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工芸のある未来を生きたい

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1716年、『奈良晒』と呼ばれる奈良特産の高級麻織物の商いを始めた、中川政七商店。

全国に直営店を展開しているので、お店を見かけたことのある人も多いかもしれません。

店舗運営のほかにも、自社ブランドで培ったノウハウを活かして、工芸メーカーのコンサルティングをしたり、合同展示会の主催やまちづくりをしたり。

“日本の工芸を元気にする!”というビジョンのもと、さまざまな事業を展開しています。

今回募集したいのは、「工芸メーカー支援事業」に携わるスタッフです。ものづくりをする職人さんと、それを販売する小売店の間に立ち、よりよい形で商品を世の中に伝えていきます。

具体的には、つくり手と伝え手をつなぐ合同展示会「大日本市」の企画運営、パートナーブランドやバイヤーへの商品提案など。さまざまな立場の人と関わる機会が多い仕事です。

ものを売る、だけでなく、ものづくりを残す。先を見据えながら、柔軟な発想で仕事と向き合える人が向いていると思います。

 

「ぜひ大日本市へ取材に来てください。この仕事の根幹部分がよくわかると思います」

取材前にそんな連絡をもらっていた。

会場は、恵比寿駅から徒歩5分ほどのイベントスペース。エスカレーターで会場に上がると、大きなパネルが掲げられている。

「今年は『語りたくなるものづくり』がテーマです。原点に立ち返って、全国の職人さんがバイヤーの人と直接たくさん話して、商品のよさを伝えてほしいという想いがあります」

そう教えてくれたのは、長澤さん。大日本市を運営するチームを統括している。

さっそく会場を案内してもらう。

藁でできる細工やしめ飾り、陶土や稲穂を使用したアクセサリーなど、山の恵みゆたかな山形県の手しごとを紹介する「山から福がおりてくる」。

文具や小物入れ、メッセージカードなど、紙の日用品“紙器具(しきぐ)”をつくる「大成紙器製作所」。

個性豊かな75社のブースが並んでいる。

その一つひとつをまわりながら、まるで自分の会社のように説明してくれる長澤さん。まさに「語りたくなるものづくり」を体現しているように感じる。

2011年にはじまった「大日本市」。

「いいものづくりをしても、出口がなければ経営改善にはつながらない」

中川政七商店が、自らもメーカーとして販路開拓に苦労してきたことが、原点にある。

コンサルティングで手がけたブランドを流通させていくにあたり、展示会への出展を検討するも、規模は大きいが商談性が低いイベントなど、出展したいと思える展示会がなかった。

世の中になければつくってしまおう。中川政七商店が主催し、工芸メーカーを集めた展示会ができれば、工芸に関心の高い小売店のバイヤーが集まるはず。

当初は、つくり手とバイヤーをつなぐ展示会として開催。

さらに、工芸メーカーの苦手とする、ものを広めていく力をサポートするため、販路支援や商談後の継続的な付き合いを促す問屋としての機能を持つ、現在のかたちになった。

会場を回っていると、各ブースに吹き出しのポップが置いてあるのが気になった。

「職人さんのなかには喋るのが苦手な方もいらっしゃるので、コミュニケーションの糸口になるように置いているんです」

数ある展示会のなかで大日本市が特徴的なのは、主催者の中川政七商店自身がメーカーであること。伝え手でありつつ、つくり手でもあるからこそ、メーカーにとって最良の展示会のあり方を考えることができる。

「展示会は商談をする場所。ちゃんと受注をとって、明日からの仕事につなげるために、一緒に試行錯誤しています」

展示会が始まる前には各企業と接客勉強会を行い、ブースのレイアウトや商品の伝え方などについて、詳細にフィードバックしている。吹き出しのポップもここから生まれたアイデア。

「職人さんたちは、普段買い手が見えないものづくりをしています。慣れない接客をするので、心が折れないような前向きな言い方で。コーチと選手みたいに、ときに厳しい目で(笑)」

「みなさん近くのブースのいい接客を見て取り入れているので、少しずつよくなっていることを実感します。繰り返し出ているブランドさんは、会うたびに顔つきが変わっていくんです」

仲間から刺激を受けながら、出展者は自らがつくったものを“売ること”を強く意識する。伝わるよろこびは、ものづくりへのさらなる自信につながる。

箱を提供するだけじゃない。メーカーがともに学び、成長する場になっている。

新しく入るひとは、大日本市の運営にも関わりつつ、メーカーと長く並走しながら、仕入れサイトの運営や、営業活動を通して小売店との関係性づくりを担っていく。

メーカーには、売っていきたいものをヒアリング。小売店に対しては、それぞれの商形態にあった商品提案をして、お店に置いてもらう。

メーカーの想いを大切にしながら、商品として売れるものをつくれるよう、ときにはものづくりの過程に入り込み、商品開発も担う。

「招き猫が挙げてる手。右と左で意味が違うのを知っていましたか? 右手がお金を招き、左手が人を招く手なんです」

長澤さんが紹介してくれたのは、愛知県瀬戸市の陶磁器メーカー・中外陶園の「SETOMANEKI」。

「日本の文化である招き猫を、もっと身近に感じてほしい」という想いに中川政七商店が共鳴し、ブランドコンサルティングに携わった商品だ。

従来の招き猫は、縁起物として店先に飾られることが多かった。

SETOMANEKIが目指したのは、現代の多様な暮らしを彩る、自宅のインテリアとしての招き猫。デザインを抑えたシンプルなフォルムを開発した。

「招く」という招き猫の本質を見つめ直し、人々に幸せを招くだけでなく、産地である瀬戸に人々を招くきっかけにもなれば、との願いを込めている。

「売る商品をつくるのは大事だけれど、ただ売れるだけではいけなくて」

「そのもう一歩先で、工芸文化が長く残り続けていくために何が必要かを考えます。ものづくりを未来に伝えていくためには、メーカーを立て直すことや産地全体を活性化することに力を注いでいく必要もあるんです」

経済が発展すること、文化が残ること、両方を目指す。

メーカーの売りたい気持ちに耳を傾けながら、継続的に工芸が発展していく未来を見据えた選択をする。

「工芸に携わるいろんなつくり手さんとの関係性や、つくり手さんそのものが生き残っていくことを通して、経済として発展する道筋が見えるのではないかと信じています」

 

場所をうつして、次に話を聞いたのは、中川政七商店副社長の荻野さん。

「前提として、工芸は簡単に利益が出る業界ではありません。簡単に利益が出る業界だったら、もうすでにみんな元気なので(笑)」

「“日本の工芸を元気にする!”というビジョンの達成を目指しつつ、目先でもきちんと売上を立てる会社にする。そこの両輪のバランスをどう取るかを、常に苦心しながらやっています」

両輪のバランス。

「たとえば、大日本市は短絡的な儲けのための取り組みではありません。ただ、仮に赤字を立て続ければ、実施しないという意思決定をする可能性もある。どんなに素晴らしい取り組みも、利益を出して継続できなければ、ビジョンは実現できません」

「ただ、ビジョンにつながらない利益には、意味がないと思っています。どちらも大事だけれど、ビジョンの達成と利益の追求を天秤にかけたら、51対49でビジョンが勝つようなバランスを保つことが大事なんです。工芸メーカー支援事業に携わる人には、そうした経営者に近い感覚が求められると思います」

現在、日本に300ほど残っていると言われている工芸産地。中川政七商店は、ビジョンを実現するための水準として、100年後にも300産地を残すことを掲げている。

そのために、工芸文化を元気にする自分たちが、まずは経済的に強く、健全でなければならない。

自分、会社だけでなく、文化の発展。もっと高い視座で自分の仕事に向き合っているからこそ、一言一言に強い使命感が帯びている。

今後は小売店に向けた積極的なサービス提案や、大日本市のプラットフォーム活性化に力を割いていきたい、と荻野さん。

そのひとつが2020年に立ち上げた『大日本市WEB』という仕入れサイトの運営。大日本市の出展者の商品が一覧できる仕様になっている。

「これだけ情報収集がいろんなところでできるようになると、展示会で取引を決め切るバイヤーさんも減ってきていて」

「Web上で常に商品が見られて、いつでも注文できる体勢をつくるべきだという意図で始めました。継続的に小売店さんが買い付けやすいかたちをつくりたいなと」

今回入る人は、ページを担当する制作会社と連携してサイトづくりにも携わる。

大日本市のかたちをWeb上に広げていくイメージ。

季節やテーマに沿ったおすすめや、メーカーが売りたいものなど。Web上でも適切に魅力を伝えるために、バイヤーさんの動線を見ながら、リコメンドできる仕組みをつくっていってほしい。

ページ企画から携わるため、自由度が大きいぶん、トライアンドエラーを繰り返す、地道な対応が求められる。

営業からイベントの運営や、Webマーケティングの領域まで。経験がないと難しい印象を受けますが、どうでしょう?

「経験値やスキルはあまり気にしていません」

「すべての意思決定の先には、利益の最大化ではなくビジョンの実現を目指しているので。ものが好き、ものづくりや産地を応援したい、とか。どんなかたちであれ、ビジョンへの自分なりの共感があるとよいですね」

将来の構想として、工芸メーカーのあらゆる困りごとを支援するプラットフォームをつくっていきたい、と荻野さん。

経営サポート、商品開発、ブランディング、物流、販売。さまざまな面から総合的にサポートすることで、職人さんがものづくりに専念できる。

「メーカーさんを元気にする手段として、大日本市やWebの取り組みがあるという位置付けなので」

「ビジョンに向かっていれば、自由な発想も尊重してくれる、そんな会社です。ビジョンを自分ごととしてとらえて、工芸を少しずつでも前に進めてくれるひとの力を借りたいです」

 

働くモチベーションの源泉は、「意気に感じること」。

荻野さんがそう話していたのが印象的でした。

「いろんなメーカーさんが、ものや技術を未来につなげていきたいという想いを持っています。楽ではないなかで、全力で戦う姿は、僕はすごく素敵だと思うし、意気に感じます」

「だからこそ、工芸を元気にしたい、自分たちの技術を残していきたい、紡がれてきた想いをつなげたい。そういったいろんな方々の想いに、職業人生をかけて応えていくと決めました」

100年後に残るものづくりを。

日本の工芸文化の未来を描く、そんな仲間を待っています。

(2023/09/06 取材 田辺宏太)

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