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子どもも大人も
自然のなかでは
人と人

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鶏小屋を覗き込み、「卵産んでるよ!」とうれしそうな子どもたち。

鮮やかな紫の手を「ツルムラサキだよ」と見せてくれる。

先生に呼びかけるときは、「◯◯ちゃん!」。

東京・東村山を拠点に、自然保育を行う空飛ぶ三輪車。

ここで日々飛び交う言葉たちは、ほかの保育園の当たり前とは、少し違います。

現在運営する2つの認証保育所に加え、来年春には3つ目の園もオープン予定。この新たな拠点を中心に働く保育スタッフを募集します。

保育士免許は持っていなくても大丈夫。未経験で入り、その後免許を取得して長く働いている先輩もたくさんいます。

子どもたちとフラットに関わる保育がしたい。自然のなかで仕事をしたい。

そんな想いに存分に応えられる環境だと思います。

 

秋晴れのなか向かったのは、東村山市野口町にある空飛ぶ三輪車。西武線の東村山駅から歩いて15分ほどの場所にある。

東村山は、西東京のベッドタウン。新宿や池袋まで30分ほどの住宅街でありながら、自然との距離も近い。

園に到着すると、時刻は午前10時。そろそろ外に出かける時間みたい。

歩きだったり、バスだったり。年齢や体調に合わせ、何組かに分かれて出かけていく。

保育園のお散歩はよく見る光景だけれど、空飛ぶ三輪車では、大きいクラスの子どもたちは毎日何時間も出かけっぱなしだそう。

どこへ行くんだろう?

バスのあとを車で追いかける。到着したのは、となりのトトロの舞台でもある「八国山緑地」。

近くには大きな病院もある。サツキとメイのお母さんがいた病院のモデルかな?

今日一日案内してくれるのは、働いて6年になる好葉(このは)さん。新しく園ができたら、そちらの運営メンバーとなる予定。

好葉さんを見るやいなや「このぴー!」と大喜びの子どもたち。

空飛ぶ三輪車では、保育士を「先生」と呼ぶことはなく、子どもたちから「◯◯ちゃん」「◯◯さん」やニックネームで呼ばれている。ちなみにスタッフ同士も、年齢や職歴に関わらず「ちゃん付け」で呼び合っている。

「一人の人として関わりたいんです。教えてあげようとか、やらせてあげようとかではなく、自ら『やりたい』と思えるような環境を用意する。そこで私たちも全力で楽しむことで、子どもたちは自分から何かを掴み取っていくんです」

「野山のなかで、何かの実を見つけて、『いいもの見つけたよー!』って教えてくれるときのあの表情。働いて何年経っても、幸せだなって思いますよね」

山から歩いて5分くらいのところには、空飛ぶ三輪車の畑もある。

行ってみると、秋津町にあるもうひとつの保育所の子どもたちがホウレンソウの種をまくところ。

「ひとつの丸に4粒ずつ入れてくださーい」

穴を開け、種を蒔き、やさしく土を被せていく。

「これって白菜の葉っぱかなあ」

種まきのあと、小さな野菜の苗を見て、そんな会話をしている4歳の男の子ふたり。

この年齢の子から自然にそんな話が出てくることに、ちょっと驚く。

すると、「ハヤトウリだー!!」と、畑の反対側から賑やかな声。

ハヤトウリ、食べたことがない野菜だ。大人のわたしよりも、ここの子どもたちのほうがいろんなことを知っているなあ。

「もともとは、全然保育士になるつもりはなかったんですよ」と好葉さん。

幼いころから自然が好きで、中高は里山に近い立地の学校へ進学。休み時間に気軽に焚き火をするような環境だった。

自身の経験を公教育に取り入れたいと、大学では教育学を専攻するも、既存の枠組みを変えることのむずかしさを知る。

まず現場から挑戦してみたい。そう思って空飛ぶ三輪車に飛び込んだ。その後保育士免許も取得し、今は保育の中心メンバーのひとりとなっている。

「今って、人の暮らす場所が自然と切り離されちゃっているけれど、幼児期にこそ経験してほしいことが、自然のなかにはたくさんあると思っていて」

「1泊2日でキャンプに行くとか非日常の体験とは違って、子どもたちに蓄えられてほしいのは、日常のなかにある自然との関わりなんです」

畑、田んぼ、野山。暮らしのなかに自然があって、日々の変化を体で感じること。

どの木にどんな実がなるか知っていること。どれくらいの大きさや色になったら食べごろかわかること。

空飛ぶ三輪車の子どもたちにとっては、そんな自然との関わりが日常になっている。

「自分が生きている場所を知ると、この世界にあるものと自分が、ちゃんとつながっている感覚を持てる。自分は一人じゃないってわかると思うんです」

ただの情報としてではなく、手触りまで知っている。そんな体験の積み重ねが、その子の軸をつくっていく。

「自分が人であること、私が私であることの喜びにつながるだろうし。そうやって物事と関わっていたら、相手が相手であることも心から受け入れて、わかってあげられる人になるんじゃないかなって」

自然のなかで保育を行う園は、全国にたくさんある。けれど、これを東京都内でやっていることに意味があると話す好葉さん。

都心部よりも自然との距離は近い東村山。とはいえ、毎日のようにバスに乗って出かけることも、準備と引率をすることも、園のなかで過ごす保育よりよっぽど手間とリスクが伴うこと。

「そこまでして、子どもたちに経験してほしいことがある。私たちがこれを続けていること自体が、自然保育の大切さを伝えるメッセージになると思っています」

「自分たちの園だけで終わっていいとは思っていなくて。いろんな子どもたちが、同じような経験をできるようになってほしいんです」

 

存分に遊んで、時刻は昼過ぎ。

お腹ぺこぺこの子どもたちと一緒に、今度は秋津の保育所へ。

お昼ご飯のメインはうどん。メニューには、さっき見たハヤトウリや畑で採れたツルムラサキもある。

自分たちが育てたものを食べる日常。

「こういう機会がどんどん失われているんですよ」

静かなお昼寝の時間。園庭に出てそう話してくれたのは、全体の運営の中核を担っている、麻衣さん。

1981年に空飛ぶ三輪車を立ち上げたのは、麻衣さんのお父さんで、自身はここの一期生だそう。

機会が失われているとは、どういうことか。

たとえば、空飛ぶ三輪車では、毎年蚕(かいこ)を育てるのが恒例になっている。

「米粒より小さい卵から一つずつ大事に育てて、桑の葉を毎日あげていくと、新幹線のような形の蚕になる。その蚕がある日、繭(まゆ)をつくりはじめる」

「繭になったところで、糸をとるためにお湯の中で煮るんです。人間の手で茹でてしまうことにショックを受ける子もいるのですが、そのあと糸をとって、その過程を身をもって知っていくんです」

見せてくれたのは、園で育てた蚕の繭を引き伸ばしたもの。

「もちろん蚕はどこでも行われていたわけではないのですが、昔は生活のなかにあったたくさんのことが、工場で行われるようになってしまった。必要なものをつくる技術がどんどん人の手から離れていってしまって、みんなやり方がわからないから、買ってくるしかない世界になってきていると思うんです」

夏には川へ出向くこともある。水のなかには生き物が棲んでいること、お店で売られている魚も元は自由に海を泳いでいたことを、子どもたちには知ってほしい。

「野山には虫が生きていることも、川には魚やザリガニがいることも。勉強して知識を得る前に、体験として持っておくことができる。それってすごく大事だと思うんです」

「生活のなかに生き物がいるって必要なことだと思っていて。うちの鶏小屋は道路に面したところにあるから、違う保育園の子どもたちがお散歩中に立ち止まるんです。少しでも、地域の子どもたちにも感じてほしいなって」

さまざまな制約から、どうしても空飛ぶ三輪車のような保育を実施できない園も多い。

だから、新しくできる3つめの園は、これまで以上に地域にひらいていきたい、と話す麻衣さん。

場所は、朝訪れた野口の保育所の向かいに建築中で、木造の2階建て。

野口で学童として小学生も受け入れはじめているように、保育以外での地域との接点をもっと増やしたい。

赤ちゃんを育てる親御さんや、お年寄りも立ち寄れたり。ふたつの園の特長を活かしあいながら、三輪車全体でいろんな機能を持つコミュニティの拠点を目指していく。

どんな人と一緒に、場をつくっていきたいですか?

「一般的な保育を型通りにやりたいって考えの人だと、きっとうちは苦しくなっちゃうと思う。言われなくても勝手につくり出す、何が大事か自分で考える、そういう人のほうが水も合うなって」

「とくにこれからは、三輪車全体が人と人とをつなぐ拠点になったらいいなと思っているので、自分で考えて動ける人がいないとまわりません。今の子どもたちって、20年先に社会をつくっていく世代。そういう力を持った子をどう育てるのか、みんなで議論できるようになっていったらいいなと思います」

 

一緒に話を聞いたのは、美里さん。秋津保育所で、主に0歳児を担当している。

「正直、わたし別に畑は得意じゃないんですよ。でも、そういう人も働いていて楽しいって思えるから安心してほしいです」

そう話す美里さんは、6年前、地元の鹿児島から転職を機に移住。

鹿児島でも保育士として、自然のなかでの保育を行う園で働いていたそう。転職活動中に空飛ぶ三輪車に興味を持ち、見学を経て働きはじめた。

「わざわざ東京まで来るって、すごいですよね。今だったら考えられないです(笑)。最初は言葉の違いに馴染めなくて、全然自分を出せなかったんですけど、今は自由にやりたいことができるようになって。毎日めっちゃ楽しいなって思います」

空飛ぶ三輪車は、いわゆる認可外の保育園。子どもたちを時間で縛らないという方針だから、比較的柔軟にその日の予定を組むことができる。

松ぼっくりが落ちていたからあの道に行こう。今日は風邪気味の子が多いから近場にしよう。子どもたち、そして自分たちのコンディションも考えて、毎朝その日の動きを決めている。

「子どもと保育士っていうよりも、子どもと大人。なんか対等っていうか、どっちの気持ちも尊重していいのがありがたいですね」

あまり遠出ができない小さな子どもたちは、近所を散歩する機会が多い。そのぶん、地域の人たちと顔見知りになることも多いそう。

「田舎育ちだから、距離感が近いんです、わたし。誰にでも話しかけちゃう。親子連れとか見たら声かけるようにしてるし、意識的に地域とつながるようにしていて」

「よく散歩に行く歩道の近くに畑があるんですけど、いっつも声かけてくださるおばちゃんがいて。物々交換っていうか、畑で採れたものをくださるんですよ。この前はお礼に、園の木になった柿を持っていきました」

新しい園ができたら、そちらに移る予定の美里さん。地域にひらけた場所にするために、その力を期待されている。

空飛ぶ三輪車で過ごした半日。

会う人会う人に、わたしのことを丁寧に紹介してくれたみなさん。何人かのスタッフさんは「日本仕事百貨を見て働きはじめたんです」とわざわざ声をかけてくれました。

子どもも大人も、みんながオープンで、懐が深い。ここで過ごしたたった数時間でも、自分の価値観が少し変わったように感じました。

この空気が地域にひらかれることで、まちにもきっといい変化が起きていくだろうなと思います。

(2023/11/9取材、2024/2/15取材 増田早紀)

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