。今後の働き方については「まだまだわからない」とおふたり。
気に入ったところがあれば、就職してもいい。事務局の林さんはそう話しているけれど、自然と選択ができるところまで、この働き方を続けることもできる。
「ひとつのことを極めたいとか、なにかどんどん新しい提案をしていきたい人は、ほかの働き方が合っているかもしれませんね」と、清岡さん。
「そういう意味では、こだわりがないというか。人の関わりもそうやし、天気もコロコロ変わるから、まずはふむふむと受け入れてみる。なんか、ふわっと漂える人がいいかもしれないですね」
田中さんもうなずく。
「いろんな場所で働くなかで、自分はどう感じるんだろうとか。ある意味、宙ぶらりんな感覚のなかで、自分が変わっていく過程を楽しめる人が合っていると思います」
ミッションのある地域おこし協力隊とも、一つの企業に勤めるのともまた違う。一人の住民として、暮らしを直に感じられる環境だと思いました。
気負わず、漂いながら生き方を考える日々は、人生で大切な時間になると思います。
(2023/7/25 取材 阿部夏海)