地方創生、まちおこし、観光、地域に根ざした宿。
こうしたテーマに興味はあるものの、動き出せずにモヤモヤしている。
そんな人のための、学び舎がはじまります。

群馬県の山奥にある温泉街、四万(しま)温泉。ここで宿泊施設を軸に、さまざまな事業を展開しているのが、株式会社エスアールケイです。
グランピング施設、ハンバーガー専門店、雄大な自然を望むカフェギャラリーなど。自由な発想で、歴史ある温泉街に新たな景色を生んでいます。
しかも、経営が立ち行かなくなった旅館を、借金も含めて買い取って再生。すべての施設が黒字化しているそうです。
その仕掛け人である関さんが、新たに始めるのが「SRK志学舎」。
3年間、エスアールケイが運営する宿泊施設で働きながら、月に3〜4回、経営や地方創生を学びます。
大切にしているのは、現場での実践。修了後は独立や、エスアールケイで新事業に取り組むこともできます。
将来何かやりたいけど、一歩踏み出せずにいる。そんな人に知ってほしい場所です。
東京・上野駅から特急に乗り、2時間ほどで中之条駅へ。バスに乗り換え、山道を登ること30分。四万温泉の入り口にやってきた。
平日の朝から、若者や外国人の旅行客で賑わっている。

スタッフの方に迎えにきてもらい、さらに進むこと10分。
エスアールケイが運営する「叶 KANOUYA 四万温泉」に到着した。

全8室の温泉露天風呂つきの宿で、四万川に沿って建てられている。大きな窓からは、自然豊かな景色と川を眺めることができ、気持ちいい。
しばらくしてから、代表の関さんが到着。さっそく話を聞く。

「最近は、温泉街の入り口に1億円を投資して、蕎麦屋やギャラリーを建てました。いまは旅館が忙しくて手をつけられていなくて。何を仕掛けていくか、新しく入る人と一緒に考えたいです」
昔からアイデアが浮かぶタイプだった関さん。作家を目指して、大学では文学部に進学する。
「入ってみてわかったのですが、文字を書くのは苦手でしたね(笑)それより思いついたことを話すのが楽しくて」
勉強もそこそこにアルバイトに没頭。餃子を販売する仕事で、商売の楽しさを知る。
「スーパーでは白い袋に入って300円、百貨店では立派な箱に入って1000円。中身は同じでも、『私ここしか食べないのよ』とお客さまが買ってくれる。言葉遣いや売り方が変われば、3倍以上の値段で売れることを学びました」
就職活動では大手を受けるも上手くいかず、小規模の旅行代理店に就職する。
「話が得意だったので営業ができて。3年目で仙台支店長を任せてもらいました。売れる商品づくりから、人件費などのコスト管理まで。どうすれば利益が出せるか、とにかく実践の日々でしたね」
30歳のとき、経営難に陥っていた家業の旅館「つるや」を立て直すために四万に戻る。
当時、部屋には鍵も内線もなくぼろぼろの状態だった。
露天風呂でカモシカが見えたことから「鹿覗きの湯」と名づけたり、湯治を楽しめるようチェックアウトを遅い時間にしたり。知恵を絞ってリブランディングに取り組む。
積み重ねが実を結び、つるやの年商は30倍に。周囲からは「奇跡の旅館」と呼ばれるようになった。

その後も、サウナやBBQを楽しめるグランピング施設、日本3位に輝いたハンバーガー専門店、毎日手打ちでつくる蕎麦屋など。既存の枠組みにとらわれない、自由な発想で施設をつくってきた。
「どの施設も、最初から上手くいくことはなくて。打ち手を考え、とにかく試す。その積み重ねで利益は上がっていくんです」
過去には東京でおにぎり屋を出店。2000万円かけてお店をつくり、2年運営した末に撤退した経験もある。
「勝機はありました。でも、自分がアイデアを出すだけではダメで。一緒に事業を進める仲間がいなければ続かないと気づいたんです」

そんな関さんが、新たに「SRK志学舎」を始める。
「講座自体はこれまでも社内で開催していたんです。正式に打ち出すことで、四万を若者が志を持って学べる場所にしようと」
「これからの観光や地方創生を担う人が育つ場所にしたい。明治維新の担い手を輩出した松下村塾のような。そのためには実践の場が必須になる。経営は知識だけでは上手くいきませんから」
実践を重要視しているのは、どうしてでしょうか。
「有名な経営者でも失敗するじゃないですか。いくら知識があって頭で考えても、最後はやってみないとわからない。どんどん失敗して経験を積んでもらいたいんです」

SRK志学舎で学べるのは、「経営学」「地方創生と地域づくり」「起業と生き方」。
関さんをはじめ、群馬県内の起業家、エスアールケイの施設責任者など。講師は、新しく入る人の関心に合わせて声をかける予定だ。
1年目は、働きながら経営を学ぶ。仕事を覚えることはもちろん、どうすれば利益を上げられるのか、考えたことを現場で実践していく。
2年目は、目標の立て方について。理想の暮らしとは何か、どんな状態になれば、地方創生が実現できたと言えるのか。経営を通じてどんな未来をつくりたいか、具体的に描いていく。
3年目は、理想をもとに将来の計画を立てる。業態の選定や、収益性の見通し。開業に必要な資金の集め方など、実行できるレベルに落とし込んでいく。
必要に応じて、会社のリソースを活用することもできる。
エスアールケイは、代表の関さんゆかりの地でもある、日本三景の宮城・松島にも土地を持っている。最近では、草津温泉の土地取得も目指している。
興味があれば、そうした場所で事業をすることもできると思う。
「卒業後は、ほかの地域に行くのも大歓迎です。その地域を活性化したいという思いと計画があれば、エスアールケイとして投資もできますから」
どんな人に来てほしいですか?
「仕事や生き方で悩んでいる人は多いと思うんです。地方創生に関心があるけど、何をするかは見えていなくて、モヤモヤしている」
「ずっと悩むくらいなら、ここで3年働きながら考えてもいいんじゃない?って伝えたいですね」
続いて話を聞いたのが、娘の美朝(みのり)さん。
大学で経営を学び、大手鉄鋼メーカーに勤務。5年を経て、つるやに戻ってきた。
各施設の運営をサポートしており、新しく入る人とも接点は多いと思う。

「後継者不足や、資金繰りの難しさから地域の旅館が閉業していることを知って。愛着のある四万を支えたいと思って、戻ってきました」
「譲り受けた旅館をただ再生するのでなく、大切にされていた文脈を残していきたいと思っています」
この2年間でできた『叶 KANOUYA 四万温泉』や『四万温泉 ゆずりは』も、もともとあった旅館を引き継いで生まれたもの。
「ゆずりはの再開を聞いて、3世帯のご家族がいらっしゃいました。以前から家族で毎年泊まりに来ていて。おじいさんは亡くなられたそうなんですが、『思い入れのある場所だったので、また再開してくれて嬉しいです』と喜んでくれました」
地域の旅館を引き継ぐことは、通っていた人たちの思い出も、まるごと引き継ぐことになる。

現在、エスアールケイが運営する施設は7つ。
たとえば、老舗旅館に興味があるなら「鹿覗きの湯 つるや」、カジュアルステイなら「SHINN湯治ルルド」、グランピングなら「シマブルー」など。
興味関心や将来やってみたいことに合わせて、配属先の希望を出すことができる。
やりたいことがまだ明確でない人は、いくつかの施設で働いてみたり、職種を変えてみたり。独立したい人には、事業計画の立て方や銀行での融資の受け方なども伝えていく。
前回の取材で話を聞いた方は、5年働いたのち、現在は前橋で独立に向けた準備に取り掛かっているそう。
また、四万川でのリバートレッキング、ハンモックツアーなど、社員の立案でアウトドア事業がはじまったケースもある。
すでに実践している先輩もいるので、何かあれば相談できる環境だと思う。

「いまは宿泊や飲食業を展開していますが、会社としてやりたいのは、地域を盛り上げること。一人ひとりの挑戦が形になり、地域がより良くなっていく。その環境をつくれたらと思っています」
将来やりたいことが明確じゃなくても大丈夫。
シマブルーの責任者を務める藤永さんも、エスアールケイで自分の夢が見えてきた人。
もともとはハンバーガー専門店「ジュピターズキッチン」で働くため、四万温泉に。社長と意気投合し、1年前に正社員として入社した。

「いつか起業したいと思っていましたけど、やりたいことは特になくて。働きながら考えようと思って入社しました」
シマブルーは温泉露天風呂付きのグランピング施設。
川に面したテラスでBBQをしたり、サウナ後の外気浴で整ったり。四万の大自然を満喫できる場所だ。
朝は四万温泉に入ってから出勤。朝食を準備してお客さんを出迎える。
チェックアウト後は、清掃や次の予約に合わせて部屋ごとに食事の準備をする。
責任者についてからは、日本1位のハンバーガー屋さんを呼んだイベントを企画したり、ホテルの稼働率が高くなるようにキャンペーンを考えたり。
入社してから試行錯誤を重ねてきた。

「この1年で、自分は幸せな空間をつくりたいんだと気づきました。いま考えているイベントも、運営する宿泊施設も。すべて幸せな空間につながっている」
「起業や独立は、手段であって目的ではない。いろんな機会をもらって、実践してきたから納得できた自分がいるんだと思います」
自信を感じる語りぶり。きっと、この1年の経験が大きかったんだろうな。
藤永さんにとって、エスアールケイで働く魅力ってなんでしょう。
「実践的な経験が積めること、ですかね。多くの事業を再生してきた社長から直接フィードバックがもらえる。こんなに手応えのある環境、なかなかないと思います」
そういえば、と思い出したことを、嬉しそうに教えてくれる。
「会社の福利厚生で温泉に毎日入れるんです。ぼくは、露天風呂に入る朝の時間がすごく好きで。温泉に入りながらぼーっと考えごとをする。自分にとっての幸せや、この先の人生のこと」
「不思議と、頭のなかが整理されていくんです。この時間がぼくにとってすごく大切で、将来の自分にとって、意味のある時間だなと思っています」
翌朝、藤永さんに紹介してもらった露天風呂に入らせてもらう。

遠くに見える山々が、朝日で少しずつ明るくなっていく。普段の生活では考えないことが、いろいろと浮かんでくる。
リラックスできて、ゆっくり自分と向き合える時間でした。
希望があれば、関さんがエスアールケイの宿泊施設に招待してくれるようです。興味を持った人は、ぜひ一度、四万温泉を訪れてみてください。
これからの人生にとって、有意義な3年間になると思います。
(2026/03/16 取材 櫻井上総)