「求人情報はいろいろ見たものの、全然惹かれてないのに無理やり頑張っていく感じがどうしても嫌でした。だけど木村硝子店の記事を読んだとき、感覚的に『なんかいいな』って腑に落ちたんです」
「なんていうか『いい匂いのするほう』に行きたかったんですよね」
そう話してくれたのは、木村硝子店の直営店舗で働く来輝(らいか)さん。
なんかいいな、これはどうしても嫌だな。
いい匂いのするほうって、どっちだろう?
ふんわりしているようだけど、自分の本能が瞬時に判断しているのだと思います。

木村硝子店は、レストランやバーなどの飲食店に向けた、テーブルウェアの販売会社です。
飲み口が薄いビールグラスや、スラリと脚の長いワイングラス、美しい柄が彫られたカップなど、見ているだけでもうっとり。
今回募集するのは、東京・湯島にある直営店で働く販売スタッフ。最近は海外からのお客さんも増えているそう。
出勤は木金土の週3日のアルバイトなので、別の仕事やご自身の活動との両立も可能です。
無理に飾らずありのままの自分で、キャラクターむき出しで接客してもらいたい。
なんかいいな。そう感じる人は、ぜひ読み進めてみてください。
東京メトロの湯島駅から数分歩くと、白いのれんが掛かった木村硝子店に到着。1階はオフィスと直営店、2階は倉庫とショールームになっている。

迎えてくれたのは代表の木村武史さん。日本仕事百貨では、何度も取材を重ねている。
しばらくぶりですが、お元気でしたか?
「ここ最近はちょっと風邪をこじらせていたけど、ゴルフの大会を主催したり、フルートを習ったり、カメラも色々調べたりしてね」
「知ってる?フルートって面白いんだよ。俺はバッハ以前の古いフルートをやってるんだけど、リコーダーみたいに穴が空いてるだけ。今1曲吹けるように極めているところなの」

聞けば、今年83歳。相変わらず好奇心旺盛で、楽しそうに話す姿に元気をもらう。
最近の会社の様子についても聞いてみる。
「社会情勢の影響で、ヨーロッパから輸入するガラスが3〜4割、ものによっては5割くらい値上がりしてるんだよな。それで、中国のガラスを輸入して販売することにしたの。安くてクオリティが高いんだよ」
写真左からヨーロッパのハンドメイド「サヴァ」12,760円、今回新しく輸入することになった中国のハンドメイド「セボン」5,720円、ヨーロッパのマシンメイド「ピッコロ」1,980円。

うーん、素人目には違いがわかりません。値段も結構差があるんですね。
「そうなの。俺が見てもわかんないレベルだからさ。遜色ないだろうってことで扱うことにしたんだよね」
木村硝子店では自社工場を持たず、日本や海外の工場で生産をしている。木村さんが自らデザインして発注することもあれば、いい製品をセレクトして扱うことも。
木村さんがデザインしたグラスは、木村さんが名付けていて、パスタ、ソバ、ワサビなど、ユニークなネーミングも多い。
「問屋としては安いほうがいいけど、そうすると生産者を潰しちゃうんだよ。俺は日本の工場にも、もっと値上げした方がいいって言ってるんだ。みんな安くなきゃ売れないと思い込んでるけど、そうじゃない。工場には健全に経営してほしいわけ」
健全さは、木村硝子店で働くスタッフたちにも共通している。
今回募集する店舗スタッフに求めるのは、その人のありのまま、自然体でいること。
「その人のキャラクターを、そのままぶつけてくれれば良いんだよね。挨拶は自分の仕方ですればいいし、大切なのは売り込まないこと」
「商品を見たいだけの人だっているでしょ。そこでスタッフの感じが悪かったら嫌だよね。いいお店だったなって印象を持ち帰ってもらいたい。買わないお客さんこそ大切にしてもらいたいね」
続いて、店舗スタッフの来輝さんと、砂岡(いさおか)さんにも話を聞く。

おすそ分けのどら焼きをかじりつつ、「ここのどら焼きは美味しいんだよ」と木村さん。飲食関係の取引先から、お土産をもらうことも多い。
「冷凍庫にアイスも残ってるよ」「前から言おうと思ってたんですけど、実はチョコミント苦手なんですよね」「え!そうだったの」「じゃあ◯◯さんにあげよう」「何味が好きなの?」「バニラかイチゴか、チョコミント以外は好きです」と和気あいあい。
来輝さんと木村さんとは60歳もの年の差、来輝さんと砂岡さんも10歳ほど離れているけれど、お互いが無理なく自然と歩み寄っている空気を感じる。

来輝さんが木村硝子店に入った理由は、日本仕事百貨で求人記事を読んだときに、木村さんの「なんかいい感じ」に惹かれたから。
「前から日本仕事百貨はよく見ていて『湯島の募集がある!』と読んでみたんです。お散歩したことがあって好きなエリアだったんですよね。お店や商品もよかったですし、社長の雰囲気や考え方がいいなと思いました」
「大学では英語を専攻していたんですけど、教室に座って授業を受けるのが得意ではなくて。自分の感覚できちんと納得したいし、私は私のやり方でいこうと思って、学校を辞めました」
大学中退後はゲストハウスに住み込みで働いたり、旅行したり、英語や日本語で文章を書いたりと模索しているなか、木村硝子店に巡り合った。今でも仕事のかたわら、文章のアウトプットは続けているそう。
新しいことにチャレンジするときは、緊張しがちだという来輝さん。
「お腹が痛くなるような緊張と、いい感じの緊張があると思っていて、今回は後者でした。社長はもちろんスタッフのみなさんも面白い方ばかりで、挑戦してみて本当によかったです」

働いてみると、木村硝子店のスタッフにどこか共通したものを感じた。
「部署やタイプは違っても、みんなこだわりがしっかりあって、それを尊重しあっている。あとはみんな会社のことがすごく好きなんだな、と思いました」
「仕事が生活の一部になっているというか、会社にいることが自然な感じ。以前は外向きの自分と一人でいるときの自分に距離を感じていたのですが、今はそれがだいぶフラットになっていますね」
働きはじめて1年半。印象的だったお客さんはいましたか?
「先日ノルウェー人の若い男性がいらっしゃって、お母さまにワイングラスを探したいという相談を受けました。身長は190センチ以上で、帽子をかぶり、すごくシャイなタイプ。声も小さめでした」
「異国の地で店員に話しかけるなんて緊張するだろうに、お母さまのことを思って勇気を出してくれたんだなと。べったり張り付くのではなく、どっしり構えるつもりでサポートさせていただきました」

ほどよい距離感で寄り添ってもらう。言葉全ては通じなくても、気遣いはうれしいものだろうな。
「韓国や中国、インドネシア、シンガポール、タイ、ヨーロッパやアメリカの方も幅広く来てくださるので、毎日いい刺激をもらっています」
ここ2〜3年は海外の観光客も増え、たとえば京都のバーで木村硝子店のグラスを見つけて、わざわざ足を運んだり。SNSで見かけてファンになって、どっさり購入してタクシーで宿泊先まで運ぶ人もいる。
繊細な商品ばかりなので、梱包はしっかり。機内持ち込みの手荷物で運べるよう取っ手を付けて渡している。
「国内の方だと、以前はウィスキーやワインのグラスを探す年配の方が多かったですが、今はお水やジュースを飲むグラスを探す、20代くらいの若いお客さまも増えているんですよ」
そう教えてくれたのは、来輝さんの先輩で、スタッフ歴10年の砂岡さん。直営店のオープンに合わせて働きはじめ、コアメンバーとしてここを支えている。

「ありがたいことにお店もかなり混むようになってきて、お客さまがなかなか途切れない日も。『今日は来ないね』と話していた次の瞬間、来店が重なるということもあります」
そんなときでも焦りは禁物。落ち着いて一つひとつの仕事に当たることが大切だ。
「以前は店舗スタッフが2人だったので、コミュニケーションを取らずとも通じ合ってしまうところがありました。でも今は4人、次に入っていただく方で5人となると、そうはいかないですよね」
「倉庫へ商品を取りに行くとき、商品を包装するとき、トイレや休憩に行くといった少しのことでも、一声掛け合うことは大切にしたいです」
忙しいタイミングはふとした瞬間にやってくる。上手く波に乗って、そのまま乗り切るのがいいと砂岡さん。
「手が空いたからといって、ぼーっと止まってしまうと、急な波が来たときに対応できないんです。ちょっとした隙間時間でグラスを拭いたり、事務作業を進めたり。そんなときもじっくり集中せず、こまめに顔を上げて店舗の様子を把握する。少し引いて見ることを心がけています」
「たとえばお客さまの会計タイミングが重なりそうだったら、先に決まっている商品だけでも伺っておくと、時間差がつくれます。まずは基本の仕事を覚えて、わからないことはほかのスタッフにどんどん質問してもらいたいですね」

大学時代にデザインを学んでいた砂岡さんは、店舗のスタッフ業務のほか、飲食店向けのショールームの案内、木村さんがデザインしたグラスの図面を起こす企画業務も担当している。
「今回募集する店舗スタッフは、ショールームの案内にも関わる機会があると思います。商品について幅広く知りたい店舗のお客さまと比べて、ショールームは探している商品や目的がしっかりあるお客さまが多めです」
レストランやバーのプロとなると、気難しい方もいますか?
「プロ目線の難しい質問もありますが、基本的には接しやすい方が多いですよ。求めるオーダーにまっすぐ応えられたときはやりがいを感じますね。お酒や料理の知識は、あるに越したことはないけれど、わかる範囲で誠実に対応しています」

今回は店舗が混むようになってきての増員。新しい人に入ってもらうことで、社員メンバーとの業務バランスもよりよくなるはず。
飲むことや食べること、食器が好きな人。
そして「なんかいい感じ」を大切にする人にぴったりの、健やかな仕事だと思いました。
いい予感のするほうへ、まずは進んでみませんか。
(2026/6/16 取材 今井夕華)


