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やりたいことを仕事にする。最初から好きでたまらなかったことが仕事になることもあるし、やっているうちに、その仕事が好きになることもある。
けれども、好きな仕事だからといって、楽にできるというわけではない。
「直すっていうのはやっぱり楽しいんです。ボロボロの家具もちゃんと直すと、威風堂々とした佇まいになる。すごく手間がかかるんですけど、それでもやっぱりやりたくなるんですよね」
こう話してくれたのは、ライジングプレナーの岩間さんです。
ライジングプレナーではアンティーク家具を仕入れて修理し、「ラフジュ工房」などのウェブサイトで販売しています。
日本仕事百貨でも何度か紹介しているこの会社で、今回はカメラマンとして働く人を募集します。
今回聞いたのは、やりたいことを仕事にしている人たちの話です。
ライジングプレナーがあるのは茨城県常陸太田市。
上野から常磐線に揺られ、水戸で水郡線に乗り換える。窓から広がる景色は山と田畑、そのあいだに佇む民家。
常陸大宮駅から車で15分ほどの場所にある工房の入り口には、ちょうど仕入れたものが到着したようで、和洋問わずたくさんの家具が所狭しと並んでいる。
中では家具を修理するリペアスタッフ、着色、ワックスなどの仕上げを担うフィニッシング、できた家具の撮影をするカメラマンが黙々と作業をしている姿。
工房の横にある展示室で、まずは代表の岩間さんに話を聞かせてもらう。
骨董品屋で和箪笥を見つけ購入したのが、アンティーク家具との最初の出会い。
家の裏庭で修理をして、インターネットで販売しはじめるとあっという間にのめり込み、人を雇わないと回らないほどやることが増えていった。
「正直、うまくいかなかくなったら辞めてもらえばいいと思っていたんです。運がよかったのか、最初に入ってくれた2人が一生懸命働いてくれて。これはちゃんと商売にしないといけないと腹をくくりました」
それから9年。今では従業員は50人、家具の在庫は4000点を超える規模にまで大きくなった。
「インターネットでアンティーク家具を売っていくのは、小さな会社では難しいんです。みんなが満足するだけの給料を出すためにも、止まらずに、まだまだ大きくする必要があります。今でも毎日が真剣勝負ですよ」
規模が大きくなれば、その分責任も増えていく。会社や働く人たちのことを考えて、日々走り続けてきた。
最近はより多くの人が納得して働けるように、人事評価制度を導入。家具の修理だったら何時間でできるか。カメラマンだったら何点撮れるか。具体的な目標をつくることで、自分がどれくらい働けているのかを客観的にわかるようにした。
「少し堅苦しくなったように思うかもしれませんね。業務量をわかりやすく把握して、成果を客観的に見えるかたちで評価することで、安心して働ける職場になると思ったんです」
「俺自身が仕事にのめり込んでしまう性格だから、これまでは働く人にも同じ情熱を求める集団でした。でも人数が増えたら、仕事への考え方も多様化することがわかりました」
できる人が残っていくチームから、いろいろな考えの人がしっかり評価されて、確実に働ける職場へ。長く続いていくために、より働きやすい環境にしていきたい。
「でもね、最近あらためて考えてみたんです。どうして俺はここまで試行錯誤して、金をかけてまでこの仕事をやりたいんだろうって。必死すぎて忘れかけていたんだけど、やっぱりこれなんです」
そう言って見せてくれたのは、重厚感のある和箪笥。
買い取ったときにはボロボロの状態だったものを、手間をかけて丁寧に修理したそうだ。
「俺が本当に人生をかけてでもやりたいのは、日本の家具なんですよ。なんでかって言われたら、好きだからとしか言えないんですけど。とにかくこれが、俺の原点なんですよね」
「とくにこの時代箪笥って呼ばれるものが好きです。木と金具の感じといい、素朴で質実剛健というか。日本人らしさがにじみ出ていると思うんですよ。直っていく様をみるのが、本当にうれしいんです」
日本の古い家具は海外製のものに比べて、修理をするのに手間がかかる。和箪笥などをちゃんと使える状態にまで修理して販売する会社は、日本にも数えるほどしかないそうだ。
歴史や評価のポイントなど、箪笥の話を岩間さんはとても楽しそうに話してくれる。
そんな強い想いがある一方で、ライジングプレナーで運営しているECサイト「ラフジュ工房」では、日本のもの以外にも北欧やヨーロッパのアンティーク家具、ブランド家具と呼ばれるものも取り扱っている。
「お客さまは国にこだわらず、アンティーク家具を好きだっていう人が多いんです。いろいろなものを用意して選んでもらえたほうが、サイトを見に来てくれた方に喜んでもらえますよね。北欧のものを探していたんだけど、和箪笥が目に留まって購入してくださることもあるんですよ」
古くからあるものの良さを伝えるためにも、いろいろなことに積極的に取り組んできた。
たとえば洋風な部屋に似合いそうなこの白い本箱は、もともとボロボロの和製の本箱だったそう。
「今まではそういうのはナシかなって思ってたんですけどね。女性スタッフが塗ってみませんかって提案してくれて。反響がいいんですよ。アイディアを出してくれたら、まずはやってみようよっていうスタンスです」
実際にカメラマンとして働く受川さんも、日々考えながら働く人の1人。
出身は愛媛。絵を描くことが好きで、大学では美術を学んでいた。
「家が自営業で、祖父から父が当たり前のように受け継いで働いてる姿を見ていました。それもあって、仕事って別に好きなことをするものじゃないんだと思っていて。大学で好きな絵を描いて、卒業したらなんでもいいから働こう、くらいに考えていたんです」
卒業して、とりあえずアルバイトをはじめることに。
近所だからという理由で選んだ店は、わざわざ遠くから訪れる人もいる人気のカフェ。募集もしていないのに、ここで働きたいと目を輝かせて来る人を目にすることもあったそう。
「私はなにも考えずに、毎日パスタつくってたんです。カフェに来る人たちの姿を見ていているうちに、私なにやってるんだろうって思うようになって。お金をもらうのには、少しでも好きなことをやってないと駄目なんじゃないかって」
自分のできることで、社会に貢献できることはなんだろう。そう考えたときに思い出したのが、自分で撮った写真を褒められたことだった。
「撮ることは好きでした。限られた画角の中になにかを入れて演出するのは、私にとって絵を描くことと同じなんです。未経験からでもできるカメラの仕事を探して、ここに来たのが2年くらい前ですかね」
基本的な仕事は、フィニッシングが終わった家具の商品撮影。ECサイトに掲載するための決まったカットに加え、その家具の特徴を伝えるための写真を撮る。その後、画像の加工をするところまでが主な仕事。
「とにかくスピードが求められます。大きくて重い家具もあるので、どうすれば効率よく撮れるのかを考えるんです。やり方は任されているので、工夫をしていくのがおもしろいですよ」
その家具がどんなものなのか、いいところも悪いところも伝えるための写真。1日に7から15点ほどの商品を並べ、シャッターを切っていく。
それぞれの作業が黙々と進むなかにも、カメラ越しに家具を見る姿からはやさしさが感じられる。
「正直、もともとアンティーク家具が大好きというわけではありませんでした。でも目の前にものがあって触っているうちに、愛着が湧いてきます。日々考えながら、これを自分の仕事にできている実感があって。なんというか、仕事相手としてアンティーク家具が好きです」
この冬に人事制度が変わるまでは、その家具が商品として外に出していい状態にあるのか、検品するのもカメラマンの仕事だった。
1点1点同じものがないから、なにがライジングプレナーの商品として正解なのかを理解するまで、苦労をしたそうだ。
「天板に傷がついた古い机があって、社長に聞いたら『これはアンティークの味だから大丈夫』って言われたんです。翌日にブランド家具を撮っていたら天板に傷を見つけて。昨日と同じような傷だったから、大丈夫だと思って載せました」
「そしたら、アンティークとブランド家具は求められるものが違うんだって指摘を受けて。そのときは違いがわからなくて、すごく悔しかったですね。それからは社長にもリペアやフィニッシングにも、どうしてそういう判断をしたのか細かく聞くことを徹底しました」
1つ1つ違うものだから、マニュアルがあるわけではない。
お客さんが手に取ったときに嬉しいと思えるか、商品のことをちゃんと全部伝えられているのか。自分で考えて、周りのスタッフと相談しながら仕事を進めてきた。
今、商品の検品をはじめとして全体の品質管理を担っているのが、カメラマンとして働く人の上司であり、相談相手になる板谷さん。
受川さんと同じく関西出身ということもあって、会社の中でもよくしゃべるペアなんだそう。
商社や農家など、さまざまな経験をした後にここで働くことになった板谷さん。リペアスタッフとして働きはじめ、1年が経つころ、ふと先のことを考えるようになったそうだ。
「たとえば工房長として働いているスタッフは、僕が10年やっても追いつけない技術や器用さ、ものづくりに対しての熱意を持っていて。仕事は楽しくて好きだけど、正直自分はそこまでではありませんでした」
自分はこれからこの会社でどう働いていこう。そう考えて会社全体を見渡したとき、日々いそがしく動き回る岩間さんの姿が気になるようになった。
仕入れ、リペア、フィニッシングから撮影や値付け、広報、経理まで。当時は会社のすべての行程を岩間さんが見ている状況だった。人数も増えている中で、1人でやるには限界が来ているように見えた。
「俺でもできそうなところを、やりますって手を上げるようにしたんです。雑用をするようになってしばらく経ったとき、それまでなかった生産管理というポジションをつくってもらいました」
今では品質管理の全体のマネジメントを任されるようになった。この会社で働き続けるために、自分で役割をつくってきた。
「カメラマンもそうですけど、淡々と作業をする仕事が多いんです。俺しゃべるのが好きなんで、みんなと話をすることで横の連携を深める役割ができたらなって。相談しやすいヤツって、頼ってもらえるのが嬉しいんです」
「人事制度のほかにも、この会社は常に変化をしています。でも、本質的なことは変わらないと思うんです」
本質的なこと、ですか。
「本来捨てられてしまう家具をきれいな状態にして、世に出す。それがうちの会社の社会的責任なんでしょうね。直したものが売れていくのは嬉しいですよ」
やりたいと思うことする。ここにいたい思う場所で働く。
ライジングプレナーで働く人たちは、そのために考えて、自分で仕事をつくっているように見えました。
決して楽なことではないけれど、とても楽しい仕事だと思います。
(2017/5/23 中嶋希実)