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つくる、つなぐ、手の仕事
海辺のまち
桜並木のガラス工場で

「初めて工場へ来たときに見た光景というか、職人さんたちの無駄のない動きが本当にかっこよくて。自分も最初は職人志望だったのですが、こんなにかっこいい人たちがいるなら、別に自分が職人にならなくてもいいと思ってしまいました」

「むしろ、この人たちをサポートする仕事のほうが、燃えるなっていう気がして」

そう話すのは、「Sghr」の通称で知られるガラスメーカー、菅原工芸硝子株式会社で働く舘林(たてばやし)さん。製造や営業など、各部署をつなぐ生産管理の仕事を中心に担っています。

一つひとつ人の手で生み出されるSghrの製品には、機械生産とは異なる魅力がある。

儚さ、柔らかさ、のびやかさ、光と影のゆらぎ。職人さんたちが切り取るガラスの表情は、見る人の気持ちを捉え、その製品がある暮らしの風景を想像させます。

一方で、自然の素材ゆえに規格を揃えて量産するのは難しく、製造の過程で正規品にならないものも出てくる。それらを活かす場をつくるのも、生産管理の仕事の一部。正規品として出荷できない「2nd Quality」の製品を販売するイベント運営も、舘林さんたちが担当しています。

今回は同じように、日々の生産管理とイベントを、2本柱で担当する人を募集します。製品ができる過程に携わりながら、その価値を余すことなく届ける。いうなれば、Sghrのものづくりの真ん中にいて、つくり手と、伝え手、使い手をつなぐ仕事です。

社内では、これまでもさまざまな団体やクリエイターと協働してイベントを行なった実績もあり、ノウハウも蓄積されています。今後は、地元九十九里の食や農業などにも目を向け、新しいつながりも広げていく予定。

ガラスはもちろん、ものづくりに広く興味を持てる人なら、時間をかけて向き合える仕事だと思います。

 

菅原工芸硝子株式会社の本社は、千葉・九十九里町にある。車なら都心から1時間ほど。夏になると弓形の海岸線が美しい浜辺に多くの人が訪れる。

電車はJR東金駅が最寄りで、そこから路線バスも出ている。10月とは思えない暑さの日、バスの車窓からはまだ青い田んぼも見えた。

本社の敷地は広く、工場や倉庫のほか一般の人が訪れるショップやカフェもある。

10月半ばには、この場所にさまざまなジャンルのクリエイターが集まり「くらしずく」という大規模なクラフトマーケットが行われるらしい。

事務所の2階で迎えてくれた代表の菅原さんに、その話を聞いてみた。

「今年はガラスのかけらを使って、絵や文字を描くワークショップもやります。以前からコラボレーションをしているグラフィックデザイナーの大原大次郎さんのアイデアでね」

ガラスのかけらですか。

「もちろん、そのままだと鋭利で危ないから、ミキサーにかけて角を取るんです。海辺に落ちているシーグラスを、人工的につくり出す感じですね」

新しいアイデアについて話しているときの菅原さんは、いつもすごく楽しそう。

Sghrのものづくりも、そんなふうに素直におもしろいと感じる気持ちを頼りに続けられてきた。1400度の熱でドロドロに溶けたガラスが、固まる前に見せる一瞬の美しさを、みんなに見せたい! その気持ちが新しい製品を生み出す原動力になっている。

「くらしずく」というイベントも、つくり手の思いを伝える場として生まれた。60を超えるマーケットブースでは、クリエイターたちが直接お客さんとコミュニケーションをしながら、ものを届けていく。

「品質やデザインはもちろんですが、ものが生まれる背景や、つくり手の思いを知ることで、さらに愛着が生まれる。早さや安さよりも、思い入れのあるものを使う暮らしに価値を感じる。そんな使い手との出会いは、我々の仕事の生命線でもあります」

2017年に始まった「くらしずく」はコロナ禍で一時中断しながらも、今年で6回目。

当初は自分たちで声をかけて集めた出展者も、今は北海道から沖縄まで幅広い地域から応募が来るようになった。

会場には、地元千葉県の食材を活かしたフードやスイーツのお店も出る。「くらしずく」をはじめてから、地域のつくり手との接点も増えたという。

「今まではあえて地域を問わず、志を同じくする方とのコラボレーションを続けてきたんですが、イベントを通して、自分たちのすぐそばにもいいものがたくさんあるということに気づかされました」

「潮風で育てられた野菜は本当に味が濃くて美味しいし、特産のピーナッツバターを全国へ発信している人もいる。最近は、東京などから移住して、新しい事業をはじめようとする人も増えています。もっと、この地域にあるいいものを発掘しながら新しいムーブメントをつくっていきたいですね」

もともと菅原工芸硝子は昭和9年に東京・墨田区で創業。より広く環境のよい土地を求めて移転することになったのが昭和36年のこと。

それで、なぜ九十九里に?

「本当にひょんなことでね。当時の社長だった私の祖父が、たまたまプライベートでお花見に来て、気に入ったらしくて。敷地内に桜の木がたくさん植えてあるのも、そういう理由です」

縁あって根を下ろしたこの町の人にも何か貢献できる事業をと、お祖父さんは工場に隣接する土地に自動車教習所を併設した。

移転から60年余り。九十九里町は今、人口減少により過疎地域に指定されている。家業を受け継いだ菅原さんも、地域のことを切実に考えるようになった。

「アイデアはいろいろあるけど、日常業務と合わせて新しいことをやるには限界もある。イベントの準備や運営、ゆくゆくは企画も一緒にやっていただけるような方がいるといいなと思って、今回新しくメンバーを迎えることにしました」

この会社らしい地域の魅力発信って、どんなものだろう。ものづくりの楽しさを知っている人たちだから、伝えられるよさもあるはず。

まずは自分の目でものづくりの現場を見て、それらがどうやって使い手のもとに届いていくか実感しながら、つながり方を考えていく。

「たとえば、2nd Qualityやリサイクルガラスの製品を売るときも、単にアウトレットセールっていうんじゃなくて、ものを大事にする啓蒙活動としての意義を大事にしてほしい。そういう願いもあって、新たに入る人には、生産管理とセットで仕事を覚えてもらおうと思っています」

 

今、実際に生産管理をしながらイベント運営などにも携わっているのが、冒頭でも紹介した舘林さん。入社して3年目になる。

「生産管理は、“調整役”だと思います。ひとつの製品が出荷されるまでには、いろんな工程があります。いつまでにどの作業を終えなければいけないか、納期から逆算して考えて、現場の進捗を管理しています」

ガラスのタネをつくる人、吹く人、その後の加工をする人、検品箱詰めをして出荷する人、客先に届ける人。

いろんな部署をつなぎながら、ものづくりの進行を支えている。

「自然の素材を人の手で加工してつくるので、予想外のことも多くて。職人さんの体調不良だったり、ガラスのタネの調子が悪かったり。ものができても、箱が納品されていなくて出荷できないとか、いろんな種類のアクシデントがあります。だからこそ、事前準備が大事です」

仕事の基本は「聞く」姿勢。

何にどのくらい時間がかかるかという情報なども、経験の長い職人さんから教えてもらうことのほうが多いという。

舘林さんの席は、ガラスを加工する現場のすぐ脇の部屋にあるものの、日々の仕事はデスクワーク半分、体を動かす仕事が半分という感じ。

「敷地内を歩きまわる仕事が多いです。夏の暑い日はちょっと大変ですね」

以前は都内でバーテンダーをしていた舘林さん。ここで働きはじめてから、健康に気をつかうようになった。朝はまだちょっと苦手だという。

入社して早々、フォークリフトの操作も覚えた。社内に資格を持つ先輩がいるので、未経験でも指導を受ければ乗ることができる。

「バーテンダーは、グラスを持ってもせいぜい4〜5個ですが、今では48個入りのカートンを持ち上げています(笑)」

週末には、墨田区で開かれるガラス市のイベントにも参加する。製品や什器など、トラックにはすでにたくさんの荷物が積み込まれていた。

「自分でイベントに出て、お客さんに製品の説明をしていると、あらためて自分が関わっているものづくりに誇りが持てるというか。社会でどういう役割をしているか客観的に感じられる。この仕事をやっていてよかったなと思う瞬間でもありますね」

 

一緒にイベントを担当している大木(おおぎ)さんは、入社して20年近くのベテラン。「優しくて話しやすい先輩です」と紹介があったとおり、とても物腰の柔らかい方だ。

「イベントではカタログに載っていない製品も扱うので、在庫管理がなかなか難しいです。今は、経験で感覚的にやっているところもあるんですが、もっと日ごろから几帳面に管理ができるといいですね」

イベントに出品するものの種類や、数量、単価を決めたり、その実績をリストにまとめたり。数が揃わないアイテムの代替を何にするかなど、いろんな人と相談しながら準備を進めていく。

一人でできる仕事ではないので、まずは素直に、基本を大切に。まわりと連携しながら進めていく気持ちがあるといい。

「この職場は、先輩がみんな気にかけて声をかけてくれます。仕事の話だけじゃなくて、ちょっと息抜きの雑談も含めて。だから、自分も馴染むのに時間はかからなかったですね。まわりの人に恵まれていたと思います」

「何事も根を詰めると、疲労も溜まるしミスも増える。集中と息抜き、メリハリをつけることが、仕事を長く続けるコツなんじゃないですかね」

大木さんは今、自分よりさらにベテランの職人さんと一緒に、ガラスを成形するための型をつくる仕事をしている。

長く続けることで、技術の向上を実感できるのもこの仕事のいいところだという。

「自分がつくった型で製品ができると、自分の子どもが生まれたような感覚になりますね。ああ、できあがったなって」

製品ができあがるのは、決して当たり前じゃない。

日々、その苦労を間近に見るからこそ、伝えられる思いがある。

毎年、本社の敷地に並んだ桜が葉を茂らせるころには、試行錯誤の証でもある2nd Qualityの製品を届けるイベント「Sghrフェスティバル」も開かれます。

ものと暮らしの豊かな関係に目を向けられる人なら、いい「つなぎ手」として携われる仕事だと思います。

(2024/10/4取材 高橋佑香子)

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