※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
学校や塾で、子どもたちが学ぶことってなんだろう。
勉強や、将来に役立つ知識を得ることも大事だけど、それ以上に大切なのは「やりたいことを見つける力」や「実現するための方法を考える力」かもしれません。
生徒一人ひとりに寄り添いながら、一緒に生きる力をはぐくむ。そんな理想に向かってひた走る大人たちの集まる学校が、瀬戸内海にあります。
広島の離島・大崎上島で、高校生たちに伴走する塾スタッフを募集します。
まちと大崎海星高校が一緒になって立ち上げた公営塾「神峰学舎(かんのみねがくしゃ)」。ここでは教科学習のサポートのほかに、生徒たちと一緒に夢や進路について考えるきっかけをつくる「夢☆ラボ」というキャリア教育プログラムも進めています。
教育に携わった経験は、あれば活かせますが、なくても大丈夫。まっすぐに人と向き合って、可能性を伸ばしていくことに貢献したい。その気持ちが大事だと思います。
大崎上島へのフェリーが出る竹原港へは、広島市内から車で1時間半弱。空港からだと30分ほど。
いろんな島に向かう船が出たり入ったりする様子を横目に、大崎上島行きのフェリーを探す。
港からフェリーに乗りこみ、さらに30分。
秋晴れの日差しを浴びて波がきらきらと光るのを眺めているうちに、大崎上島に到着した。
柑橘栽培と造船で栄えてきたこの島には、昔から瀬戸内海の航路を通る船が風待ち・潮待ちするために立ち寄る港があったそう。島の外からやってくる人やものと一緒に文化を育んできた歴史がある。
一方でほかの離島と同じように、過疎化が進んでいる。平成のはじめにおよそ1万2千人だった人口は、7千人強に。島内の大崎海星高校も、生徒数の減少に伴い一時は統廃合の危機にさらされた。
そんな状況を変えようと、町と学校は共同で「高校魅力化プロジェクト」に取り組んできた。その甲斐あって、少しずつ生徒数も増え、今では県外から大崎海星高校で学びたいとやってくる生徒もいるという。
具体的に、どんなことに取り組んできたのか。
まずは港からほど近い役場の一室で、企画課教育の島推進係の古坂さんにお話を伺った。
「魅力化プロジェクトの柱は3つあります。まずは公営塾をつくって運営すること。2つめは、この地域ならではの学びのカリキュラムである大崎上島学の設計と実施。そして最後が寮をつくって運営することです」
ひとつの高校の魅力化に、島をあげて取り組むことには理由がある。
「高校がなくなると、過疎化のスピードをさらに進めてしまう。あとは子どもが少ないからこそ、一人ひとりに向き合える側面もあると思っていて。島の資源をいろいろと使いながら、自分の考えをちゃんと表現できるような人間を育てていこうという思いがありますね」
この島に誇りを持てたら、就職や進学で島外に出ても、どこかで島のことを気にかけてくれるはず。長い目で見れば、将来島に帰ってきたいと思う子どもも増えていくかもしれない。
「公営塾のスタッフには、『とにかくボール投げ続けてあげてくれ』と伝えています。ただでさえ離島で、都会の子どもよりいろんな人と話したりする機会がないので。余計なお世話だっていうくらい投げ続けたら、どっかにポーンと当たってスイッチが入るかもしれないじゃないですか」
やりたいことは? これやってみたら? こんな人がいるよ。
何がきっかけになるかわからないから、とにかくいろんな選択肢や可能性について、投げかけてみる。
その意識は、学校や役場、調整役のコーディネーター、教育寮、公営塾など、魅力化プロジェクトに関わる人みんなで共有しているという。月に一度は全員で、それ以外にも組み合わせを変えながら、頻繁にミーティングを行っている。
綿密なコミュニケーションを学校側で支えるのは、大崎海星高校の兼田先生。担当教科の理科を教えるかたわら、学校と地域をつないだり、学校のPRをしたりするときの窓口役を担っている。
「前任の先生から引き継いで、僕は二代目になります。魅力化も7年目に入って、県外から来る生徒が増えていたり、地域との連携がスムーズになったり、積み重ねを感じています」
大崎海星高校では、総合的な探究の時間に「大崎上島学」という授業を進めている。1年生は地域のことを知り、2年生はグループに分かれて地域の課題解決に取り組む。3年生は自分自身でできることを考えて、実践していく。
「カリキュラムでいうと週に2時間ですけど、時間外でもどんどん進めていく生徒もいますね。最初はめんどくさがっていた子も、『俺本当はこれがしたかったんだ!』と気づいた瞬間から、すごい勢いでプロジェクトを進めたり」
島のなかで実際に結婚式をプロデュースしたり、塾スタッフの協力のもとレコードイベントを開催したり、地域の方の依頼でトマトの無人販売所をデザインしたり。
「どこまでが学校の取り組みで、どこからが個人の取り組みなのか、けっこうグラデーションというか、ぼやあっとしてるところがあるんですよ。探究の時間とはまた別で、公営塾の取り組みとして『夢☆ラボ』というプログラムも行っていますし」
コロナ禍のなかでも、地域との交流はできるだけ続けるようにしてきたそう。一方で、オンラインで遠方のいろんな大人との出会いもつくりやすくなった。島の外に出た高校の卒業生が授業の企画に関わってくれることもあるそうだ。
兼田先生の話を聞いているあいだ、隣の部屋から「はーい!」という元気な返事がたびたび聞こえるのが気になっていた。
その声の主は、大崎海星高校に来て2年目になる大久保校長先生。公営塾のスタッフに期待していることを話してくれた。
「“なぜ”の部分を丁寧に教えてくれたらありがたいなと思うんですよね」
“なぜ”の部分。
「生徒には、学力はもちろん、進路とか将来について考える力をつけてほしい。スタッフ側も『頑張れよ』って言うだけじゃなくて、どう頑張ればいいのかを一緒に考える。その上で、なぜこれをするのかっていう理由の部分をしっかりと伝えてほしいんです」
魅力化プロジェクトが進むなかで、学校と公営塾の連携が強まっていくのを感じているそう。
「私たちも遠慮なしに、いろいろリクエストや提案をしていきます。子どもたちのために、どうやったら力がつくかなっていうことをお互いに意識しながらね」
たとえば、集中したい子と話したい子が干渉しないように、生徒の希望や学習目的に応じて教室を分けてみたり。塾スタッフも学校の進路検討会議に同席して、塾での生徒の様子を共有しながら一緒に一人ひとりの進路について考えたり。
今回入る人も、指導経験の有無にかかわらず、どんどん提案をしてほしい。むしろ、未経験だからこそ気づけることもたくさんあると思う。
教科指導や「夢☆ラボ」、さらには進路相談まで。
さまざまな形で生徒と関われるのが、塾スタッフのおもしろいところ。でも同時に、やることがたくさんあって大変そうだな、という気もする。
実際のところ、どうだろう。
今年の4月から塾スタッフに着任した高橋さんに聞いてみる。
半年間すごしてみて、どうですか。
「すごく楽しいですね。でも楽しいのと同時に、生徒たちと関わっていると、自分自身の弱いところや課題もわかるんです」
自分の課題。
「純粋に自分のやりたいことをやるのはめっちゃ得意なんですよ。でもここでは、それだけじゃなく、目の前の人の夢を一歩前に進めるために、その人の立場で考えるっていうのが大切で」
「その人がやりたくなるようなチャンスやパスを、その人の前に置き続けるっていうこと。僕が背中を押すんじゃなくて、その人が思わず一歩を踏み出しちゃうようなきっかけをつくれるようになりたいんです」
あるとき、「夢☆ラボ」に参加する女子生徒から「シンガーソングライターになりたい」という夢を聞いた高橋さん。やりたい、だけどどうしていいかわからないと言う彼女に、ミュージシャンの知り合いを紹介したり、音楽活動につながりそうな企画のチラシをそっと渡したりしてみたそうだ。
「結局全部来てくれて。最終的に1曲自分で歌をつくりきって、地域の人や先生、生徒の前で歌ったんです。最初はめっちゃ不安そうだったけど、やりきった後はもう、表情が変わりましたもんね。今は自分自身で地域のイベントに参加して歌うようにまでなってます」
出したパス、投げたボールがすべて何かにつながるわけではないけれど、そこからきっかけを掴みとった生徒の変容がなによりうれしいそう。
プロジェクト学習やキャリア教育だけでなく、教科学習でもそれは同じ。
「勉強の仕方をただ伝えるんじゃなくて、生徒が自分自身でやるべきことや目標を自分の責任で決めて、自分で走ることができるように心がけています。もしかしたら、ぼくが全然考えたこともないようなやり方を思いつく子もいるかもしれないから」
小学生のころから先生になりたかったという高橋さん。
大学卒業後、学校に教師を派遣して課題の改善をめざすNPOのプログラムを通じて学校現場に入ったとき、難しさに直面したそう。
「新卒1年目で先生をやってみて、めっちゃ忙しかったんですよ。しかも初めてのことばかりで、何をしていいのかわからない。それに、学校現場では『先生と生徒』になっちゃうんですよね。そこにすごく違和感があって。僕は、ひとりの人として彼らと接する姿勢を大切にしたかったんです」
友人から大崎上島の高校魅力化プロジェクトのことを聞いて「これだ!」と感じ、着任してから半年が経った。
実はこの仕事のかたわら、来年度からはプロジェクト学習とリーダーシップについて学びを深めるために、オンラインで海外の大学院にも通う予定だそう。スタッフ自身も、常に学び続ける姿勢が大事なのかもしれない。
高橋さんは、どんな人と一緒に働きたいですか?
「大事なのは、スキルがあるかどうかよりも、やる気と覚悟、あとは楽しむことだと思います。どんな言葉で伝えるよりも、自分自身の姿勢で示していくことが一番の教育だと思うから」
みなさんの、子どもたちのことを話すときのうれしそうな表情が印象的でした。
「大変だなと思うことも結構あるんです。まあでもその分生徒が楽しそうにしていたりするので、それで相殺かなあ」と兼田先生。
大久保校長先生は「私たちも生徒と一緒に成長してる感じがするもん。それを考えたらワクワクするよね」と話していました。
「いい意味で振り回されるんですよ、基本。それが最高に楽しいです」これは、高橋さんの言葉。
高校生という繊細な時期をすごす人たちと向き合いながらはたらく現場には、大変なこともたくさんあると思います。
何かを教えてあげるというよりも、一緒に成長する。横を走りながら、ボールを投げ続ける。
大人になっても泥臭く挑戦し続ける人の背中を、きっと高校生たちも見ているはずです。
(2021/11/4 取材 瀬戸麻由)
※撮影時はマスクを外していただきました。