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未経験からクラフトマンに
小国ジャージー牛乳で
地産地“循”のチーズづくり

土地の素材を活かし、自分の感覚を重ねて“ここでしか生まれないもの”をつくる。

そんなものづくりの環境を求めている人に、伝えたい仕事があります。

熊本・黒川温泉ではじまっている食の取り組み「Au Kurokawa」。その一環でチーズ工房が誕生することになりました。

今回はチーズ職人を募集します。

経験は問いません。DEAN&DELUCAなどを運営する株式会社ウェルカムのチーズ製造部門のみなさんが、およそ半年かけてチーズづくりのいろはを教えてくれます。

原料となるのは、地元でとれる小国ジャージー牛乳。国内で一般的なホルスタイン種の牛乳と比べ、乳脂肪分やタンパク質が豊富に含まれた濃厚な牛乳です。

早朝に絞ったばかりの生乳を仕入れ、低温殺菌やモッツァレラを練る際の熱源には温泉を活用。できたてのチーズを直売するほか、周囲のレストランや旅館にも展開することで、地域内での資源や経済的な循環を生みます。

大事に育まれてきたジャージー牛乳の文化に、自分の手で新たな価値を加える。そんな職人を目指したい人はぜひ、続けて読んでください。

 

黒川温泉があるのは、熊本県北東部の南小国町。阿蘇・外輪山の北方の麓というような位置で、空港や高速道路の出口などからは離れている。

里山のなかに、静かに佇む30軒の旅館。「黒川温泉一(いち)旅館」というコンセプトのもと、看板の整備や植林、建築のルールを設けるなどして景観に統一性をもたせたり、黒川内の露天風呂を3つまでめぐれる「入湯手形」をつくったり。

力を合わせてさまざまな取り組みを重ねてきたことで、年間およそ100万人が訪れる人気の温泉地へと成長してきた。

とはいえ、長時間労働や人手不足など、旅館業の課題は残ったまま。

なんとか解決の糸口をつくれないかと、旅館外での食事の選択肢を増やす“泊食分離”を目指して立ち上がった食の拠点がAu Kurokawaだった。

温泉街の中心から少し離れた3000坪の敷地に、8棟の店舗が並ぶ。そのうちすでにオープンしているのは、パンとコーヒーの店「Au Pan & Coffee」、熊本で育った豚やあか牛を味わう「豚皇」「褐-aka-」の3店舗。

さらにこの夏、いずれもミシュランで星を獲得した店舗がプロデュース・運営するイノベーティブフレンチ「KAZANE」と日本料理「翔隆」が加わって5店舗になる。

そして6店舗目となるのが、チーズ工房併設のショップ&レストラン。今回はここでチーズをつくる職人を募集したい。

いろんな食の選択肢があるなかで、どうしてチーズなのだろう?

旅館「奥の湯」代表で、Au Kurokawa発起人の音成さんに聞いてみる。

「ひとつは、地元の小国ジャージー牛乳を活用したかったんです。付加価値をつけて、適正な価格で売っていく。旅館業も同じで、そうしないことには続けていけないので」

今年の3月、もともと小国ジャージー牛乳を製造販売していたJA阿蘇が、工場の老朽化などを理由に事業を停止。現在は「らくのうマザーズ」が引き継いで販売しているものの、このままでは大事に育まれてきたジャージー牛乳の文化が失われてしまうかもしれない。

チーズに加工して新たな価値を加えることで、地域の産業を残したいというのが音成さんの考え。ショップでの直売はもちろん、周辺のレストランや旅館でも扱ってもらえれば、ある程度まとまった量の製造・販売が見込める。

加えて、DEAN&DELUCAなどを運営する株式会社ウェルカムとの縁もあった。

想いはあっても、チーズづくりの知識はまったくなかった音成さん。東京・日比谷や自由が丘、京都・三条などを拠点に、チーズの製造からカフェやレストランの運営まで手がけるウェルカムのサポートを得られたことで、構想はグッと前へ進んだ。

今回募集する人はまず、ウェルカムがチーズ工房をもつ東京と京都で3〜4ヶ月の研修をおこなう。そのあと黒川に移り、2ヶ月ほどかけて小国ジャージー牛乳を使ったチーズづくりに打ち込むことになる。

およそ半年の研修期間でチーズづくりの基礎をみっちり学べるので、経験は問わない。

Au Kurokawaのコンセプトのひとつである「地産地“循”」を体現するお店にしたい、と音成さん。

「チーズ製造の副産物としてホエイという液体が出るので、それをドリンクにしたり、煮詰めてブラウンチーズをつくったり。あとは生乳の低温殺菌やモッツァレラを練るときに必要な熱源には温泉を利用する。地熱を使った“ジオサーマル・ガストロノミー”みたいなことができないかなと考えています」

素材もエネルギーも、地域にあるものをなるべく活かし、付加価値をつけて届ける。そうすることで事業も、この地に根付いてきた文化も、持続可能なものにしていきたい。

 

「付加価値をつける」ために欠かせないのが、職人の技術。

今回募集する人は、ウェルカムでチーズ製造全般を統括している貞光さんのもとで学ぶことになる。一日のチーズづくりがひと段落した14時半ごろ、東京の工房からオンラインでつないでもらう。

新卒から飲食業界で経験を積んできた貞光さん。ウェルカムではじめてのチーズ職人として、道を切り拓いてきた。

「もともとものづくりは好きでした。だけど、とくにチーズが好きだったわけではなくて。やってみたらハマっていったんです」

どんなところに?

「うーん… 発酵、ですかね。目に見えない小さな生物の作用で形ができたり、味わいがつくられたり。一歩間違えたら腐っていっちゃう、紙一重な仕事なので。いかにいい環境で、いい菌だけを育てていくかが重要なんです」

牧場から生乳が届いたら、63℃で30分かけて低温殺菌。きれいになったミルクに乳酸菌を加える。

ある程度発酵が進んできたら、今度はレンネットと呼ばれる酵素を投下。やがてチーズのもととなる塊「カード」ができる。

このカードを切り分け、液体の副産物である「ホエイ」を抜いて固さを調整。型にはめて熟成させたり、熱湯につけながら練ることでモッツァレラができたり。

カードをつくるまでは概ねどのチーズも同じ工程で、そこから枝分かれしていくイメージなのだとか。

「酵素を入れるタイミングだったり、カードを切り分けるサイズ感、混ぜるときの力具合によって、まったく違うものになります。同じことを繰り返すだけでは、味は安定しないんです」

小国ジャージー牛乳を使って、これまでに2回試作。まだ完成には程遠いという。

「でも味はおいしいので、仕上がればすごくいいものができるっていう自信もあります」

殺菌から発酵、成形して完成に至るまで、だいたい7時間はかかる。つくり方やその日につくるチーズの種類にもよるものの、6時ごろに出勤して14時過ぎまで作業が続くのが日常とのこと。

「朝はそれなりに早いですし、20〜30kgの牛乳を毎日何本も運ぶので、体力仕事でもあります。慣れるまで大変だったのは、熱さですかね。モッツァレラって、カードに92℃の熱湯をかけて練るんです。我慢しすぎてやけどしてしまうこともありました」

チーズ職人になるまでも、飲食業界に身を置いてきた貞光さん。食べものをつくるという意味では近い分野だけれど、チーズづくりをはじめた当初はギャップを感じることもあった。

「飲食の世界では『お客さまの顔を想像しながらつくる』のがセオリーだと思うんです。でも食品製造業となると、少し感覚が違うというか」

「まずはこのチーズをいかにおいしくするか。このチーズが絶対にうまいってことになれば、お客さんもきっと喜ぶはずだ、っていう順番。目の前のものに向き合う感覚が強くなりましたね」

衛生に対する考え方も、以前よりシビアになった。手洗いや清掃はもちろん、菌として強い納豆は食べないなど。

ちょっとした変化が仕上がりを大きく左右するので、細かなことに気配りできる人が向いているのかもしれない。

「自分でちゃんと勉強できる人がいいと思います。人に聞く、本を読む。方法はなんでもいいけど、自分で深めていこうとできる人」

「クラフトビールやワインと比べて、チーズは国内でまだ小さなコミュニティです。お互いに高め合ってこの業界を盛り上げていこうよ、みたいな人も多くて。とくに九州はつくり手同士の仲がいいので、その輪に加われるといいですよね」

大学の先生を呼んで勉強会を開いたり、一緒に集まってチーズをつくったり。職人同士の交流の機会も多いそう。

およそ半年間の研修で身につくのは、あくまで基礎。その先も探究は続く。

九州をはじめ国内外のチーズ職人、さらには周辺の旅館やレストランとのつながりのなかでフィードバックを得ながら腕を磨いていけるのは、大きな魅力だと思う。

じつは貞光さん、今年の秋ごろにウェルカムから独立し、沖縄への移住を予定している。東京、京都に加えて、沖縄での研修の機会もありそうだ。

「もちろん、今回のプロジェクトには責任を持って伴走するので安心してください。一緒にチーズをつくったり、遠隔でアドバイスしたり。自分にとっても刺激になると思うので、楽しみですね」

 

最後に訪ねたのは、酪農家の高村さんのところ。黒川温泉から車で15分ほど離れた牧場で、およそ90頭のジャージー牛を育てている。

熊本は、北海道と岡山に次いで全国3位のジャージー牛乳生産地。

とはいえ、国内で飼育される乳牛のうち、ジャージー牛は1%にも満たない。一般的なホルスタイン種と同程度の餌を食べる割に搾乳量が少なく、飼育コストは1.4倍ほどかかるそう。

全国的に廃業する酪農家が増えるなかで、この地域では小国ジャージー牛乳のブランドを守ろうと酪農家たちが奮闘してきた。

乳脂肪分やタンパク質が豊富で、濃厚な味わい。そんなジャージー牛乳のなかでも、高村さんはより成分が濃く、甘い牛乳を目指している。

「うちの牛乳はどちらかというと嗜好品っていうイメージがあって。毎日ゴクゴク飲む牛乳じゃなく、たまに良か牛乳が飲みたい人に喜んでもらいたいと思ってるんですよ。そうなると自然に牧草中心の飼料になるとです」

牛に与える牧草はほとんど自家栽培。酪農の傍らで育てている米や野菜も、すべて乳酸菌等を使った特別な農法を取り入れている。

「耕作放棄地なども活用しながら、循環型農法での自家栽培にこだわっています。安全はもちろんのこと、『おいしか!』『甘か!』と思ってもらえる牛乳をつくりたいんです」

黒川の温泉街からほど近い場所で20年前から乳製品加工場や直営店も運営している高村さん。以前にチーズの製造販売を検討したこともあったものの、設備や技術が足りないことから断念していた。

「音成さんだったら安心してお願いできるので。小国のジャージー牛乳に新しい価値をつけて、一緒にブランドを守っていけたらと思っています」



よい素材と、想いをもった人たち、学び続けられる環境がここにはあると感じました。

それに黒川温泉はいいところ。朝早くから体を動かし、日が暮れる前に仕事を切り上げて温泉に浸かる。そんな働き方も気持ちいい。

チーズづくりを通じて、働く人にも地域にも、よい循環が生まれていきそうです。

(2026/07/03 取材 中川晃輔)

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