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エゾマツのお弁当箱に入った、江戸から続く“濃ゆい”味。
日本橋弁松総本店は、現存するお弁当屋さんとして最も古い歴史をもっています。
ごぼう、レンコン、人参、しいたけの甘煮(うまに)。出汁が効いた甘い玉子焼きに、めかじきの照り焼き。そこにピリリとした生姜の辛煮が入っている。
材料はシンプルだけれど、初めて食べる人にとっては、その濃ゆい味に驚くかもしれません。

今回は、そんなお弁当の販売スタッフを募集します。主に三越、伊勢丹、大丸など、東京都内のデパートでの勤務になります。
商業施設に入っているため定休は少ないものの、スタッフの有給休暇の消化率は100%。なかには勤続40年以上という人も。
歴史も深いため、親・子・孫と世代を超えたファンも多くいます。
人と話す仕事が好きで長く働けられる環境を求めている人、子育てがひと段落して接客業に復帰したい人には、ぴったりの環境だと思います。
東京・日本橋。
弁松のお弁当は江東区・永代の工場でつくられ、都内5つの直営店に配達される。
まずは、日本橋にある本店に向かうことに。
三越前駅のA1出口から徒歩5分ほど。大通りから一本路地に入ると、オフィスも多くスーツ姿のサラリーマンとすれ違う。
落ち着いた色合いの瓦と暖簾の店構えに「弁松総本店」の文字を見つけた。

「暑いなかありがとうございます」
入り口近くで待っていてくれたのは、八代目の樋口さん。
日本橋の老舗ということもあり少し緊張していたものの、穏やかな口調と柔らかい笑みにほっとする。2階の応接室に案内してもらい話を聞く。

「この建物は、創業当時とほぼ同じ場所にあるんです」
今年で175年目を迎える弁松。
1810年、日本橋の魚河岸にあった「樋口屋」という食堂からはじまる。当時はボリュームのある定食で知られていたそう。
「お客さんの大半は魚河岸で働く人たち。冷蔵庫もない時代だったので、早朝に仕入れた魚をお昼までには売ってしまわないと傷んでしまう。だから5分で食べて仕事に戻ったり、残してしまう人もいて。基本的に時間がないんですよね」
「それを見た初代が、余ったものを竹の皮や経木にくるんで持ち帰れるようにしたところ、非常に好評で。そのうちお客さんから、最初から全部お持ち帰りでつくってほしいとリクエストが出て、テイクアウト販売を始めたことがルーツなんです」

嘉永3年、3代目の松次郎さんの代で食堂の暖簾をおろし、弁当屋1本に。「弁当屋の松次郎」と呼ばれていたことから「弁松」という名前が付けられた。
そこから関東大震災や東京大空襲など、歴史的な困難も乗り越え175年。
弁松のお弁当の大きな特徴は、醤油と砂糖で煮込まれた濃ゆい味。冷蔵庫のなかった時代に長持ちするように付けられた味は、今も当時とほとんど変わらず受け継がれている。
添加物はほぼ使用していないため、当日売るものを早朝から職人が毎日つくっている。

「お弁当は、1日1000個ほどつくっていて。コロナ禍で売れる数が一時的に減った時期もありましたが、代々買い続けてくださるコアなファンのおかげで、販売数は安定しています」
樋口さんは、25歳で代表に就任し、職人としても毎日お弁当をつくり続けてきた。最近は工場の若い職人たちも成長し、基本的に現場は任せているという。
「お弁当は食べればなくなってしまうので、伝統工芸とか形が残るものに少しうらやましさもある。けれど、販売の回転が早いところは、お弁当の良さで。たとえば、高級なものを一度購入すると買い替えることはほとんどないですよね。お弁当は月に10回購入してもらうこともある。何度も足を運んでくださる常連さんが多いのは、ありがたいことです」
「弁松は日本で最古のお弁当屋で、絶対にほかにない。この家に生まれたからには、歴史を積み重ねていくしかないし、だからこそできることがあると思っています」
弁松の販売スタッフには、子育て中の方もいれば、定年を超えても働き続ける人も。女性が多いものの、男性スタッフも働いている。
次に話を聞いたのは、日本橋三越店・店長の畑(はた)さん。パートスタッフから勤務して23年目。6年ほど前からこの店舗の店長として働いている。

新しく入社する人は、まずは販売数が一番大きい日本橋三越店で基礎を身につけ、ゆくゆくはほかの直営店でも対応していくことになる。
現在、日本橋三越店にはパートスタッフを合わせて6名が働き、1日3名ほどで回している。
「弁松は長く働かれる方が多いお店ですね。今はちょうど熟練の方が卒業されたのもあり、正直、手いっぱいなところもあって。あと一人でも新しい方が来てくれるだけで、とても助かります」
日本橋三越店の1日は、朝の8時半から始まる。
まずは、工場から運んでもらったお弁当を陳列するところから。10時の開店に合わせて、お惣菜として販売する煮物の詰め合わせを大小分けてパック詰め。開店後は接客と電話予約の対応、お惣菜の売れ具合を見ながら再びパック詰め、という流れを繰り返す。

取材したこの日は平日の夕方前。夕飯の買い出しのお客さんで、デパートの地下フロアはにぎわっている。
弁松にも、次々にお客さんが並ぶ。
「こんにちは、予約した〇〇です」、「いつもの並六の白3つ」、「今日もいそがしそうですね」など、慣れた注文の仕方や雑談をしていることから、常連さんも多いのが伝わってくる。
スタッフは、一人が接客し、レジ担当へ注文を伝えながらお弁当を小袋に包む。お客さんがお会計をしている間に、もう一人は商品を紙袋へ。お会計が終わるころには、受け渡しができる状態にスタンバイ。
見事な3者連携プレーで、お弁当が次々に売れていく。

でもたしかに、混雑中に電話注文などがあれば、一気に立て込みそう。あと一人でも売り場に加われば、接客に余裕が生まれそうだ。
「土日限定で、『玉子の切り落とし』というお弁当では使えない玉子焼きの端っこの詰め合わせを販売しています。人気なので、週末はとくに混み合うんです」
「年間でいそがしいのは、年末と夏の神田祭の時期。年末はおせちの予約が300件ほど入るので、その受け渡しに特別ブースを設けたり。神田祭のときは300個くらいの大型注文が5、6件入って、車への運び込みや配達作業もあるので体力は必要ですね」
新しく入る人はまず、お弁当の陳列から。その後、お惣菜詰めとレジを順番に身につける。定番の「並六」や季節ごとに変わる混ぜご飯など、常時10種類ほどのお弁当と、お惣菜についても説明できるように覚えていく。
一方で、商品数も作業の流れも決まっているため一度身についてしまえば、スムーズに進めることができる。

弁松で働き続けて23年経つ畑さん。一度もほかの仕事に就こうとは思わなかったという。
「食べること、お客さまとお話することが好きなんですよね」
「常連のお客さまが多いので、いそがしくなければ、長い時間立ち話することもありますよ。印象深いのは、毎週土曜にお孫さんと来られる方。ご家族のことや身の丈話とか、自分自身と共通するものもあって会話が弾むんです」
お客さんとの会話を楽しんだり、どれだけスムーズに商品をお渡しできたかで喜べたり。日々の仕事のなかに、自分なりの楽しみを見つけられる人があっていると思う。
長い歴史と顔馴染みのスタッフが提供する安心感もあり、クレームも少ないという。
畑さんは、どんな人に来てほしいですか?
「せっかくなら長く働いてほしいし、そうできる環境なので。これから長く腰を据えて働きたい人にはいいかもしれません。ほかの店舗のスタッフとも連携しているので、お休みも気軽に取りやすいですよ」
「私たちはもうベテランなので、失敗しても後は任せてもらえれば大丈夫です。段階的に少しずつ覚えてもらえるといいと思いますよ。お客さんやスタッフとの関係を大切に、笑顔が素敵な人が来てくれたらうれしいですね」
最後に話を聞いたのは、入社10年目、副店長の伊藤さん。子育てをしながら働いている。
前職はアパレル店員として7年間勤務。より良い条件の職場へ転職を考えていたところ弁松の求人を見つけた。

「自分にできることといえば接客。たまたま日本仕事百貨の記事で、弁松の求人を見つけて。自宅から通いやすく、日本橋のデパートで働くことにも憧れがあったので応募しました」
入社していかがでしたか?
「前職では店頭でマネキンを着せ替えたりして、お店に入りやすい空気をつくることも仕事でした。でも弁松では、お弁当を目掛けてお客さまのほうから自然に来てくださる。はじめは感動しました」
「初めてのお客さまが選ぶことに迷っていそうだったら、声をかけたり。その空気を察してお声がけする力は、前職で身についたことかもしれません」

接客は前職の経験もあり馴染みやすかった一方で、弁松ならではの販売文化には戸惑ったという伊藤さん。
「たとえば、お寺さんから毎年お盆前に注文が入るんです。毎年ご注文いただいているので、電話で名前と数量だけ伝えてあっさりと終わってしまうこともあって。紙袋やかまぼこの色まで、仏事用と慶事用で違う。戸惑うこともありましたが、メモをとったり、前のめりに店長や先輩に聞いたりしながら覚えていきました」
ほかにも、煮物を詰めるときのお惣菜の向きや、小袋の包み方、紙袋を二重にすることなど。細かな決まりや工夫があるという。
「はじめは覚えることが大変でしたが、だんだんと常連さんの顔を見たり、名前を聞いたりするだけで、パッとお弁当の種類が思い浮かぶようになりますよ」
決まったことをコツコツと積み重ねることや、チームプレーが得意な人にはぴったりだ思う。
「日本橋のお客さまはご年配の方が多くて、話すペースも比較的ゆったり。最初は緊張したけれど、名前で呼んでくださったり、どこから来たのって聞いてくださったり。気さくに声をかけていただくことが多いのも働きやすさのひとつです」

畑さんも伊藤さんも入社してから、初めて弁松のお弁当を食べたんだそう。
「はじめは慣れない味、でも今はかぼちゃの煮物が好き」、「毎日食べたいくらい好き」とそれぞれの感想が出てくる。
老舗らしく踏襲されてきた文化もあるけれど、それに縛られるのではなく、楽しみながら働いている様子が印象的でした。
まずはお店に足を運んで、お弁当を食べてみてください。弁松の味をどう感じたか、もし誰かに伝えたくなったら、今度はその想いを、お店に立って届けてみてください。
(2025/07/04 取材 大津恵理子)


