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ぬーんねんしが
こころは朗らかよ
今帰仁村の子どもたち

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

“ぬーんねんしが”

沖縄県・今帰仁村(なきじんそん)の観光のキャッチフレーズです。

県の北部に位置するこの村には、大型ショッピングセンターや娯楽施設はありません。

“なんにもないけど”

広い空の下に続く山と透き通る海は、ここにしかないもの。

自然が色鮮やかなこの村では、子どもが地域に愛着を持ってくれるように、保育園から高校生までの一貫教育をおこなってきました。

村唯一の高校、北山高校に「高校魅力化プロジェクト」がはじまったのは2016年のこと。

高校魅力化プロジェクトとは、魅力ある高校づくりによって地域活性化を目指す教育改革です。

「その地域でしかできないカリキュラム」「教科学習とキャリア教育を受けられる公営塾」「人との出会いと気づきがある教育寮」の3本柱を軸に、それぞれの地域に合わせて、全国各地で展開されています。

今回の舞台となるのは、北山高校にある公営塾「夢咲塾(ゆめさきじゅく)」。

開塾から7年。ここで、夢咲塾のスタッフを募集します。生徒たちのこれからを着実に導いていく仕事です。

 

那覇空港から高速バスに乗って北へ。那覇から離れるにつれ、右手に深緑の山、左手に広い海が続いている。

およそ3時間で到着したのは、今帰仁村役場。

昨年建て替えられたばかりの館内は、横長に広がっていて、つみ木で遊べるスペースもある。

2階の会議室に案内してもらい、まずは教育委員会の学校教育課に所属する大城さんに話を聞く。時折見せる笑顔に場がなごむ。

大学で県外に出た後は地元に戻ると決めていて、就職と同時に村に帰ってきた。

「今帰仁村に住む人たちはほとんど農業で生活していて。ほかに仕事があんまりないんです」

「今、力を入れていることは子どもたちへのキャリア教育。村に愛着を持ってもらうと同時に将来のビジョンを考える力を身につけて、自立してほしいと思っています」

今帰仁村には小学校が3つと中学、高校が1つずつ。

「小中学生は村で農業を体験したり、地域内を自転車で散策したり、学校の先生たちがカリキュラムを組んで授業をおこなっています」

「『夢咲塾』でも地域の人と交流するゼミを開いていたんですけど、最近はコロナ禍で動けなかった。これからは夢咲塾ともしっかり連携していきたいと思っています」

小中学校の段階で、村のことや働くことについて学び、「将来こんなことをやってみたい!できそう!」という発見やきっかけを育む。高校では、それを実現するために必要な学力やキャリア教育をさらに伸ばす。

「『夢咲塾』に通う生徒には勉強のほかに、進路決めも広い視野を持って取り組んでほしいと思っているので、講師の方々にはそこもサポートしていただきたいと思っています」

まず大切にしたいことは子どもたちの未来。進学、就職などあらゆる選択肢をもってほしい。

ただ、郷土愛を育てることができれば、いつか帰ってきてくれるかもしれない。

郷土愛はどのように育てればいいのだろう。

すると大城さんは自然が教育の場であることの意義を話してくれた。

「学校に行くと、地域の子どもたちは積極的に意見を言ったり挨拶もしっかりしてくれる。運動会で校歌を歌うときはほんとうに声が大きくてびっくりします」

「ちょっと海に行ってきます」とか「キャンプしよう」とか遊び先が自然のなか。そこで育った子どもたちは素直でパワフルだ。

「何もないことが贅沢というか。ぼくも県外に出て、自然のなかで過ごす時間は特別って気がつきました」

 

次に向かったのは役場から車で5分ほどの場所にある県立北山高校。一階の地学教室で「夢咲塾」は開かれている。

全校生徒はおよそ300人。そのうち50人が塾の生徒で、毎日通っている生徒もいるそうだ。

「きっかけを膨らませて、将来につながる選択肢を広げる役割ができていたらいいなって」

そう話すのは、「夢咲塾」塾長の鈴木さん。愛知からやってきて3年目、今年度で退任することになる。

大学では国際教養を学んだものの、もともと興味があった教育に携わりたいと就職先を探していたときに公営塾の存在を知った。

「夢咲塾では、勉強のほかにゼミをおこなっていて、時間の使い方が自由なんです。そこに魅力を感じました」

ゼミはどんな活動をしているのでしょう。

「最近は性格診断をしました。普段、勉強をしている様子を見ていて、苦手な科目をやっているときって顔が暗いし、雰囲気も重いんですよね。得意なことを活かせる仕事ができたらもっと幸せになれるんじゃないかって」

「あと自己分析って就活のときにはじめることが多い。それでは遅い気がして、進路を決める前にやることが大切だと思うんです」

スマートフォンのアプリを使って性格診断を受け、自分について客観的に見る時間をつくった。さらに自分に合う勉強法も考えることができ、生徒の行動も変化した。

ある生徒は、自分は誰かに引っ張ってもらうほうがいいと気づいて、ほかの生徒に声をかけて教えてもらうようになった。教える側の生徒も、自分が得意なことが誰かの役に立つという自信につながった。

苦手なことは、思春期の生徒にとっては少し恥ずかしく感じることもあると思う。それを素直に受け止める夢咲塾の生徒たちは、きっと伸びるスピードも速い。

生徒たちは少しずつ自分たちで考えて行動するようになっていく。今年は生徒たちから声があがり、夏の勉強合宿のプログラムも変更になった。

「土地柄、台風で塾が休校になることもよくあるんです。勉強時間をしっかり確保したいと考えていて2泊3日で勉強合宿を開催しています」

昨年の勉強合宿では、観光の時間も設けた。けれど今年は生徒たちから提案があり、勉強のみで乗り切った。

いかに生徒から声をあげてもらうか。そのためにいろいろな工夫を積み重ねている。

「基本的に自学自習のスタイルなので、まずこちらから声をかけてほぐしていくことが大切ですね」

「たとえば塾の講師の今野さんは、生徒たちとの距離感がうまくて、よく生徒たちに囲まれておしゃべりしていますよ」

 

次に話を聞いたのは、塾で働き始めて2年目となる今野さん。

笑いながらハキハキと「たしかに友だちみたいになっているところありますね」と話す。

前職では、教育関係のパンフレットの制作やライティングをしていた。直接生徒に関わる仕事がしたいと転職を考え、見つけたのが「夢咲塾」だった。

「大学で保健体育の教員免許を取得したんです。ただ、教員になろうという気持ちにはなれなくて。得意な子、苦手な子がいるのに、それで成績をつけることが嫌だったんです。点数化できないこともあると思っているので」

「公営塾の講師は、保護者や学校の先生とは違う第三者の立場で関われるのがいいなと思っています」

それまで東京に住んでいた今野さん。沖縄に来ることにためらいはなかったのでしょうか。

「一切なかったですね(笑)。車で30分も行けば、名護のショッピングセンターもあるし村にもスーパーはあるので生活には困らないです」

「ここに来て感じるのは、生徒たちのバイタリティー。部活後の19時から塾の終了時間の21時半までがんばる生徒もいます」

夢咲塾のスタッフは、鈴木さんと今野さんの2人。平日のほか、この2人が来る前に、生徒たちからの声が上がり、はじまった日曜日の開塾。それぞれ分担しながら、生徒たちと向き合っている。

北山高校では、推薦入試を受ける生徒も多い。鈴木さんは教科対策を、今野さんは推薦入試対策をメインに指導している。

推薦入試に必要なことは、志望理由書や小論文、面接などの対策。

「最も難しいのは志望理由を考えること。行きたい学校は決まっていても、なぜそこに行きたいのか具体的に説明できないこともあるんです」

そこで今野さんはある課題を提案した。

「まずは、行きたい大学について調べること。アドミッションポリシーやカリキュラム、実習、ゼミなど、ワークシートを用意して、とことん調べてもらう時間をつくりました」

塾の時間内で生徒自身がインターネットで調べてみる。困っているときは一緒に話しながら考える。

「調べ終わったら、その中から気になるものベスト3を選んでもらって。その理由をさらに深く考えてもらいました」

「すると『この先生のこのゼミに入りたい!』とピンポイントで見つかったんですよね」

残りの高校生活も大学に入った後も夢に向かってモチベーションが続いていく。生徒たちが将来について自ら考えるきっかけをつくれる人がいいのかもしれない。

「先日『やってみたいことアンケート』を取ったらいろんな意見が出てきたんですが、今は人手が足りなくて」

鈴木さんが今年度で退任するものの、すでに一人内定している。さらにもう一人、採用することで、新しいことにもチャレンジしていきたい。

 

離れた土地で生徒と向き合う日々は、大人だって不安。

そんなときに一息つく場所。歴代の夢咲塾スタッフも通ったというバーに連れて行ってもらった。

中に入ると、流れるジャズとほろ酔いのお客さん。奥のカウンターからにっこりと挨拶をしてくれたのは「music bar ONDO」のマスター。

北山高校を卒業とともに県外で音楽活動をして、「観光目的でなく地域の憩いの場所をつくりたい」と村に帰ってきた。

「夢咲塾の講師たちからは、生徒たちへの思いがとても強く伝わる。ありがたいです。沖縄は学力も低いし、田舎になればなるほどそうなので。子どもたちも地元の人たちも外からの刺激はワクワクしていると思います」

「たまに塾に通っている生徒の親御さんも来てくれるから、一緒に話すのを見かけますね」

つい先日も鈴木さんと親御さんで一杯飲みながら生徒の様子を話すことがあった。その信頼から口コミが広まって、「うちの子も見てほしい」と希望する方も多い。

「SNSの投稿も見てるよ。いいよね。応援してます」と隣に座っていたお客さんが話の輪に入ってくれた。

「村では、外から来た人を何しに来たんだろうって警戒する人もいるんです。でも『夢咲塾の講師』っていうと安心してくれるんです」

 

校内には真っ黒に日焼けをして、「こんにちは!」と挨拶をしてくれる生徒と「また塾でね」と声をかける塾講師。

学校を出ると感じる潮風と「待っていたよ」と迎えてくれる村の憩いの場。

7年間、生徒たちへ向き合い続けた結果、村の人たちからも信頼される希望の場所になっています。

(2023/09/04 取材 大津恵理子)

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