コラム

協働のプロは地域にいる

まちづくりやまちおこし、環境保全活動。

言葉としては聞くけれど、誰がどんなふうに動いているんだろう。

自分からその活動に飛び込まない限り、なかなか見えてこないことは多いように思います。

今回、日本仕事百貨では、さまざまな地域で自然環境の問題に立ち向かう“人と人と人”をつなぐ、協働のプロたちを取材しました。

全国各地で地域の環境保全活動を支援している「地方環境パートナーシップオフィス(EPO)」。北海道、近畿地方、中国地方という3つの地域でともに活動する仲間を募集しています。

日常生活を送るなかでは、馴染みのない業界。その最前線ではなく、中間支援というかたちでかかわるEPOのみなさんは、黒子のなかの黒子、とも言えるような存在だと思います。

そこにはどんな想いで働く人たちの姿があるのだろう。

そんなことを考えながら、まずは全国のEPOを統括している「地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)」を訪ねました。

東京・表参道。

地下鉄の駅を出て、渋谷方向へ歩く。平日の昼頃でも、表参道はたくさんの人で溢れている。

青山学院大学の向かい、ちょうど青山ブックセンターへ行く道の途中にあるのが、国際連合大学。この一角に、地球環境パートナーシッププラザがある。

中に入ると、「ようこそお越しくださいました」とGEOCの江口さんが迎えてくれた。

全国各地で地域の環境保全活動を支援している「地方環境パートナーシップオフィス(EPO)」。それらを統括しているのが、「地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)」だ。

江口さんはこのGEOCで働いて11年目になる。

「環境保全活動と聞いておそらくみなさんが思い浮かべるのは、環境系のNPOとかだと思うんです。テーマを持って、現場で活動している人たち。我々の役割は、そういった人たちを支援することです」

「NPOや組織に入って直接なにかをしたい人は多いと思うんですが、ここはそうじゃない。想いを持って取り組んでいる人たちを支えることが好きだし得意だ、っていう人が集まっています」

EPOというのは、環境省の地方事務所の、パートナーのような存在で、全国に8カ所ある。江口さんが所属しているGEOCは、それら各地域のEPOをとりまとめる役割を負っているそう。

EPOの大きな役割が、現場で活動する民間の環境団体を裏方としてサポートして、環境省が推し進めたい環境政策とうまくつなげること。

「子や孫世代の暮らしを見据え、地域が自分たちを主体として、環境政策をうまく利用しながら健やかにあり続ける。そのために、環境政策と地域社会で培われてきた経験や想いをつなげることが、地方EPOの大事な役割だと思うんです」

たとえば、新しい環境政策が出たときに説明会を開いたり、モデル事業をやってみて、そのノウハウを別の地域に共有したり。専門家を紹介してつなげることも。

多様な方法で民間の環境団体を支援している。

また、最近だとまちづくり系や福祉系のNPO、さらには企業もSDGsやサステナビリティへの関心が高いため、環境団体以外との接点も多くなっているそう。

そうなると、普段かかわりのない団体同士をどうつなげるか、という課題も出てくる。間に立って、うまく協働できるように働きかけるのもGEOCの仕事。

「あるときは緩衝材みたいな役割になるし、あるときはファシリテーターや促進役になって動かしていく。地方EPOの仕事には、裏方としての柔軟性がすごく求められると思います」

省庁のなかでも、環境省はとくに、民間団体とのパートナーシップを促進しているそう。現場ごとにかなり異なる自然環境を扱うのに加え、普段交わる機会の少ない人たちをつなげていくことになるので、ひとつの組織内や特定の分野に特化したファシリテーションとは、また違った力が必要になる。

また、環境と一口に言っても、時代によって求められていることやトレンドは大きく変わる。たとえば最近だと、「2050カーボンニュートラル」という言葉が出てからは、温室効果ガスの実質的な排出量ゼロを目指すための流れがかなり強くなった。

ほかにもSDGsはさまざまなところで扱われているし、熱中症の問題や激甚化する自然災害など、時代とともに「環境問題」の範囲は広がり、非常に多様になっている。

そのなかで、EPOやGEOCのような役回りの重要性も高まっているのだろうな。

江口さんは、どうしてGEOCで働くことにしたんでしょう。

「実は、環境に関する原体験とかはなくて。遡ると、本を読むのが好きな子どもでした。あとは社会のなかで問題だと思ったことに対して、違和感を持っていた気がします。その一つが環境だったんですね」

「そこから、おかしいと思ったことをそのままにしない、っていうことはずっとしていました。今はたまたま環境のことをしてますけど、まちづくりに関心があっても同じようなことをしていた気がしますね。なにか社会の問題に対して異議申し立てをする姿勢は変わらないだろうなって」

現在の仕事は、定期的に全国のEPOを集めた会議のファシリテーターをしたり、環境省とのやりとりをしたり。調整ごとに時間を使うことが多いそう。

「EPOは、現場の当事者じゃないぶん、客観的に課題を見ることができます。最前線の現場にいると、政策とか国全体の方向性、海外のトレンドとかって見えづらいんですよね。そういったことも含めてアドバイスしたり、人をつないだりできるのは大きな強みだと思います」

「EPOが入ることで、各地域での活動の効果が増す。これは胸を張って言えると思っていて。自分たちも自負と緊張感を持ちながらやっていくべきことだと思っています」

それぞれのEPOは、担当地域が広い。たとえば関東EPOだと、新潟や栃木も含んだ一都九県を支援の対象としている。

そのため、こと細かにサポートすることは不可能なので、それぞれの地域で主体性を持って活動する人を増やすことが鍵になる。

「地域の方の“主体性に火をつけて”がんばってもらう。最初からやる気のある人ってなかなかいないし、いても孤独に活動していることもあって。だからこそ、人と人をつないでチームになってもらう。地域のなかにチームが生まれて、推進体制ができれば、あとはそれを客観的にフォローすればいい」

「この立ち振る舞い方の価値ってなかなか伝わりづらいし特殊だとは思うんですが、当事者を支えるっていうことにハマる人だとやりがいがある仕事なんじゃないかなと」

最近は、どんな仕事をしているんでしょう。

「大学とかの研究者さんとのやりとりが多いですね。ここ数年、環境省が『地域循環共生圏』という、SDGsを地域でどう実現するかというコンセプトで動いていて。その成果を測るために、とある大学の研究チームが発足して、EPOとかGEOCの取り組みから情報を収集、アカデミックな視点から理論化するっていうことをしています」

「ただ、大学の先生って独特のスケジューリングで、かつ知的好奇心の塊なので、ぼくたちと文化が違うんですよね。だから調整が大変っていう(笑)」

たとえば研究者が東京から地域に来て、専門用語を使って話し、よくわからないまま帰ってしまう。そうなると、地域にとってストレスのもとになる。

EPOの先には地域の団体や活動に関わる住民たちがいるため、専門的な知識を活かすために、間に入って調整するのも大切な仕事。

この日も午前中はそのための会議をしていたという江口さん。明日も打ち合わせがあるそうで、研究者のオーダーと、地域の都合や事情にどうやって折り合いをつけるか。どんな座組ならば地域に役立つ結果が生まれるか。

日々考えながら人と人との調整をしている。

「GEOCとEPOって、決して本社と支社っていう関係ではなくて。うちは全国の業務を受けていて、EPOはそれぞれの地域の業務を受けている。つまり対等な関係なんです。GEOCはEPOネットワークの結節点であって、本社ではないっていう言い方は意図的にしています」

結節点というのは、どういった意味合いなんでしょう。

「とくに北海道や近畿、中国地方のEPOは人数が少なくて、3人とか5人で運営している。だからそれぞれ孤立感を感じていたり、経験値に差があったりするわけですよね」

「そこにぼくらが入ることで、EPO同士がつながる場をつくる。すると、同世代でやっている人が別の地域で見つかったり、ほぼ同期みたいな人がほかのEPOにいたり。相互参照しあって、いい刺激を与え合えるのは、ぼくらがネットワークをつなぐメリットだと思いますね」

たとえば2011年の東日本大震災。震災直後にどのような支援のネットワークが生まれたか、東北のEPOが丁寧に情報を集めた。その経験は、豪雨や地震などといった災害の多い日本において、どの地域のEPOにとっても参考になる。

「本当にいろんな人と接する、人にまみれる仕事ですよ。コミュニケーションすることが好きで、人に関心を持てる人がいいのかなと」

「環境が好きな人でもいいんですが、EPOの仕事は基本的に人と人をつないで、そのための調整をして…っていう仕事なので。環境だけに興味があると、辛くなってしまうこともあるのかなと。あとは、EPOの仕事の本当にいいところって、いろんな人に出会えることだと思うんです」

いろんな人に出会える?

「出張も多いし、それぞれの地域のキーパーソンに会うとか、専門家とつながるとか。地域のネットワークをつくるなかで、自分自身のネットワークも広げていけるっていうのは、面白さの一つだと思います」

最後に、江口さんが過去を振り返ってこんな話をしてくれた。

「昔上司に言われたのが、ぼくらの仕事は、いかに『あれは私がやったんだ』って言ってくれる人を増やすか、だと」

「要は、一緒に仕事をした人がみんな『あれは私がやったんだ』って、主体性を持って語れる状態が理想的だっていうこと。みんながコミットして、いい結果が生まれる。その状態が一番いい」

江口さんが語った「主体性に火をつける」という言葉は、まさにそのことを表しているのだと思う。

大きな課題だとしても、他人ごとじゃなく自分ごととして取り組む。そんな方向へ人々の意識を持っていくことが、大変ではあるけれど、やりがいのあることなのだろうな。

表立って目立つことなく、それぞれの地域で必要なことを人知れず進めていく。

前向きに黒子役を引き受けている人たちの存在が、そこにはありました。

これから紹介する3地域それぞれで、ともに歩み、地域をよくしていくための仲間を探しています。

ピンとくるものがあれば、ぜひ読み進めてみてください。

(2024/5/9 取材 稲本琢仙 大津恵理子、デザイン 浦川彰太)

 

6月25日(火)には、GEOCにて出張しごとバーを開催します。この仕事をしてみたいと思った人も、GEOCやEPOの活動に興味があるという人も。

実際に会って、話ができる機会です。お待ちしています。

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