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手と心で答えを探す
ものづくり

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「製品を売る我々が言うのはおかしいけど、ガラスって、つくっている途中が一番美しいんですよ。1400℃の熱で溶かしたガラスが少しずつ冷えて固まって、だんだん動かなくなっていく。その瞬間にあらわれる表情を、『これ、きれいでしょ』って見せるような気持ちでものをつくっています」

そう話すのは、菅原工芸硝子株式会社の代表、菅原裕輔さん。創業92年、今もハンドメイドでガラス製品をつくり続けている会社です。

「Sghr(スガハラ)」の通称で親しまれるガラス製品。その魅力を説明するのに、言葉は要りません。解説や専門的な知識がなくても、直感的に興味を惹きつけられる面白さがある。それは水や土の感触、自然の不思議にはじめて触れる子どもが抱くワクワク感にも似ています。

この器で何を飲もうか、どんな花を活けようか。

素直な好奇心と、生活を楽しむ気持ちを原動力にして、アイデアを形にしています。

今回は4つの職種でスタッフを募集します。都内の店舗で働くショップスタッフと、法人向けの営業職、さらに千葉の本社でガラスの原料加工や梱包・出荷に携わる仕事もあります。

手先の器用な人、コミュニケーションの得意な人、体力のある人。いろんな長所を活かせるポジションがあるのは、昔ながらの産業ならでは。しかも、それらが平等に大切な存在として評価される現場は、現代ではとても稀有なことなのかもしれません。

一足飛びに結果を出そうという焦りは禁物。ゆっくり、少しずつ、純粋にいいものを届けたいという意識が欠かせない仕事です。

 

菅原工芸硝子の本社を目指し、東京駅から電車を乗り継いで1時間と少し。千葉県の東金駅から、九十九里浜方面に向かう路線バスに乗り、のどかな田園風景の中を15分ほど走っていく。

木々など緑も多い敷地内には、工房や倉庫のほか、ショップやカフェも併設されている。

ショップを案内してくれた菊池さんは入社28年目のベテランスタッフ。

「働いているうちに出産で2回お休みして。今はその子どもたちとお酒が飲める歳になりました」

酒器やグラスなど冷たい飲み物を飲むための食器から、コーヒーカップ、プレートや花器、カップやアクセサリーまで、スガハラのショップには幅広い用途の製品が並ぶ。

「お客さまからは『何に使うものですか?』というご質問をいただくこともあります。耐熱温度など、基本的なことはお伝えしますが、お客さまにも自由に想像する楽しみを味わってもらいたいので、なるべく自分の意見を押し付けないように気をつけています」

普段の暮らしのなかで使うシーンを想像できるように、店内のディスプレイにも気を配る。

菊池さんはショップで働きはじめてから、普段テレビを見ているときも、セットや小物の使い方を観察する癖がついたという。

「私は接客が上手だという自信はないんですけど、それ以上にガラスの製品に触れているのが楽しくて。その気持ちが伝わればお客さんも楽しんでくれるんじゃないかと思って、仕事を続けています。好きっていう気持ちがあれば大丈夫だと思いますよ」

 

これまでスガハラが制作してきた製品は4000種類以上。そのほとんどは、職人さんがみずからデザインしている。紙に描いた企画ではなく、手を動かしながら形を決めるというのがスガハラのやり方。

「毎年、新商品をつくるのは大変でしょう、ってよく言われるんですけど、私が何も言わなくても、職人のほうからアイデアがどんどん出てくるんですよ。“暮らしのなかで使えるもの”ということ以外は、特に制約も設けていなくて、かなり自由に開発しているほうだと思います」

そう教えてくれたのは代表の菅原さん。

「職人が企画をするっていうと『市場をわかっていない』って思われがちだけど、ガラスが一番美しい表情を知っているのは職人だから。新商品が出てくるたびに、ああ、私たちらしいな、こういうやり方をしていて本当によかったなと思うんです」

製品作りに携わる職人さんは全部で29名。うち10名が女性で、20代から70代まで年代も幅広い。

「最年長は73歳の職人で、我々からすれば、なんでもできる技術を持っているように見えるけど、本人は全然満足していなくて。ガラスって本当に答えのないものだなと思います」

まだ何かある。そう思わせてくれる素材の魅力が、モチベーションになって新しい製品が生まれる。

一方で、菅原さんは“やりがい”に頼る働き方を変えていく必要性も感じているという。

「労働集約型の産業は、どうしても働く人のモチベーションに依存しがちなんですけど、それじゃいけない。2020年くらいから改善に取り組んで、一例ですが少なかった年間休日を今やっと115日まで増やすことができました」

「まだ理想には程遠いですけど、給与や休日も少しずつ改善して、製品に関わる全ての人が幸せに思える働き方に変えていかないと、商品を届ける相手に幸せな気持ちになってもらえないですよね」

また、ガラスを造形する職人だけでなく、原料加工や検品など、いわゆる縁の下の力持ちのようなポジションも、すべての工程を「ものづくり」として、当事者に誇りを持ってもらえる環境をつくりたいと菅原さんは言う。

「たとえば、箱を開けたときの荷姿ひとつでも、受け取る人の気持ちは変わりますよね。その視覚的な印象も含めて、私はスガハラの品質だと考えていて。お客さまからその部分を評価していただくことも多いです」

いくつもの工程を経て届けられる菅原のガラス。その出発点にあるのが、原料を溶かし、ガラスのタネをつくる釜炊きという仕事。

「るつぼには1400℃の火がついている状態で作業をするわけだから、大変な仕事だし目立たないけど、とっても重要な役割で。この工程がうまくいかないと、どんなに加工の技術があってもいい製品をつくれないんですよね」

釜炊きがうまくいくかどうかは、何が決め手なんですか?

「それがねえ、本当に答えがなくて。天然の原料なので常に一定に溶かせるわけではないし、なかなか難しいんですよ。作業自体は、未経験でもはじめられるけど奥が深い。そういう不思議さを追求する気持ちで取り組んでもらえるといいなと思っているんです」

 

ガラスの原料を溶かす釜は、一気に加熱や冷却することができず、一度火を落とすと復活させるのに4週間かかる。そのため、工房のるつぼは24時間365日、火を絶やすことができない。「釜の守り人」という呼び名はここからきている。

今は3人の職人さんが、夜勤を含め2交代のシフトで担っている。その最若手が入社8年目になる鈴木さん。

ものづくりの仕事をしてみたいという気持ちで飛び込んだ世界。釜の守り人としての仕事はどうですか?と尋ねると、「大変です」と即答。

「今はもう慣れちゃいましたけどね。重いものを持つことも多いので、腕の力とか腰の強い人のほうがいいと思います。一応作業のマニュアルみたいなものはあるので、入ってすぐに仕事を任されて、見ようみまねで、がむしゃらにやってきました」

体で覚えていくような。

「そうですね。感覚で覚えていく。あとは毎日、いかに同じ状態に乱れなくつくれるか。そういうルーティーンに入っている。釜炊きはガラスの製造の一番はじめの仕事なので、これができないと仕事が回らない。みんなの仕事をうまく回すための仕事だと思います」

「まあ、職人から直接褒められることは少ないけど、こうしてみんなの仕事が回っているのを見て、自分の仕事ができているんだなって思えるような感じです」

 

感謝や評価を言葉で伝えあわなくても、お互いに敬意を感じられるかどうか。

仲間の仕事に対して「やって当然」という気持ちが少しでも露わになれば、チームのバランスが崩れてしまう。ものづくりから販売まで、すべてを自社でやる環境ならなおさらだ。

特にそのことに注意を払っているのが、卸先との調整を担う営業職のポジション。

「一つの商品を届けるまでに、製造や生産管理、出荷梱包など、いろんな部署が関わります。自分から進捗を聞きにいくなど、コミュニケーションをとって、みんなが動きやすいようにセッティングしていくのが営業の役割だと思います」

そう話すのは、入社4年目の山﨑さん。

卸先は雑貨やインテリアショップ、百貨店、飲食店やホテル、ブライダル関係と業態もさまざま。数年前からはタイルなど建築資材としてのガラスの可能性を提案する部門も発足した。

菅原の営業職は、飛び込みの新規開拓はほぼないので、ガツガツ成果を求めるよりは、一人ひとりと丁寧にコミュニケーションがとれる人のほうが向いていると思う。

「スガハラの製品はハンドメイドなので個体差があって。手の表情とか、一つひとつの違いがあるほうがいいというお客さまもいれば、飲食店など容量に均一さを求められるケースもあります」

「相手が何を重視されているかを見極めて、メリットもデメリットもきちんと説明する姿勢が大事ですね」

また、業務には決まったマニュアルがなく、裁量も大きい。相手と円滑なコミュニケーションをとるために、どんな情報が必要か自分から考えて動けるほうがいい。

営業職のわりにクリエイティブなことを求められている気がする、という山﨑さん。以前の取材でも、商談からヒントを得てテーブルウェアの制作に携わった経験を話してくれた。

クライアントの隠れたニーズや声を制作の現場に届けるのも、営業の大きな役割のひとつ。

「できるかどうかはさておき、まずはアイデアを出してみる気持ちが大事だと思います。最初から一人でできなくても、自分から発信できれば、一緒に考えることはできるので」

そう話を継いでくれたのは、同じく営業の髙橋さん。

「以前ブライダルのお客さまから、何か体験型のギフトコンテンツがあるといいですね、っていうお声をいただいていて。うちは工場で制作体験もできるので、新郎新婦のおふたりでつくった作品をご両親にプレゼントするとか、いつかそういう企画も実現できたらいいなと思っています」

千葉の工房のほか、青山の店舗にもワークショップなどに使えるスペースが併設されている。製品をつくり届けるだけでなく、体験する場づくりも含めて考えていけるのはスガハラならでは。

どうすればガラスを楽しんでもらえるか。アイデアを生み出すためには、まず自分自身が楽しもうとする遊び心が大事なのだと思う。

頭で考えて「こうあるべき」というひとつの目標に向かっていくよりも、手の感触、視覚的な刺激、人の気持ちなど、一人ひとりの感じ方を手がかりに答えを探す。

それがスガハラのものづくりなのだと思います。

(2023/11/22 取材 高橋佑香子)

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